【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる

4.選定試験

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 竜騎士選定試験は、想像以上の賑わいだった。クリスティーナより実力のある騎士ももちろんいた。

 クリスティーナは試験の翌日に使者だと名乗るガスパールから合格通知をもらったが、合格した理由はよく分からない。

 試験については、ほとんどの情報が秘匿されている。ガスパールに聞いても、選考方法は話せないの一言しか返ってこなかった。

 それに、合格と言っても竜騎士に決まったわけではない。最終試験はヴェロキラ辺境伯領で行われるらしい。

 クリスティーナは領地に戻って準備を整えてから、辺境伯領へとすぐに向かった。


「ティナちゃん、いらっしゃい」

「今日からお世話になります」

 クリスティーナがヴェロキラ辺境伯家の屋敷に着くと、辺境伯夫人が出迎えてくれる。送り届けてくれたガスパールは、そのまま竜騎士団に合流すると言うので玄関先で別れた。

「いつもの部屋を用意しているから使ってね。ブルクハルトもそのうち戻って来ると思うの。疲れているでしょうから、今日はゆっくりすると良いわ」

「ありがとうございます」

 夫人とはその場で別れ、クリスティーナは侍女のベレニスの案内で屋敷の中を歩く。ベレニスは、クリスティーナが辺境伯家に滞在するたびにお世話になっている侍女だ。クリスティーナが結婚して嫁いで来たあとも、仕えてくれることに決まっている。

「ベレニスは、私以外に何人が泊まるか聞いている?」

 受験者は、この屋敷に滞在して竜騎士が決まるまで過ごすと聞いている。そのせいか、いつもより慌ただしい雰囲気だ。

「男性のお客様がお一人いらっしゃると聞いています。ティナお嬢様のお部屋とは離してありますので安心してお過ごし下さい。坊ちゃまのご指示で警備は完璧です」

 ベレニスが笑顔で教えてくれる。想定とは違う情報が入っていた気がするが、とにかく竜騎士候補はクリスティーナを含めて二人らしい。

「どうぞ、お入りください」

 通された客間は、いつも通りクリスティーナの好みに整えられていた。家具は使い慣れたお気に入りのものが置かれているが、壁紙やクッションは成人を祝ってか大人っぽい雰囲気に変わっている。

「素敵ね」

「好みに合わないところがありましたら仰って下さい。ご結婚後のお部屋の参考にさせて頂きますわ」 

「ありがとう。とっても気に入ったわ」

 ベレニスはクリスティーナの反応に嬉しそうに微笑む。

 クリスティーナはソファに落ち着いて、お茶を飲んでのんびりと過ごした。ベレニスの淹れてくれたハーブティーは爽やかな香りがして、旅の疲れを癒やしてくれる。最高のもてなしだ。

 貴族令嬢の結婚は同じ政略結婚でも、夫やその家族の態度でかなり生活が変わってくるという。そう考えると、クリスティーナはかなり恵まれていると思う。


 クリスティーナが持ち込んだ本を読んで寛いでいると、ブルクハルトが部屋にやってきた。

「ティーナ、出迎えられなくて悪い」  

 そう言いながら、クリスティーナの隣にドカリと座る。ブルクハルトの顔には疲れが滲んでいた。

「気にしなくて大丈夫よ。ここに来て平気なの?」

「ああ、急ぎの仕事は終わらせてきた。ジュリアンさんの出迎えに間に合って良かったよ」

「ジュリアンさん?」

 出迎えがなくても気にしないが、知らない誰かより軽く扱われると傷つく。クリスティーナがムスッとしてブルクハルトを見ると、楽しそうに頬をツンツンと突かれた。

「ジュリアンさんは、青龍の竜騎士候補だよ。俺とティーナとジュリアンさんが最終候補に選ばれたんだ」

「ふーん、そうなのね」

 ブルクハルトは目を泳がせていたが、気づかない振りをする。ブルクハルトが嘘をつくときの癖だが、今回は竜騎士候補者に自分の名前を入れたことだろうか。

 ブルクハルトは部屋に入ってきたときから緊張感が漂っていた。これは、クリスティーナが竜騎士候補に残ったせいかもしれない。ちょっと、申し訳なくなってしまう。

「ジュリアンさんは王都騎士団の副隊長をしてるんだ。ティーナも選定試験のときに会ったはずだが、覚えてるか?」

「かなりの人数と対戦したし、名前だけでは思い出せないわ」

「そうか? 剣の腕が良いから目立ってたぞ。その……見た目も女性好みだと思う」

 ブルクハルトはそんなふうに言ってクリスティーナを見てくる。クリスティーナの目の前でライバルを褒めるのはやめてほしい。ブルクハルトが竜騎士になれるわけがないので、実質クリスティーナとジュリアンの一騎打ちだ。

「ジュリアン様がそろそろお見えになるようです」

 クリスティーナがムスッとしていると、ブルクハルトの侍従が知らせにやってくる。

「そうか、ありがとう。ティーナ、出迎えに行こう」

「私も行って良いの?」

 ブルクハルトが手を差し伸べてくれているが、クリスティーナはその手を取るべきか悩む。お客様を出迎えるのは、この屋敷に暮らす身内の役目だ。

「俺の婚約者なんだし問題ないだろう? 嫌か?」

「そんなことないわ。私も行く」


 クリスティーナたちが玄関に向かうと、そこにはすでに辺境伯と夫人が揃っていた。二人を前にすると、自分だけ場違いな気がしてクリスティーナは緊張してくる。

「ティナちゃん、聞いたかしら? とっても見目の良い青年らしいわよ」

「私がいる前で何を言い出すんだ」

 辺境伯夫婦はクリスティーナの存在を当たり前のように受け入れてくれた。

「あら、いやね。ただの目の保養じゃない」

 夫人は辺境伯をからかうようにクスリと笑う。仲の良い二人はクリスティーナの憧れだ。

「お見えになりました」

 すぐにジュリアンを乗せた馬車の到着が告げられる。クリスティーナも辺境伯家の一員としてジュリアンを出迎えた。

「しばらく、お世話になります」

 クリスティーナのライバルは、歩き方だけで強い騎士だと分かる。
 
「他は身内ばかりで申し訳ないが、君も自分の家だと思って寛いでくれ」

 身内……

 辺境伯がジュリアンに言った言葉で、クリスティーナの頬が緩む。ブルクハルトの家族もクリスティーナを身内だと認めてくれている。ブルクハルトがジュリアンを優先したことが、逆に良いことのように思えた。
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