【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

文字の大きさ
50 / 72
番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる

3.パーティ

しおりを挟む
 クリスティーナたちは無事に王都に到着した。久しぶりの王都で、慌ただしく過ごしているうちに、パーティ当日を迎える。

 クリスティーナは早朝から準備をして、迎えに来たブルクハルトとともに王宮へと向かった。そのままエスコートされて、パーティ会場へと入場する。

「すごい人ね」

「新成人の家族や婚約者なんかも来ているからな」

 会場を見回すと、洗練された雰囲気の貴族子女で溢れている。気のせいかあちこちから殺気とは違う視線を感じて居心地が悪い。

「ハルト、私の格好おかしくない? 何か見られている気がするの」

「会場内で一番可愛いよ。みんな、ティーナに見惚れてるだけだろう?」

「そんなことを言うのは、ハルトだけよ」

 ブルクハルトの意見は、婚約者への気遣いか偏りすぎていて参考にもならない。

 今日のクリスティーナは、ブルクハルトに贈られた青いドレスを着ている。とっても素敵なドレスで好みにぴったり合っているが、令嬢らしくないクリスティーナに似合っているのかは自信がない。

「他の男に褒められたら、ちゃんと俺に報告しろよ」

「褒められるわけな……お兄様にさっき褒めてもらったわ」

 クリスティーナは女性に囲まれて、嫌そうな顔をしているガスパールに視線を向けた。このパーティで結婚相手を探す者も多いので、竜騎士なのに婚約者もいないガスパールは大人気だ。自身の成人のとき以来の参加なのでなおさらだろう。

 ガスパールは社交に積極的ではないため、王都のパーティにはほとんど出席していない。それなのに、クリスティーナを心配して駆けつけてくれている。

「お兄様、相変わらず格好良いわ。あの格好で赤龍に乗ってほしかったな」

 ガスパールはキラキラの金髪によく似合う式典用の騎士服を着ている。今朝早くに赤龍に乗って屋敷に到着したときには普段着だった。その格好で赤龍に乗っているのも珍しくて良い。だが、到着がパーティ当日だったので、パーティに出る服装で来るのではないかと少し期待していたのだ。

「ティーナは相変わらず、ガスパールさんが大好きだよな。ちょっと、妬ける」

 ブルクハルトが耳元で囁くので、クリスティーナの頬に熱が集まる。直後に周囲から感嘆のため息が漏れ聞こえてきた。

「どうしよう。ハルトのことも狙っている人がいるみたい」

 クリスティーナは小さな声で言って、ブルクハルトに身体を寄せる。クリスティーナなりの精一杯の牽制だ。

「どう考えても、俺じゃないだろ……いや、このままで良いか」

「何? 気になる事があるなら言ってよ」

 不安になって周囲を見回すが、クリスティーナを見る女性たちの視線に敵意はなさそうだ。むしろ友好的に見えて、ホッと息を吐く。

「そうしてると噂通りの深窓の令嬢に見えるぞ」

「噂って何?」

 ブルクハルトはただクスクスと笑っている。クリスティーナが不満を訴えるように見上げても、笑いを引っ込めてはくれなかった。


「……今年はこの後に青龍の竜騎士選定試験も控えている。君たち若い世代の活躍を期待しているぞ」

 国王の挨拶が終わると、華やかな音楽の演奏が始まる。ダンスの時間だ。クリスティーナはブルクハルトと二曲踊って、その後にガスパールとも一曲踊った。

「少し休憩するか?」

「はい、お兄様」

 クリスティーナは、ガスパールの気遣いに勢いよく頷いた。体力は有り余っているが、人の視線が気になって気力が削がれてしまっている。クリスティーナはなるべく見られないように壁際に寄った。

 ……

「お兄様、ハルトがどこに行ったか知らない?」

 クリスティーナが休憩を始めてから時間が経ち、会場に流れる曲も何度も変わっている。それなのに、ブルクハルトはダンス後に別れたきりで戻って来ていない。

「そのうち戻ってくるから気にするな」

「でも……」

 ブルクハルトが他の令嬢と仲良く話しているのかと思うと悲しくなる。クリスティーナは探しに行きたかったが、ガスパールは動きそうにない。

 普段なら一人で探しに行くところだが、先程からクリスティーナと踊りたいと言う男性が度々やって来るのだ。まとわり付くような視線に慣れず、そのたびにオロオロしてしまう。ガスパールが代わりに断ってくれているので、今は一人になりたくない。パーティ会場で嫌なことを言われても、拳で返事をすることは許されない。

 クリスティーナはブルクハルトがダンスの輪の中にいないことを確認して、ガスパールから受け取った果実水を飲んだ。

 冷静になるとガスパールに話しかけたそうな令嬢がたくさんいる。クリスティーナがガスパールの出会いを邪魔している気がする。

「お兄様は婚約者を探さなくて良いの?」

「大丈夫だ。この中から探す気はない」

 ガスパールがいつもより大きな声で言うので、近くにいた令嬢たちががっかりした顔をして去っていく。やはり、ガスパールに声をかけるタイミングを探していたのだろう。

 クリスティーナは申し訳ない気持ちになりながら、令嬢たちの後ろ姿を見送った。クリスティーナが、ガスパールの妹だと分かる容姿でなかったら、それこそ拳で会話をする事態になっていたかもしれない。

「そろそろだな」

「そろそろ?」

 ガスパールはクリスティーナの質問には答えず、手を差し伸べてくる。クリスティーナはよくわからないまま、ガスパールにエスコートされて庭園に出た。パーティは昼過ぎから始まったので、空はまだ明るい。

 他の参加者たちも続々と庭園に集まって来た。

 パンパンパン

 火魔法を使った合図がなると、後方から歓声があがる。歓声の中心に視線を向けると、見慣れた青龍の姿があった。

 ハルト……

 王宮の別の庭園から飛び立った青龍は、そのまま街の中心地に向かって飛んでいく。王宮は高台にあるので、人々が国旗を振って青龍を迎えているのが見えた。

「竜騎士選定試験がある年には、毎回パーティの最後にその龍が飛ぶんだ」

「お兄様が選ばれた年には、お兄様の相棒になった赤龍が飛んだのね」

「ああ、そうだ。私も王都の屋敷から見ていたよ」

 ガスパールから思った通りの言葉が聞けて、クリスティーナは笑顔で空を見上げる。

(やっぱり、今年はハルトの相棒を決めるのね)

 青龍の竜騎士を決めるということは事前に発表されていた。ただ、それがブルクハルトである確証はクリスティーナにもなかった。情報が少ない中で婚約者として学んだヴェロキラ一族の家系図から、成人の歳に相棒の竜騎士を選んでいるのではないかと推測しただけだ。

「その様子だと、竜騎士選定試験をやめる気はないようだな」

「もちろんよ」

「お前の立場を考えて、引き際は間違えるなよ」

「分かっているわ」

 ガスパールは諦めた顔でクリスティーナを見ている。説得しても無駄だと分かっているのだろう。

 もちろん、ブルクハルトの相棒を決める選定試験だと確定したのに、クリスティーナが受験をやめる訳がない。クリスティーナは気合を入れて、青龍の姿を見つめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

幸せな番が微笑みながら願うこと

矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。 まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。 だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。 竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。 ※設定はゆるいです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

処理中です...