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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
6.後悔
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魔獣が大きな氷の塊に覆われた頃、赤龍が悲しそうな唸り声をあげる。その声を聞いて、やっとブルクハルトが氷を吐き出すのをやめた。クリスティーナは落ち着きを取り戻したブルクハルトの背中で体勢を整える。
「今日はこのくらいで良いだろう。お前たちは先に帰れ」
「はい……」
ガスパールの言葉に、クリスティーナはなんとか返事をする。ブルクハルトのラピスラズリ色の瞳がクリスティーナを心配そうに見ていたが、笑顔を返す余裕はなかった。
ブルクハルトは演習場に向けてゆっくりと飛んでいたが、途中で思い直したように方向を変えた。クリスティーナが降ろされたのは、ヴェロキラ辺境伯家の裏庭だった。
「送ってくれてありがとう」
クリスティーナは竜騎士候補者の仕事中なので、本来なら演習場に戻ってガスパールたちの帰還を待つべきだ。
もう候補者とすら思われていない。ブルクハルトの優しさからそれを読み取って、クリスティーナは悲しくなった。
「お別れの挨拶もしてくれないの?」
このまま人間の姿に戻ってくれたなら……せめて、会話だけでもしたい。そう思って青龍のお腹に抱きつくが、ブルクハルトはされるがままで、何も反応してくれなかった。
クリスティーナがトボトボと屋敷に入ると、ベレニスが出迎えてくれる。それを見届けて安心したのか、青龍が空に飛び立った。どこかで人間の姿になってから再び戻って来るつもりなのだろう。
「ティナお嬢様。お湯も溜めておりますので、ゆっくりなさってください」
「ありがとう」
クリスティーナが落ち込んでいるのを察してか、ベレニスの声がいつもより優しい。クリスティーナがぼんやりとそんなことを考えていると、ベレニスを中心とした使用人たちに浴室で磨き上げられて、気がついたら令嬢らしいワンピースを着せられていた。
ブルクハルトと出かけた日に一緒に選んだ、クリスティーナのお気に入りだ。楽しかった思い出がよみがえって泣きそうになる。
「少しだけ一人にしてくれる?」
クリスティーナがそう言うと、ベレニスたちは静かに頭を下げて部屋を出ていく。クリスティーナは一人になったのを確認して、ソファに沈み込むように座った。
ブルクハルトは、いつでもクリスティーナを守ってくれていた。それなのに、どうして竜騎士になって対等に戦えると思えたのだろう。竜騎士を目指した理由も、秘密を明かしてほしいとか、戦闘に向かうときに置いていかれたくないとか、自分勝手なものばかりだ。
クリスティーナは浅はかすぎる行動に気づいて、自分を責めた。
『お前の立場を考えて、引き際は間違えるなよ』
パーティ会場でガスパールに言われた言葉が、今更心に突き刺さる。クリスティーナは政略結婚により、次期辺境伯夫人となる予定だ。それはブルクハルトの妻という意味だけでなく、彼が不在の時に辺境伯領を守る大切な役割を持つ。
竜騎士団は、表向きドリコリン伯爵が率いていることになっているが、ヴェロキラ辺境伯も裏では青龍として動いているのだろう。辺境伯はクリスティーナの竜騎士選定試験以降の行動を見て、どう思っただろう?
軽率な行動を叱責されるだけで済めば良い。万が一、竜騎士だけでなく、政略結婚の相手としても失格だと言われたら……
クリスティーナは不安になって立ち上がる。ブルクハルトはもう帰ってきているだろうか? それなら、会って相談したい。ひどく甘えた考えだが、ブルクハルトなら一緒に辺境伯に謝ってくれるはずだ。
「なんて言って相談するの?」
今までの行動の理由を聞かれれば、青龍の秘密を知っていると話さなければならなくなる。今のクリスティーナにうまい言い訳は思いつきそうにない。ブルクハルトは嫌な気持ちにならないだろうか。ブルクハルトに嫌われてしまったら……
クリスティーナは目眩がして、もう一度座り込む。どうにか呼吸を整えていると、扉をノックされてヴェロキラ辺境伯の執事がやってきた。辺境伯から話があると言う。
「すぐに伺います!」
「体調がお悪いなら、旦那様にそのようにお伝えしますよ」
執事が言うには、クリスティーナの顔が真っ青らしい。後日にするよう進言すると言ってくれたが、このまま中途半端でいる方が怖い。クリスティーナはなんとか気持ちを立て直して、辺境伯の待つ書斎に向かった。
「今日はこのくらいで良いだろう。お前たちは先に帰れ」
「はい……」
ガスパールの言葉に、クリスティーナはなんとか返事をする。ブルクハルトのラピスラズリ色の瞳がクリスティーナを心配そうに見ていたが、笑顔を返す余裕はなかった。
ブルクハルトは演習場に向けてゆっくりと飛んでいたが、途中で思い直したように方向を変えた。クリスティーナが降ろされたのは、ヴェロキラ辺境伯家の裏庭だった。
「送ってくれてありがとう」
クリスティーナは竜騎士候補者の仕事中なので、本来なら演習場に戻ってガスパールたちの帰還を待つべきだ。
もう候補者とすら思われていない。ブルクハルトの優しさからそれを読み取って、クリスティーナは悲しくなった。
「お別れの挨拶もしてくれないの?」
このまま人間の姿に戻ってくれたなら……せめて、会話だけでもしたい。そう思って青龍のお腹に抱きつくが、ブルクハルトはされるがままで、何も反応してくれなかった。
クリスティーナがトボトボと屋敷に入ると、ベレニスが出迎えてくれる。それを見届けて安心したのか、青龍が空に飛び立った。どこかで人間の姿になってから再び戻って来るつもりなのだろう。
「ティナお嬢様。お湯も溜めておりますので、ゆっくりなさってください」
「ありがとう」
クリスティーナが落ち込んでいるのを察してか、ベレニスの声がいつもより優しい。クリスティーナがぼんやりとそんなことを考えていると、ベレニスを中心とした使用人たちに浴室で磨き上げられて、気がついたら令嬢らしいワンピースを着せられていた。
ブルクハルトと出かけた日に一緒に選んだ、クリスティーナのお気に入りだ。楽しかった思い出がよみがえって泣きそうになる。
「少しだけ一人にしてくれる?」
クリスティーナがそう言うと、ベレニスたちは静かに頭を下げて部屋を出ていく。クリスティーナは一人になったのを確認して、ソファに沈み込むように座った。
ブルクハルトは、いつでもクリスティーナを守ってくれていた。それなのに、どうして竜騎士になって対等に戦えると思えたのだろう。竜騎士を目指した理由も、秘密を明かしてほしいとか、戦闘に向かうときに置いていかれたくないとか、自分勝手なものばかりだ。
クリスティーナは浅はかすぎる行動に気づいて、自分を責めた。
『お前の立場を考えて、引き際は間違えるなよ』
パーティ会場でガスパールに言われた言葉が、今更心に突き刺さる。クリスティーナは政略結婚により、次期辺境伯夫人となる予定だ。それはブルクハルトの妻という意味だけでなく、彼が不在の時に辺境伯領を守る大切な役割を持つ。
竜騎士団は、表向きドリコリン伯爵が率いていることになっているが、ヴェロキラ辺境伯も裏では青龍として動いているのだろう。辺境伯はクリスティーナの竜騎士選定試験以降の行動を見て、どう思っただろう?
軽率な行動を叱責されるだけで済めば良い。万が一、竜騎士だけでなく、政略結婚の相手としても失格だと言われたら……
クリスティーナは不安になって立ち上がる。ブルクハルトはもう帰ってきているだろうか? それなら、会って相談したい。ひどく甘えた考えだが、ブルクハルトなら一緒に辺境伯に謝ってくれるはずだ。
「なんて言って相談するの?」
今までの行動の理由を聞かれれば、青龍の秘密を知っていると話さなければならなくなる。今のクリスティーナにうまい言い訳は思いつきそうにない。ブルクハルトは嫌な気持ちにならないだろうか。ブルクハルトに嫌われてしまったら……
クリスティーナは目眩がして、もう一度座り込む。どうにか呼吸を整えていると、扉をノックされてヴェロキラ辺境伯の執事がやってきた。辺境伯から話があると言う。
「すぐに伺います!」
「体調がお悪いなら、旦那様にそのようにお伝えしますよ」
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