【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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二章 無事を祈って【オーギュスト】

第23話 ルネへの手紙

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 その日の午後、先触れがあって団長室にヌーヴェル伯爵が一人でやってきた。伯爵の希望でジョエルは席を外しているので、珍しく本当の意味で二人きりだ。

 要件は魔獣草を大量に買っていた騎士団員のルネの尋問結果の報告らしい。拘束とともに解雇となったため、騎士団員と呼ぶ方が正しいだろうか。ルネの拘束を担当したのは、配属前の新人魔導師だったようだが、特に問題は起こらなかったと聞いている。

「魔導師団の捜査により、ルネの部屋から手紙の束が見つかりましてな。まずはこちらをご覧ください」

「これは……」

 オーギュストは伯爵が机の上に出した封筒を凝視する。差出人は書かれていないが、王族のみが使用を許された特別な封蝋が押されていた。王家の紋章の下に美しい花。公爵領からの嘆願を揉み消していた魔導師団員の証言と一致する。

「魔導師団の鑑定士は、本物の封蝋であると断定しています」

「本物なのか……」

 オーギュストは報告を淡々と聞いていた。もう少し前に聞かされたなら、動揺していたかもしれない。本物を疑われることなく使える人間はかなり限られる。

「ただ、どなたの物なのか分かっていません。団長はお分かりになりますか?」

「分からない。現在使われているものではないな」

「そうですか」

 王族の封蝋印は一人一人異なり、オーギュストは現在使用されている全ての封蝋印を把握しているが誰のものか分からない。所有者が亡くなっているということだ。伯爵がさほど驚かなかったところをみると、鑑定士にも言われたのだろう。

 魔導師団や騎士団にある封蝋印の情報は、王族の没後に一定の期間をおいて破棄されることになっている。ただ、封蝋印は王宮内の宝物庫に残されている。

「封蝋に関しては任せてもらっても良いか?」

「お願いします。ただ、先にお話しなければならないことがもう一つあります」

「何だ?」

「手紙を読んでいただいたほうが早いと思います」

 オーギュストは手袋をして証拠品の手紙を手に取る。封筒を慎重に開いて便箋を取り出した。

【事件の報告書を読んでルネの処遇を知った。優秀な人間が現場から離れているなんて惜しい】

 そんな言葉から差出人とルネの交流は始まっている。ルネは上司に煙たがられており、小さな失敗をきっかけに備品係に飛ばされたことが分かっている。伯爵の解説と合わせると、手紙の差出人は名前を名乗らないまま、ルネの気持ちを掌握していったようだ。

【ルネの剣術大会での活躍は覚えている】
【君の実力を買っている】

 剣術大会のことは、ルネ本人が自慢話として周囲に語っており、少し調べれば誰でも知ることができる。それでも、誰にも認められずにいたルネは嬉しかったのだろう。

 いくつかの手紙を読んでいくと、差出人の正体も少しずつ浮き彫りになっていく。

【幼い妻との生活は難しい】
【三人いる兄を尊敬している】
【若くして人を束ねる立場になったので苦労している】

 愚痴の混ざった近況報告は、信頼を示す材料であるとともに、ルネに差出人を絞らせる意味もあったのだろう。

【君の実力を騎士団の者は怖がっているようだな。私も幼少期から危険視されていたから分かる。そんな者の近くにいても良いことはないぞ。私なら君に活躍の場を与えられる】

 これだけのことが書かれていれば、誰が読んでも差出人はオーギュストだと思うだろう。

【部下に頭の固い年寄りがいてね。反対しているんだ。ルネが何か実績を作れば、呼び寄せることができるのだが……】

 オーギュストは伯爵の顔を見ないようにして読み進める。伯爵を連想してしまったが、オーギュストは『頭の固い年寄り』などと思ったことは誓ってない。

「ルネは魔導師団に入るために魔獣草を買い付けていたと話しています」 
 
 オーギュストが手紙を読み終えると、伯爵が言い添える。それが手紙の中の『実績』ということだろう。ルネが魔獣草の買付を始めたのは、公爵領で最初の魔獣による襲撃が起こる二ヶ月ほど前だと供述している。これは商会の記録とも一致する。魔獣草の準備を一手に引き受けていたわけだ。

「よくこんな手紙を信じたな。やはり、封蝋印のせいか」

「こんな誘いに飛びついてしまうほど、騎士団での立場に不満があったのでしょうな。魔導師団は実力主義だから出世できると思ったようです。ご存知の通り、が必要なわけですが、団長は近衛騎士と連携して妃殿下の護衛をされています。魔法が使えない自分でも出世できると勘違いしたのでしょう。差出人の言葉選びも非常に上手い」

 オーギュストは伯爵の言葉に静かに頷いた。オーギュストには胡散臭い手紙にしか見えないが、手紙の送り主の人心掌握力に注視した方がよさそうだ。オーギュストも孤独だった幼少期なら信じていたかもしれない。いや、信じてしまったからこそ、今の状況があるのだろう。
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