【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ

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番外編Ⅱ:婚約者が青龍であることを隠してる

20.現状

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 クリスティーナは隣の部屋に入って息を呑む。

 部屋には簡素なベッドがぎっしり並べられており、明らかに重症だと分かる患者が二人ずつ横たわっていた。大規模討伐当日でも、これだけの人数の重症者が出ることはない。

 治癒魔法師はこの部屋に集められているようで、数カ所で魔法が使われていた。その中には辺境伯家でブルクハルトを診てくれた老齢の医師も混ざっている。

「先生?」

「これはティナお嬢様。あなたがいらして下さると心強いですな」

 老齢の医師は救護班の前隊長らしい。前隊長は治癒魔法を続けながら、せっかく引退したのに、かり出されてしまったと豪快に笑った。

「隊長、この方は?」

 この部屋の責任者と思われる隊員が困惑気味に近づいてくる。

「これこれ、わしはただの助っ人で隊長ではないぞ。このお方は……」

 前隊長は悩んだ様子でクリスティーナを見る。どこまで話すべきか思案してくれているのだろう。クリスティーナは先程の部屋で貰ったメモを責任者に渡す。

「ドリコリン伯爵領所属の冒険者でティナと申します。先生には婚約者の治療をして頂いたご縁があり、ご挨拶させて頂いておりました」

「わしは診察を担当しただけだがな。婚約者はティナさん自身が治療されたんだ。わしが彼女の実力を保証する。わしの孫だと思って大切に扱いなさい」

「畏まりました。ティナさんよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 ティナは責任者の男性に説明を受けてから、早速治療を開始する。重症患者の枕元には治療記録が置いてあり、治癒魔法をかけたら署名をする仕組みらしい。早い話がこの部屋にいる全員が治癒魔法を優先してかける必要がある者ということだ。

「驚かれましたかな?」 

 責任者が去ると、前隊長が治療しながら声をかけてくる。

「えっと……」

「辺境伯騎士団に治癒魔法師がいないわけではないですよ。治療が進んでいないのは、まだ交戦中だからです」

 前隊長の話では、現役の騎士団の治癒魔法師は、大半が隊員たちとともに討伐隊に組み込まれているらしい。市街地に向かっていたと思われる魔獣は昨日までに一掃された。しかし、多くの魔獣が一度に結界を出たため、比較的弱い魔獣は森の中に逃げ込んだ可能性が高い。

「ドリコリン伯爵領は大丈夫かしら……」

「伯爵様が対処されていると思いますぞ」

 その森はドリコリン伯爵領へと続いている。結界から出た魔獣は弱くとも当然普段生息する魔獣よりは強い。伯爵領の冒険者はなれていないし、自分の目で見るのも初めてという者も多い。大規模討伐に参加している伯爵騎士団が主軸で動いているのだろう。

「てっきり、うちの騎士団もこちらに増援として来ているのかと思っていました。なかなか厳しい状況ですね」

「残念ながら否定できませんな。王都からも騎士団がこちらに向かっていると聞いています。もうひと踏ん張りですな」

「はい」

 クリスティーナは治癒魔法をかけながら周囲を改めて見回す。救護所に入ったときから感じていたが、看護する者に騎士服を着た者が少ない。多くが私服の女性で、患者の家族もいるだろうが、市民が協力していることが見て取れた。


 クリスティーナが休憩を挟みながら治療を続けていると、廊下が突然騒がしくなる。不足していた治療魔法薬が届いたようだ。

「辺境伯様によろしくお伝え下さい」

「ええ、伝えておくわ。この状況では難しいと思うけど、皆さんも無理なさらないでね」

 聞き覚えのある色っぽい声にクリスティーナは姿勢を低くする。そちらを見ないように治療を続けていると、別の方向から声をかけられた。

「ティナ義姉さん?」

 恐る恐る顔をあげるとヒューゴが大きな木の箱を持って、クリスティーナの近くに立っていた。

「ヒューゴ様。お久しぶりでございます」

 クリスティーナがそう言ってウィンクしたが、ヒューゴは胡散臭そうにしている。意図は伝わらなかったようだ。

「義姉さん。僕に見つかったらまずかったの? まさか、兄さんに内緒とか言わないよね?」

 ヒューゴが大袈裟にため息をつく。クリスティーナの意図は無視されただけのようだ。兄弟だけあって、ため息までブルクハルトにそっくりだ。

「ちゃんとハルトに言ってきたわ。快く送り出してくれたもん」

「まぁ、それなら良いけど」

「ヒューゴ様……?」

 責任者の男性が説明を求めるように、ヒューゴに声をかける。クリスティーナが小さく首を振ると、ヒューゴは困った顔をして背後に視線をやった。

「ティナちゃん。お疲れ様。うちの騎士団のためにありがとう。ブルクハルトの役に立ちたいだなんて婚約者の鏡ね」

「お、お義母様」

 辺境伯夫人が聞き耳を立てている人に分かりやすく説明する。着色された言葉にクリスティーナは顔を赤くした。別にブルクハルトのためでは……間違っていないので否定もできなくてクリスティーナは黙り込む。

「そういうことだから、うちのをよろしくね」

「も、もちろんです」

 責任者が慌てながら返事をする。部屋がざわざわして『ドリコリン伯爵令嬢』だとか、『次期辺境伯夫人』だとかいう言葉が聞こえてきた。皆、戸惑っているようだが肯定的な雰囲気だ。クリスティーナはそのことに安心して、ホッと息を吐き出した。
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