【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる

8.お茶会

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 数日後、クリスティーナはヴェロキラ辺境伯家の屋敷で暇を持て余していた。クリスティーナは試験が終わったのでドリコリン伯爵領へ帰るつもりでいた。しかし、皆に引き留められてしまったのだ。

 書斎で竜騎士不合格を告げられた際の様子から、父である伯爵はクリスティーナを伯爵家に一人で居させることに不安を持ったようだ。

『婚約を解消されると勘違いしただけなんです』

『そんなふうに考える時点で一人になんて出来ないよ。ブルクハルトくんが、ティナを手放すなんてありえないだろう?』

 クリスティーナは事情を話したのに、伯爵には納得してもらえなかった。どうやら、周囲から見ると婚約解消はありえないことだったらしい。そんなわけで、伯爵が王都の会議から戻って来るまで、引き続き辺境伯家でお世話になっている。

「やることがないわ」

 ブルクハルトも昨日までは何かしら理由をつけてそばにいてくれた。しかし、今日は昼から出かけていていないのだ。本人は辺境伯騎士団で訓練をしてくると言っていたが、事実でないことは知っている。

 今日はジュリアンの初めての実戦日なのだ。実際のブルクハルトは青龍として、ジュリアンと行動しているのだろう。


「ティナお嬢様。奥様がお茶を一緒にどうかと仰っています」

「『ぜひ伺います』と伝えてくれる?」

 しばらくぼんやりしていると、そんな誘いがベレニスから伝えられた。クリスティーナはラピスラズリ色のドレスに着替えて、夫人お気に入りの部屋に向かう。

「いらっしゃい」

「お誘いありがとうございます」

 夫人の笑顔に出迎えられて、クリスティーナは珍しく令嬢らしい挨拶を返した。 

 窓が大きく見晴らしの良い部屋からは、雲一つない青空が見える。この天気なら、ジュリアンとの実戦訓練も安心して行えていることだろう。

「ティナちゃん、気持ちは落ち着いたかしら?」

 会話が一段落したところで夫人にそんなふうに切り出された。

「はい。本当に勘違いしただけなので大丈夫です」

 夫人とはクリスティーナの実戦前に会ったきりだった。書斎でのことは辺境伯から伝わっていたのだろう。クリスティーナは顔を赤くしながら、伯爵にした説明を繰り返す。客観的にあの日のことを思い出せるようになった今は、フラれると思って取り乱したと説明するのは非常に恥ずかしい。しかも、相手はブルクハルトの母親である辺境伯夫人だ。

「伯爵もいらっしゃらないし、素直な気持ちを聞けたらと思ったのだけれど……その様子だと本当なのね」  

「ご心配おかけしてすみません」

「良いのよ。うちのブルクハルトのことを大事に思ってくれてありがとう」

「え、えっと……」

 クリスティーナが慌てると、夫人はクスリと笑う。恥ずかしすぎるが否定も出来ずに、クリスティーナは誤魔化すようにお茶を飲んだ。

「あの子もあなたの事を何よりも大切に思っているわ。だから、もう少しだけ待ってあげてね」

「お義母様。それは、どういう意味ですか?」

 クリスティーナが聞いても、夫人は妖艶な笑みを浮かべるだけだ。夫人には、クリスティーナが青龍の秘密を知っていることが伝わっているのだろうか。クリスティーナは確認もできないので、動揺を隠してビスケットを口に運ぶ。


 しばらく談笑していると、ノックもなく扉が勢いよく開けられた。入ってきたのはブルクハルトの弟のヒューゴで、ものすごく焦っているのが分かる。

「ヒューゴ、あなた……」

「母上、緊急事態です。辺境の結界が破れるかもしれないと、エッカルト兄さんから連絡が入りました!」

 ヒューゴは、夫人の声を遮るように話し出す。ヒューゴの言葉で和やかだった部屋に緊張が走る。使用人が数人、慌てた様子で部屋を出ていった。緊急時に取るべき行動が、すでに指示されているのだろう。 
 
『辺境の結界が破れる』

 ヴェロキラ辺境伯領において、最大級の危機だ。結界の向こう側には、ドリコリン伯爵領の森とは比べものにならない強さの魔獣がウジャウジャいる。

「どういうことかしら?」

「それが……王都騎士団の人間が結界の外に出ているみたいなんです。結界外で魔獣と戦闘中の者が、数十人いると報告が入っています」

 ヒューゴに詳しい話を聞くと、どんなに上手くやっても結界は破れてしまいそうだった。クリスティーナには、この状況で結界を守る方法が思いつかない。

 今日のジュリアンと青龍の実戦には、ガスパールと赤龍が付き添うと言っていた。エッカルトから報告があったと言うことは、現場にはブルクハルトとガスパールもいるのだろう。

「私、着替えてきます!」

「ティナちゃん。この状況であなたを屋敷から出すわけにはいかないわよ。それは分かってね」

「……はい。でも、できる限りの準備だけはさせて下さい」

 今のクリスティーナは、伯爵領で魔獣災害があった十歳の頃のように無力ではない。辺境伯領で行われる大規模討伐のときに、後方で治療にあたったこともあるのだ。伯爵と連絡が取れれば、現場に向かう許可を得られるかもしれない。それは駄目だと言われても、怪我人が屋敷に運ばれて来る可能性は十分にある。

「分かったわ」

「すみません。行ってきます」

 夫人は詳しく説明せずとも理解してくれたようだ。クリスティーナはそのまま部屋を飛び出して、自分に与えられた客室へと走った。
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