【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる

7.根底

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 クリスティーナが書斎に入ると辺境伯と伯爵だけでなく、ブルクハルトも深刻な顔で待っていた。竜騎士の話をするだけなら、ブルクハルトが同席する理由はない。先に三人で相談して、ブルクハルトが婚約解消を了承してしまったのだとしたら……先程の不安が過ぎって息がしづらい。

 クリスティーナは伯爵令嬢の矜持で、なんとか取り乱さずにソファに座った。


「……以上ですか?」

 クリスティーナの覚悟に反して、話は竜騎士候補を外れるということだけだった。隠さなくても良いと言うように辺境伯と伯爵を見るが、困った顔を返される。

「そのつもりだが……何か他にもあったかな?」

 クリスティーナは恐る恐るブルクハルトを見るが、首を傾げるだけだ。

「いえ、何もないなら良いのです。私は失礼します」

「お疲れ様」 

 クリスティーナは騎士らしく礼を取りそのまま部屋を出た。婚約を解消しないで済んだのだろうか。それとも、クリスティーナが内心取り乱していたことを三人に隠せなかったせいで、通達が先送りになったのだろうか。混乱していて頭が上手く働かない。

「ティーナ?」

 呼ばれた気がして振り返ると、ブルクハルトがすぐ後ろに立っていた。心配するように見つめられて涙が滲む。

「大丈夫か?」

 ブルクハルトが苦しそうな顔をして、ハンカチを差し出してくる。

「ティーナの実力は俺も認めているから、あんまり落ち込むなよ。今回は……その、竜との相性の問題というか……」

 ブルクハルトの言葉を聞いて、クリスティーナの肩が勝手にビクッと震えた。

『竜との相性の問題』

 それはつまり、ブルクハルトとの相性ということで……

「ティーナ?」

 ブルクハルトはクリスティーナと合わないと感じているのだろうか。頭がクラクラしてきて、立っているのも辛い。何も知りたくない。何も考えたくない。それでも、やっぱり知りたい。

「ティーナ、大丈夫か?」

「……それって、私とは相性が悪いってこと?」 

 クリスティーナは理解したくない言葉をなんとか口にする。直後にブルクハルトに抱きしめられて、うまく呼吸できていなかった事を知った。

「ティーナ、相性が悪かったわけじゃないよ。一緒に戦うには向かなかったってだけだ……ごめん、慰めにもなってないな」

 クリスティーナの背中を、ブルクハルトがゆっくりと撫でてくれている。それだけで、気持ちが徐々に落ち着いてきた。『戦うのには向かなかった』と言うなら、竜騎士を諦めれば今まで通りそばにいてくれるのだろうか。

 クリスティーナは不安で、ブルクハルトに縋るようにしがみつく。

「私……ハルトの婚約者でいていいのかな?」

 クリスティーナは恐る恐る聞いた。

「は? なんでそんなことを聞くんだ。婚約と竜騎士の件はまったく関係ないだろう?」

 ブルクハルトは身体を離して、クリスティーナを観察するように見てくる。ブルクハルトは困惑した表情を浮かべていて、まったく想定していなかったという雰囲気だ。

「私、ハルトとの婚約が政略的なものだなんて思いたくないの。ハルトも私との結婚を心から望んでくれてるって思っていい?」
 
 クリスティーナは念押しするように聞いて、祈るようにブルクハルトを見上げた。ずっと、怖くて口に出せなかった言葉だ。

「あ、ああ。もちろんだ。当たり前だろう?」

 ブルクハルトはあまりにあっさりと肯定した。混乱するクリスティーナでさえ、疑う余地がない。それでようやく安心することができた。

「ハルト……」

 クリスティーナが身体を寄せると、ブルクハルトは包むこむように抱きしめてくれる。クリスティーナの自惚れではない。ちゃんとブルクハルトはクリスティーナを大切に思ってくれている。抱きしめられていると、そのことが当たり前のように理解できた。

 どうやら、クリスティーナが一人で勘違いして動揺していただけのようだ。疲れているときには難しい事を考えるべきではない。

 クリスティーナはブルクハルトの背中に腕を回してギュッと抱きしめ返す。

「急にどうした? 最近、竜騎士のことで忙しくて出掛けられなかったから不安にでもなったのか?」

「違っ……ううん、そうなのかも。ごめんね、ちょっと弱気になっちゃった」

 クリスティーナは否定しかけて思い直す。かなり的外れだが、すべての始まりはそこにあるのかもしれない。

 小さい頃はいつでもそばにいてくれた。しかし、ここ数年はブルクハルトも忙しく、会える回数が減っていたのだ。クリスティーナが早く秘密を知りたいと焦ったのも、結婚の延期だけではなく、会えない不安が根底にあったのかもしれない。
 
「俺の方こそ不安にさせてごめんな。落ち着いたら二人で出掛けよう。ティーナの行きたいところに連れてくよ」

 ブルクハルトはそう言って、クリスティーナの頭を撫でる。ブルクハルトの意見を肯定はしたものの、それだけで片付けられるのは違う気がする。

 ブルクハルトはクリスティーナに秘密を持っている自覚はあるのだろうか。そんなものがなければ、ここまで不安にはならなかった。八つ当たりだと思われるかもしれないが、やはり納得がいかない。

 クリスティーナはブルクハルトのホッとした顔を見て、つい拳を軽く出してしまったが仕方ないことだったと思う。
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