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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜
6.子供と大人
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クリスティーナはマランと共にトーマのもとへと走る。神経質になっている相手にこの行動は合っているのか疑問だが、マランに問いかける間もない。トーマはポカンとした顔をして、クリスティーナたちがやってくるのを見ていた。
「マラン兄ちゃん、どうしたの? 冒険者紹介所には行かないよ」
「ああ、それで構わないよ。お前にこの子を紹介しようと思っただけだ」
マランは呼吸を整えながら嬉しそうに言う。トーマの様子からマランのことは信頼していることが分かった。しかし、初対面のクリスティーナと目が合うと、途端に警戒の色を見せる。
「はじめまして、クリスティーナよ。よろしくね」
「ドリコリン伯爵家のお姫様なんだ。治癒魔法を勉強中だから、君の怪我で練習させてほしいんだって」
「姫様?」
トーマは胡散臭そうにクリスティーナを見る。今日はガスパールの服を借りて着ているので、気持ちは分からなくない。
「見習いだから、お金は取らないわ。悪化させることはないと思うし、やらせてくれないかしら?」
「無料で治癒魔法をかけるの? 君って馬鹿? 治癒魔法がどれだけ貴重なのかも分からないの?」
トーマは小馬鹿にするようにクリスティーナを見上げてくる。少しムカッとしたが顔には出さな……別に我慢することもない気がして、クリスティーナはトーマを睨みつけた。
「少なくとも、あなたよりは理解しているわ」
「ほんと? 治癒魔法には魔法の素質が必要だし、覚えるための魔法契約には少なくないお金がかかる。それに修行しないと効果が上がらないんだよ。無料で手軽にかけて良いものじゃない」
クリスティーナはトーマにハキハキと説明されて口ごもる。
実際にトーマの言う通りだ。今回の災害で活躍した治癒魔法師には、伯爵領の予算から少なくない謝礼が出る。伯爵領から費用が出るのは生死を分けたと判断される患者だけで、自ら治療を望んだ者には本人に支払い義務がある。治癒魔法は高価で予算には限りがあるため苦渋の決断だ。
それでも、クリスティーナは引く気はない。伯爵におねだりして、ありとあらゆる魔法の契約をしていることは、この際おいておく。『お兄様だけ狡い!』の一言だけで我儘を通したのだから、いくらかかったのか今さら聞くのは怖い。クリスティーナに払われるはずの謝礼は伯爵に返したほうが良いだろう。
クリスティーナは気持ちで負けないように胸を張った。
「あなたって馬鹿なの? 効果を上げる修行のためには怪我人が必要なのよ。それとも私が誰かをわざと怪我させて練習しているとでも思ったの?」
「は?」
「ごめんね。子供に難しいことは分からないわよね。もしかして、治癒魔法が怖いのかしら? まだ子供なんだもの。しょうがないわよね」
クリスティーナは『子供』を強調してニッコリ笑う。もう怪我をしてるとか、保護者を失ったばかりだからとか関係ない。クリスティーナは子供たちと模擬戦をするときと同じ挑発を言い放った。
もちろん、子供相手に本気になったわけでは決してない。あくまで作戦だ。たとえ得意分野で馬鹿にされたとしても、クリスティーナは大人だから怒ったりしない。大事なことだからもう一度言う。あくまで作戦だ。
トーマは怒りで顔を真っ赤にして立ち上がる。
「僕は怖くない。治癒魔法ぐらい、いくらでも受けてやるよ! それに僕はもう八歳だ。子供じゃない!!」
「言ったわね。じゃあ、さっさと座りなさい」
クリスティーナが勝ち誇ったように言うと、トーマはしまったというような顔をする。悔しそうな顔をしながらも大人しくもう一度座った。
クリスティーナは傷だらけの身体に治癒魔法をかけ始める。こんなに酷くても無料治療の対象にならないのだから辛い。
「君だって、子供じゃないか……」
トーマが悔しそうに呟く。
「失礼ね。私は十歳だから、あなたと違って大人よ!」
黙って見ていたマランが吹き出してしまったが、クリスティーナは気にしない。赤くなった顔を見られないように、黙々と治療を続けた。
トーマはしばらく強張った顔をしていたが、治療が進んでいくと痛みが減ったのか力を抜く。そのうちウトウトしだして眠ってしまった。
『痛みで眠れてないようだから』
マランの言葉が頭を過ぎる。
「ありがとう。姫様にしか使えない良い手だったと思うよ」
治療が終わると、マランが眠るトーマを抱き上げながら言う。心からの感謝が伝わってくるが、マランがまだ笑っていてクリスティーナはなんとなく素直に喜べなかった。
「マラン兄ちゃん、どうしたの? 冒険者紹介所には行かないよ」
「ああ、それで構わないよ。お前にこの子を紹介しようと思っただけだ」
マランは呼吸を整えながら嬉しそうに言う。トーマの様子からマランのことは信頼していることが分かった。しかし、初対面のクリスティーナと目が合うと、途端に警戒の色を見せる。
「はじめまして、クリスティーナよ。よろしくね」
「ドリコリン伯爵家のお姫様なんだ。治癒魔法を勉強中だから、君の怪我で練習させてほしいんだって」
「姫様?」
トーマは胡散臭そうにクリスティーナを見る。今日はガスパールの服を借りて着ているので、気持ちは分からなくない。
「見習いだから、お金は取らないわ。悪化させることはないと思うし、やらせてくれないかしら?」
「無料で治癒魔法をかけるの? 君って馬鹿? 治癒魔法がどれだけ貴重なのかも分からないの?」
トーマは小馬鹿にするようにクリスティーナを見上げてくる。少しムカッとしたが顔には出さな……別に我慢することもない気がして、クリスティーナはトーマを睨みつけた。
「少なくとも、あなたよりは理解しているわ」
「ほんと? 治癒魔法には魔法の素質が必要だし、覚えるための魔法契約には少なくないお金がかかる。それに修行しないと効果が上がらないんだよ。無料で手軽にかけて良いものじゃない」
クリスティーナはトーマにハキハキと説明されて口ごもる。
実際にトーマの言う通りだ。今回の災害で活躍した治癒魔法師には、伯爵領の予算から少なくない謝礼が出る。伯爵領から費用が出るのは生死を分けたと判断される患者だけで、自ら治療を望んだ者には本人に支払い義務がある。治癒魔法は高価で予算には限りがあるため苦渋の決断だ。
それでも、クリスティーナは引く気はない。伯爵におねだりして、ありとあらゆる魔法の契約をしていることは、この際おいておく。『お兄様だけ狡い!』の一言だけで我儘を通したのだから、いくらかかったのか今さら聞くのは怖い。クリスティーナに払われるはずの謝礼は伯爵に返したほうが良いだろう。
クリスティーナは気持ちで負けないように胸を張った。
「あなたって馬鹿なの? 効果を上げる修行のためには怪我人が必要なのよ。それとも私が誰かをわざと怪我させて練習しているとでも思ったの?」
「は?」
「ごめんね。子供に難しいことは分からないわよね。もしかして、治癒魔法が怖いのかしら? まだ子供なんだもの。しょうがないわよね」
クリスティーナは『子供』を強調してニッコリ笑う。もう怪我をしてるとか、保護者を失ったばかりだからとか関係ない。クリスティーナは子供たちと模擬戦をするときと同じ挑発を言い放った。
もちろん、子供相手に本気になったわけでは決してない。あくまで作戦だ。たとえ得意分野で馬鹿にされたとしても、クリスティーナは大人だから怒ったりしない。大事なことだからもう一度言う。あくまで作戦だ。
トーマは怒りで顔を真っ赤にして立ち上がる。
「僕は怖くない。治癒魔法ぐらい、いくらでも受けてやるよ! それに僕はもう八歳だ。子供じゃない!!」
「言ったわね。じゃあ、さっさと座りなさい」
クリスティーナが勝ち誇ったように言うと、トーマはしまったというような顔をする。悔しそうな顔をしながらも大人しくもう一度座った。
クリスティーナは傷だらけの身体に治癒魔法をかけ始める。こんなに酷くても無料治療の対象にならないのだから辛い。
「君だって、子供じゃないか……」
トーマが悔しそうに呟く。
「失礼ね。私は十歳だから、あなたと違って大人よ!」
黙って見ていたマランが吹き出してしまったが、クリスティーナは気にしない。赤くなった顔を見られないように、黙々と治療を続けた。
トーマはしばらく強張った顔をしていたが、治療が進んでいくと痛みが減ったのか力を抜く。そのうちウトウトしだして眠ってしまった。
『痛みで眠れてないようだから』
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「ありがとう。姫様にしか使えない良い手だったと思うよ」
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