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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる
19.辺境伯騎士団
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翌日の早朝、クリスティーナは辺境伯領内の冒険者紹介所に向かった。街の中は普段とは異なり、一般の人の姿はほとんどない。巡回の騎士も険しい顔をしていて、クリスティーナも『危ないから家に入るように』と注意された。冒険者の身分証を見せると納得してくれたので、その後は身分証を首から分かりやすくさげて歩く。
紹介所に入ると、他の地域から集まって来たのか、大きな荷物を抱えた冒険者で賑わっていた。大きな魔獣災害時は報酬が跳ね上がる。それを目当てに旅をしながら冒険者をしている人たちだろう。
「ドリコリン伯爵領で活動している治癒魔法師のティナです。辺境伯騎士団の募集を見てきました」
「君が?」
受付の若い男性はクリスティーナを疑うように見てから、身分証を確認して驚いた顔をした。初対面の者にはよくある反応だ。クリスティーナは高い魔力のおかげで貴重な治癒魔法を贅沢に使えるので、普通の冒険者と違い肌がツルツルで傷一つない。クリスティーナの唯一の自慢だ。
クリスティーナはこの紹介所にも、普段からブルクハルトと共に出入りしている。この反応は今回のことで臨時で雇われた人間だからだろう。ドリコリン伯爵領とは違い、領民にまでは顔を知られていない。
「治癒魔法師はあまり他から来ていないんだ。助かるよ。でも、君みたいな子が乱暴な者の多い騎士団なんかに行って大丈夫かい?」
「辺境伯の騎士は乱暴なんかじゃないですよ」
辺境伯騎士団はブルクハルトが修行のために、最近まで所属していた場所だ。つい反論してしまったが、こういう災害時に気が立って乱暴になる者も出るのは、どこの騎士団でもある事実だ。
「何か怖い目に合いそうになったら、すぐに逃げるんだよ」
「はい、十分気をつけます」
クリスティーナが剣に手をかけると男性は小さく頷いた。救護班からは離れないほうが良いだろう。ブルクハルトの心配が現実味を帯びて心の中で詫びる。事件とは関係ないところで怪我人を出さないためにも気をつけなくてはならない。魔獣ばかり相手にしているので手加減は苦手だ。
クリスティーナに紹介所から渡された地図は、辺境伯騎士団の砦を示していた。街に近いところに病院もあるが、運べない者を診てほしいということだろう。外の人間を砦に入れることになるが、対魔獣用の砦なのでその辺りは緩いのかもしれない。
「冒険者紹介所から来ました」
「君が冒険者をしているのか?」
クリスティーナは受付の男性と同じような視線を受けながら、砦の中に入る。案内された場所には多勢の怪我人が収容されていた。部屋にはベッドもなく、怪我人は床の毛布の上に寝かされている。怪我人が多すぎて看護の人間が通る通路もすれ違うのがやっとだ。
「冒険者紹介所から来ました治癒魔法師のティナです。所属はドリコリン伯爵領で、ランクはBです。よろしくお願いします」
「ドリコリンのBか……足を引っ張るなよ」
「はい、頑張ります!」
この部屋の救護責任者は残念そうな顔で吐き捨てるように言った。冒険者にはランクがあり、上からS、A、B……Fまである。認定された地域でも差があるが、Bは一人で高度な治療ができるようになったばかりの駆け出しのランクだ。クリスティーナは強力すぎる捏ねでドリコリン伯爵騎士団に混ざって大規模討伐に参加して経験を積んだ。しかし、それはもちろん異例の行動で、冒険者のランクには反映されていない。
「まずはこの三人の治療を頼む。その結果しだいで仕事を割り振らせてもらう」
「はい、了解です」
クリスティーナは患者の症状や治療実績の書かれた紙を三枚受け取った。治癒魔法師が足りず、いずれの人物も縫合や固定などの治療のみがなされているようだ。今朝から発熱と書かれており、そのために治癒魔法の優先順位が高くなったのだろう。
ただ、緊急を要する症状は見当たらない。ベッドなどは足りていないが、治療は滞りなく進んでいるということだろうか。
「治癒魔法師のティナです。治療させて頂きます」
クリスティーナは、赤い顔でぼんやり見上げてくる患者に声をかけて、治癒魔法を開始する。治癒魔法を軽くかけたつもりが、思った以上に効いて驚いた。竜人相手に治癒魔法を使い続けたおかげで技術があがったようだ。
「お任せして大丈夫そうですね。次は隣の部屋にいる者をお願いします」
「分かりました」
クリスティーナが一人目の治療を終えたところで、救護責任者の言葉遣いが変わる。残り二名の紙は回収されてしまった。まずは症状の軽い者でお試しだったのだろう。舐められた気がして嫌だが、態度に目を瞑れば責任者としては妥当なやり方だ。
クリスティーナは冒険者ランクを早急に上げるべきか悩みながら、責任者が一筆書いた紙を持って隣の部屋に移動した。
紹介所に入ると、他の地域から集まって来たのか、大きな荷物を抱えた冒険者で賑わっていた。大きな魔獣災害時は報酬が跳ね上がる。それを目当てに旅をしながら冒険者をしている人たちだろう。
「ドリコリン伯爵領で活動している治癒魔法師のティナです。辺境伯騎士団の募集を見てきました」
「君が?」
受付の若い男性はクリスティーナを疑うように見てから、身分証を確認して驚いた顔をした。初対面の者にはよくある反応だ。クリスティーナは高い魔力のおかげで貴重な治癒魔法を贅沢に使えるので、普通の冒険者と違い肌がツルツルで傷一つない。クリスティーナの唯一の自慢だ。
クリスティーナはこの紹介所にも、普段からブルクハルトと共に出入りしている。この反応は今回のことで臨時で雇われた人間だからだろう。ドリコリン伯爵領とは違い、領民にまでは顔を知られていない。
「治癒魔法師はあまり他から来ていないんだ。助かるよ。でも、君みたいな子が乱暴な者の多い騎士団なんかに行って大丈夫かい?」
「辺境伯の騎士は乱暴なんかじゃないですよ」
辺境伯騎士団はブルクハルトが修行のために、最近まで所属していた場所だ。つい反論してしまったが、こういう災害時に気が立って乱暴になる者も出るのは、どこの騎士団でもある事実だ。
「何か怖い目に合いそうになったら、すぐに逃げるんだよ」
「はい、十分気をつけます」
クリスティーナが剣に手をかけると男性は小さく頷いた。救護班からは離れないほうが良いだろう。ブルクハルトの心配が現実味を帯びて心の中で詫びる。事件とは関係ないところで怪我人を出さないためにも気をつけなくてはならない。魔獣ばかり相手にしているので手加減は苦手だ。
クリスティーナに紹介所から渡された地図は、辺境伯騎士団の砦を示していた。街に近いところに病院もあるが、運べない者を診てほしいということだろう。外の人間を砦に入れることになるが、対魔獣用の砦なのでその辺りは緩いのかもしれない。
「冒険者紹介所から来ました」
「君が冒険者をしているのか?」
クリスティーナは受付の男性と同じような視線を受けながら、砦の中に入る。案内された場所には多勢の怪我人が収容されていた。部屋にはベッドもなく、怪我人は床の毛布の上に寝かされている。怪我人が多すぎて看護の人間が通る通路もすれ違うのがやっとだ。
「冒険者紹介所から来ました治癒魔法師のティナです。所属はドリコリン伯爵領で、ランクはBです。よろしくお願いします」
「ドリコリンのBか……足を引っ張るなよ」
「はい、頑張ります!」
この部屋の救護責任者は残念そうな顔で吐き捨てるように言った。冒険者にはランクがあり、上からS、A、B……Fまである。認定された地域でも差があるが、Bは一人で高度な治療ができるようになったばかりの駆け出しのランクだ。クリスティーナは強力すぎる捏ねでドリコリン伯爵騎士団に混ざって大規模討伐に参加して経験を積んだ。しかし、それはもちろん異例の行動で、冒険者のランクには反映されていない。
「まずはこの三人の治療を頼む。その結果しだいで仕事を割り振らせてもらう」
「はい、了解です」
クリスティーナは患者の症状や治療実績の書かれた紙を三枚受け取った。治癒魔法師が足りず、いずれの人物も縫合や固定などの治療のみがなされているようだ。今朝から発熱と書かれており、そのために治癒魔法の優先順位が高くなったのだろう。
ただ、緊急を要する症状は見当たらない。ベッドなどは足りていないが、治療は滞りなく進んでいるということだろうか。
「治癒魔法師のティナです。治療させて頂きます」
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「お任せして大丈夫そうですね。次は隣の部屋にいる者をお願いします」
「分かりました」
クリスティーナが一人目の治療を終えたところで、救護責任者の言葉遣いが変わる。残り二名の紙は回収されてしまった。まずは症状の軽い者でお試しだったのだろう。舐められた気がして嫌だが、態度に目を瞑れば責任者としては妥当なやり方だ。
クリスティーナは冒険者ランクを早急に上げるべきか悩みながら、責任者が一筆書いた紙を持って隣の部屋に移動した。
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