【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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番外編:幼い日の記憶 〜二人の出会いの物語〜

7.冒険者

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 数日後、クリスティーは普段行かない冒険者用の装備を売る地域にやってきていた。そこで冒険者紹介所で聞いたお店に入り、ムキムキの男性に混ざって防具一式を揃える。家から持ち出しを禁止されている弓矢も新調した。

 意外なことだが、この地域には10歳のクリスティーナにもピッタリの装備が売られていた。庶民の中には親と一緒に子供の頃から冒険者をする者もいるらしい。そういえば、紹介所で見かけたことがあると思い出して納得する。


 クリスティーナは真新しい装備を付けて、冒険者紹介所に入る。魔獣災害で怪我をした者も多いので、いつもの賑わいはなく閑散としていた。

「冒険者登録をお願いします」

「本気だったんだね」

「当然です」

 受付の男性が困った顔をする。冒険者紹介所は国からは独立した機関だ。貴族であっても深く干渉することは難しい。それでも、街にある施設であるし、治癒魔法の件で通っているため、クリスティーナの素性は知っている。  

 かなり迷った様子だったが、結局この場で登録してくれることになった。紹介所は冒険者の経歴や生まれで差別しないのが信条だ。治癒魔法の実績から実力不足だと言うわけにもいかず、断る正当な理由がなかったのだろう。
 
「では、こちらが冒険者カードになります」

「ありがとうございます」

 クリスティーナは手のひらに収まるカードを手に取る。これで冒険者の仲間入りだ。

 紹介所は冒険者の秘密を守らないと信用問題になる。そのため、ドリコリン伯爵にバレる心配もない。伯爵家の使用人たちは、クリスティーナが孤児院にいると思っている。冒険者で稼いだお金で今まで通り食材を買って孤児院に持っていけば嘘にはならない。

 クリスティーナが冒険者になったのは、魔獣討伐の実践経験を積むためだ。しばらくは家族に内緒で活動し、実績が溜まり冒険者カードに成果が刻まれたら報告するつもりでいる。クリスティーナは小さかったので覚えてないが、ガスパールはもっと幼い頃から魔獣と戦っていたと聞くし、無謀なことではないはずだ。

「どんな依頼を受けようかしら?」

 紹介所の壁には護衛任務や採取任務に混ざって、ドリコリン伯爵騎士団からの依頼が貼られている。比較的弱いうさぎの魔獣やネズミの魔獣の討伐依頼もあった。これならクリスティーナにもこなせるだろう。

「この依頼を受けます」

 クリスティーナはうさぎの魔獣の討伐依頼書を持って受付に戻った。

「良かった。森の奥に行くわけじゃないんだね。討伐隊が入ったあとだから、いつもより魔獣は少ないと思う。それでも、油断しては駄目だよ」

「はい! 気をつけます」

 クリスティーナは紹介所の人たちに見送られ街の門に向かう。門では伯爵騎士団が街への出入りを監視していた。

「新人冒険者か。無理はするなよ」

「はい!」

 クリスティーナはなるべく低い声で返事をする。心配そうにじっくり観察されてヒヤヒヤしたが、クリスティーナは全身冒険者の装備で固め、口元や髪も隠している。さすがに伯爵騎士団の者にも正体はバレなかった。

「初日だから、奥には行かないほうがいいわよね」

 もし怪我でもしたら、使用人たちの監視の目も増えてしまう。治癒魔法で治しても、使用人たちに囲まれた令嬢の生活では誤魔化しきれない。クリスティーナは森の入口付近の木に隠れてジッと待った。

 しばらくそうしていると、遠くにウサギの魔獣の姿を確認する。クリスティーナは木の後ろに半分隠れたまま、弓に矢をつがえてウサギの方向に放った。

 生きた生物を相手にするのは初めてだが、動く的での訓練は護身のために組まれた練習でいつも行っている。クリスティーナは得意の風魔法を使って矢をぐんぐんと加速させた。

「動かないで!」

 標的のうさぎが動き出して、クリスティーナは慌てて風魔法の制御を高める。ウサギの手前で急に曲がった矢は見事にクリスティーナの狙った場所に刺さった。

「ちょっと強引だったかしら?」

 クリスティーナは息絶えたウサギの魔獣から矢を抜きながら反省する。こんなに魔法を使うなら、どう考えても矢を使わずに風魔法で直接倒したほうが早い。

「魔力はたくさんあるし、どっちでも良いわよね」

 あまり美しい倒し方ではなかったが、記念すべき最初の成果だ。クリスティーナは苦戦しながら本で読んだ通りに血抜きをし、今日買ったばかりの麻袋に入れて背中に背負った。
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