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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
3.パーティ
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クリスティーナたちは無事に王都に到着した。久しぶりの王都で、慌ただしく過ごしているうちに、パーティ当日を迎える。
クリスティーナは早朝から準備をして、迎えに来たブルクハルトとともに王宮へと向かった。そのままエスコートされて、パーティ会場へと入場する。
「すごい人ね」
「新成人の家族や婚約者なんかも来ているからな」
会場を見回すと、洗練された雰囲気の貴族子女で溢れている。気のせいかあちこちから殺気とは違う視線を感じて居心地が悪い。
「ハルト、私の格好おかしくない? 何か見られている気がするの」
「会場内で一番可愛いよ。みんな、ティーナに見惚れてるだけだろう?」
「そんなことを言うのは、ハルトだけよ」
ブルクハルトの意見は、婚約者への気遣いか偏りすぎていて参考にもならない。
今日のクリスティーナは、ブルクハルトに贈られた青いドレスを着ている。とっても素敵なドレスで好みにぴったり合っているが、令嬢らしくないクリスティーナに似合っているのかは自信がない。
「他の男に褒められたら、ちゃんと俺に報告しろよ」
「褒められるわけな……お兄様にさっき褒めてもらったわ」
クリスティーナは女性に囲まれて、嫌そうな顔をしているガスパールに視線を向けた。このパーティで結婚相手を探す者も多いので、竜騎士なのに婚約者もいないガスパールは大人気だ。自身の成人のとき以来の参加なのでなおさらだろう。
ガスパールは社交に積極的ではないため、王都のパーティにはほとんど出席していない。それなのに、クリスティーナを心配して駆けつけてくれている。
「お兄様、相変わらず格好良いわ。あの格好で赤龍に乗ってほしかったな」
ガスパールはキラキラの金髪によく似合う式典用の騎士服を着ている。今朝早くに赤龍に乗って屋敷に到着したときには普段着だった。その格好で赤龍に乗っているのも珍しくて良い。だが、到着がパーティ当日だったので、パーティに出る服装で来るのではないかと少し期待していたのだ。
「ティーナは相変わらず、ガスパールさんが大好きだよな。ちょっと、妬ける」
ブルクハルトが耳元で囁くので、クリスティーナの頬に熱が集まる。直後に周囲から感嘆のため息が漏れ聞こえてきた。
「どうしよう。ハルトのことも狙っている人がいるみたい」
クリスティーナは小さな声で言って、ブルクハルトに身体を寄せる。クリスティーナなりの精一杯の牽制だ。
「どう考えても、俺じゃないだろ……いや、このままで良いか」
「何? 気になる事があるなら言ってよ」
不安になって周囲を見回すが、クリスティーナを見る女性たちの視線に敵意はなさそうだ。むしろ友好的に見えて、ホッと息を吐く。
「そうしてると噂通りの深窓の令嬢に見えるぞ」
「噂って何?」
ブルクハルトはただクスクスと笑っている。クリスティーナが不満を訴えるように見上げても、笑いを引っ込めてはくれなかった。
「……今年はこの後に青龍の竜騎士選定試験も控えている。君たち若い世代の活躍を期待しているぞ」
国王の挨拶が終わると、華やかな音楽の演奏が始まる。ダンスの時間だ。クリスティーナはブルクハルトと二曲踊って、その後にガスパールとも一曲踊った。
「少し休憩するか?」
「はい、お兄様」
クリスティーナは、ガスパールの気遣いに勢いよく頷いた。体力は有り余っているが、人の視線が気になって気力が削がれてしまっている。クリスティーナはなるべく見られないように壁際に寄った。
……
「お兄様、ハルトがどこに行ったか知らない?」
クリスティーナが休憩を始めてから時間が経ち、会場に流れる曲も何度も変わっている。それなのに、ブルクハルトはダンス後に別れたきりで戻って来ていない。
「そのうち戻ってくるから気にするな」
「でも……」
ブルクハルトが他の令嬢と仲良く話しているのかと思うと悲しくなる。クリスティーナは探しに行きたかったが、ガスパールは動きそうにない。
普段なら一人で探しに行くところだが、先程からクリスティーナと踊りたいと言う男性が度々やって来るのだ。まとわり付くような視線に慣れず、そのたびにオロオロしてしまう。ガスパールが代わりに断ってくれているので、今は一人になりたくない。パーティ会場で嫌なことを言われても、拳で返事をすることは許されない。
クリスティーナはブルクハルトがダンスの輪の中にいないことを確認して、ガスパールから受け取った果実水を飲んだ。
冷静になるとガスパールに話しかけたそうな令嬢がたくさんいる。クリスティーナがガスパールの出会いを邪魔している気がする。
「お兄様は婚約者を探さなくて良いの?」
「大丈夫だ。この中から探す気はない」
ガスパールがいつもより大きな声で言うので、近くにいた令嬢たちががっかりした顔をして去っていく。やはり、ガスパールに声をかけるタイミングを探していたのだろう。
クリスティーナは申し訳ない気持ちになりながら、令嬢たちの後ろ姿を見送った。クリスティーナが、ガスパールの妹だと分かる容姿でなかったら、それこそ拳で会話をする事態になっていたかもしれない。
「そろそろだな」
「そろそろ?」
ガスパールはクリスティーナの質問には答えず、手を差し伸べてくる。クリスティーナはよくわからないまま、ガスパールにエスコートされて庭園に出た。パーティは昼過ぎから始まったので、空はまだ明るい。
他の参加者たちも続々と庭園に集まって来た。
パンパンパン
火魔法を使った合図がなると、後方から歓声があがる。歓声の中心に視線を向けると、見慣れた青龍の姿があった。
ハルト……
王宮の別の庭園から飛び立った青龍は、そのまま街の中心地に向かって飛んでいく。王宮は高台にあるので、人々が国旗を振って青龍を迎えているのが見えた。
「竜騎士選定試験がある年には、毎回パーティの最後にその龍が飛ぶんだ」
「お兄様が選ばれた年には、お兄様の相棒になった赤龍が飛んだのね」
「ああ、そうだ。私も王都の屋敷から見ていたよ」
ガスパールから思った通りの言葉が聞けて、クリスティーナは笑顔で空を見上げる。
(やっぱり、今年はハルトの相棒を決めるのね)
青龍の竜騎士を決めるということは事前に発表されていた。ただ、それがブルクハルトである確証はクリスティーナにもなかった。情報が少ない中で婚約者として学んだヴェロキラ一族の家系図から、成人の歳に相棒の竜騎士を選んでいるのではないかと推測しただけだ。
「その様子だと、竜騎士選定試験をやめる気はないようだな」
「もちろんよ」
「お前の立場を考えて、引き際は間違えるなよ」
「分かっているわ」
ガスパールは諦めた顔でクリスティーナを見ている。説得しても無駄だと分かっているのだろう。
もちろん、ブルクハルトの相棒を決める選定試験だと確定したのに、クリスティーナが受験をやめる訳がない。クリスティーナは気合を入れて、青龍の姿を見つめた。
クリスティーナは早朝から準備をして、迎えに来たブルクハルトとともに王宮へと向かった。そのままエスコートされて、パーティ会場へと入場する。
「すごい人ね」
「新成人の家族や婚約者なんかも来ているからな」
会場を見回すと、洗練された雰囲気の貴族子女で溢れている。気のせいかあちこちから殺気とは違う視線を感じて居心地が悪い。
「ハルト、私の格好おかしくない? 何か見られている気がするの」
「会場内で一番可愛いよ。みんな、ティーナに見惚れてるだけだろう?」
「そんなことを言うのは、ハルトだけよ」
ブルクハルトの意見は、婚約者への気遣いか偏りすぎていて参考にもならない。
今日のクリスティーナは、ブルクハルトに贈られた青いドレスを着ている。とっても素敵なドレスで好みにぴったり合っているが、令嬢らしくないクリスティーナに似合っているのかは自信がない。
「他の男に褒められたら、ちゃんと俺に報告しろよ」
「褒められるわけな……お兄様にさっき褒めてもらったわ」
クリスティーナは女性に囲まれて、嫌そうな顔をしているガスパールに視線を向けた。このパーティで結婚相手を探す者も多いので、竜騎士なのに婚約者もいないガスパールは大人気だ。自身の成人のとき以来の参加なのでなおさらだろう。
ガスパールは社交に積極的ではないため、王都のパーティにはほとんど出席していない。それなのに、クリスティーナを心配して駆けつけてくれている。
「お兄様、相変わらず格好良いわ。あの格好で赤龍に乗ってほしかったな」
ガスパールはキラキラの金髪によく似合う式典用の騎士服を着ている。今朝早くに赤龍に乗って屋敷に到着したときには普段着だった。その格好で赤龍に乗っているのも珍しくて良い。だが、到着がパーティ当日だったので、パーティに出る服装で来るのではないかと少し期待していたのだ。
「ティーナは相変わらず、ガスパールさんが大好きだよな。ちょっと、妬ける」
ブルクハルトが耳元で囁くので、クリスティーナの頬に熱が集まる。直後に周囲から感嘆のため息が漏れ聞こえてきた。
「どうしよう。ハルトのことも狙っている人がいるみたい」
クリスティーナは小さな声で言って、ブルクハルトに身体を寄せる。クリスティーナなりの精一杯の牽制だ。
「どう考えても、俺じゃないだろ……いや、このままで良いか」
「何? 気になる事があるなら言ってよ」
不安になって周囲を見回すが、クリスティーナを見る女性たちの視線に敵意はなさそうだ。むしろ友好的に見えて、ホッと息を吐く。
「そうしてると噂通りの深窓の令嬢に見えるぞ」
「噂って何?」
ブルクハルトはただクスクスと笑っている。クリスティーナが不満を訴えるように見上げても、笑いを引っ込めてはくれなかった。
「……今年はこの後に青龍の竜騎士選定試験も控えている。君たち若い世代の活躍を期待しているぞ」
国王の挨拶が終わると、華やかな音楽の演奏が始まる。ダンスの時間だ。クリスティーナはブルクハルトと二曲踊って、その後にガスパールとも一曲踊った。
「少し休憩するか?」
「はい、お兄様」
クリスティーナは、ガスパールの気遣いに勢いよく頷いた。体力は有り余っているが、人の視線が気になって気力が削がれてしまっている。クリスティーナはなるべく見られないように壁際に寄った。
……
「お兄様、ハルトがどこに行ったか知らない?」
クリスティーナが休憩を始めてから時間が経ち、会場に流れる曲も何度も変わっている。それなのに、ブルクハルトはダンス後に別れたきりで戻って来ていない。
「そのうち戻ってくるから気にするな」
「でも……」
ブルクハルトが他の令嬢と仲良く話しているのかと思うと悲しくなる。クリスティーナは探しに行きたかったが、ガスパールは動きそうにない。
普段なら一人で探しに行くところだが、先程からクリスティーナと踊りたいと言う男性が度々やって来るのだ。まとわり付くような視線に慣れず、そのたびにオロオロしてしまう。ガスパールが代わりに断ってくれているので、今は一人になりたくない。パーティ会場で嫌なことを言われても、拳で返事をすることは許されない。
クリスティーナはブルクハルトがダンスの輪の中にいないことを確認して、ガスパールから受け取った果実水を飲んだ。
冷静になるとガスパールに話しかけたそうな令嬢がたくさんいる。クリスティーナがガスパールの出会いを邪魔している気がする。
「お兄様は婚約者を探さなくて良いの?」
「大丈夫だ。この中から探す気はない」
ガスパールがいつもより大きな声で言うので、近くにいた令嬢たちががっかりした顔をして去っていく。やはり、ガスパールに声をかけるタイミングを探していたのだろう。
クリスティーナは申し訳ない気持ちになりながら、令嬢たちの後ろ姿を見送った。クリスティーナが、ガスパールの妹だと分かる容姿でなかったら、それこそ拳で会話をする事態になっていたかもしれない。
「そろそろだな」
「そろそろ?」
ガスパールはクリスティーナの質問には答えず、手を差し伸べてくる。クリスティーナはよくわからないまま、ガスパールにエスコートされて庭園に出た。パーティは昼過ぎから始まったので、空はまだ明るい。
他の参加者たちも続々と庭園に集まって来た。
パンパンパン
火魔法を使った合図がなると、後方から歓声があがる。歓声の中心に視線を向けると、見慣れた青龍の姿があった。
ハルト……
王宮の別の庭園から飛び立った青龍は、そのまま街の中心地に向かって飛んでいく。王宮は高台にあるので、人々が国旗を振って青龍を迎えているのが見えた。
「竜騎士選定試験がある年には、毎回パーティの最後にその龍が飛ぶんだ」
「お兄様が選ばれた年には、お兄様の相棒になった赤龍が飛んだのね」
「ああ、そうだ。私も王都の屋敷から見ていたよ」
ガスパールから思った通りの言葉が聞けて、クリスティーナは笑顔で空を見上げる。
(やっぱり、今年はハルトの相棒を決めるのね)
青龍の竜騎士を決めるということは事前に発表されていた。ただ、それがブルクハルトである確証はクリスティーナにもなかった。情報が少ない中で婚約者として学んだヴェロキラ一族の家系図から、成人の歳に相棒の竜騎士を選んでいるのではないかと推測しただけだ。
「その様子だと、竜騎士選定試験をやめる気はないようだな」
「もちろんよ」
「お前の立場を考えて、引き際は間違えるなよ」
「分かっているわ」
ガスパールは諦めた顔でクリスティーナを見ている。説得しても無駄だと分かっているのだろう。
もちろん、ブルクハルトの相棒を決める選定試験だと確定したのに、クリスティーナが受験をやめる訳がない。クリスティーナは気合を入れて、青龍の姿を見つめた。
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