【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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二章 無事を祈って【オーギュスト】

第24話 副団長の覚悟

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 伯爵はそのまま、お金の出どころなどの調査結果の報告に移った。

 ルネは魔獣草の購入に騎士団の予算を使っていたらしい。商人たちが大量購入に疑問を抱かなかったのも、そのためだろう。オーギュストは魔導師団の予算の流れも調べるべきだと思ったが、伯爵がすでに調査済みで問題はなかったと聞いてホッとする。

「ルネは厳しい処分になりそうだな」

「横領ですからな。本当に団長からの手紙だったとしても許されないことです」

 ルネには同情すべき点もある。しかし、こんな手紙に踊らされ金を使い込んだのだから、減刑は難しい。魔獣草の使い道については公にできないので、公爵領の襲撃とは切り離されて罪が決まる。政治犯にはされないので、それが恩情と言えるかもしれない。

「一つ聞いても良いか? ルネの拘束はそれが決定した会議の翌日には終わっていたはずだ。尋問や証拠品の捜索に時間がかかったとしても数日のことだろう。報告が遅れた理由は何だ?」

 オーギュストの言葉に伯爵が無言で微笑みを浮かべる。

「伯爵?」

「まだまだお若いですな。自分が拘束されるとは思いませんでしたか?」

 公爵領から騎士団への嘆願を揉み消していた者は、三年前までミシュリーヌの近衛隊長だった人物の指示で動いたと証言している。今は騎士団長の補佐官を務める人物で、オーギュストとも親交がある。もちろん、彼が関わっていないことは騎士団長が確認している。しかし、魔導師団の件やルネの件とともに誰かが意図的に実行犯の証言を公表すれば、世の中はオーギュストの指示で彼が動いたと思うだろう。公爵領で流れている噂といい、一つ一つは信憑性の低い小さな証拠だが、集めるとオーギュストが黒幕だった方が自然に思える。

「団長を排除すれば、ノルベルト王太子殿下の立場も悪くなる。一時的な拘束になったとしても時間稼ぎには有効です。どこかから我々の動きが漏れたなら、強引な手に出てくる可能性は十分にあったんですぞ」

 伯爵の言葉にオーギュストは反省する。自分のことを軽い存在だと考えるのはオーギュストの悪い癖だ。伯爵は言わないが自分のところで報告を停め、問題になったときには一人で責任をとる覚悟だったのだろう。オーギュストが知っていたら、魔導師団の組織的な隠蔽だと言われかねない。新人を使ったのも、教官だった伯爵の独断であることを印象づけるためかもしれない。

「……」

「ヘクター殿下に我々の動きが把握されていないのか、別の思惑か。とにかく、ヒヤヒヤしましたぞ」

 オーギュストは伯爵の言葉にドキリとする。伯爵は今までぼやかしていた黒幕をヘクターだとハッキリ明言した。オーギュストもクリストフの話を聞いたときから他の選択肢を消していたが、まだ受け入れられていないことを自覚する。だが、封蝋印が本物であると判明した今は疑いようがない。

 ヘクターは第三王子ではあるが、現王妃の唯一の子だ。ノルベルトの補佐としての実績もある。ノルベルトに何かあれば、後ろ盾や実績のない第二王子ガエルよりも王位につく可能性は高く、動機も十分だ。


 後日の調査で五世代前の王妃の物であると判明した封蝋印は宝物庫に納められている。その宝物庫に入れる者は、禁書の特別室と同じだけいる。ただ、特別室とは違い、王位継承権を持たぬ者は近衛騎士とともに入る決まりになっているのだ。近衛騎士を買収する手もあるが、一人や二人を味方につけても難しい仕組みなので現実的ではない。

 長い歴史の中で何重にも盗難防止が施され、現在は国王でも宝物庫から誰にも知られずに何かを持ち出すことは不可能だ。封蝋印は宝物庫の中で使われた可能性が高い。ちなみに王位継承権を持つのはオーギュストたち四兄弟とノルベルトの二人の子供のみで、犯人を絞り込む貴重な証拠だが、当然、ヘクターだけでなくオーギュストも絞られた犯人に含まれる。

「お話することにしたのは、クリストフが集めた証拠と妃殿下の証言があれば、ヘクター殿下も同じ立場まで落とすことが可能だからです。この状況であれば、王太子殿下の反対を押し切ってまで、団長を拘束することはできないと判断しました。騎士団も補佐官の件があるので、こちらに味方してくれるでしょう」

 クリストフの調べで、ヘクター側の人間が浄化薬の行き先の情報を止めていることが分かっている。ヘクターが自分たちの仕事ではないと白を切ったとしても、ミシュリーヌが『ヘクターが引き受けた』と証言してくれれば言い逃れは難しい。

 罪に問う証拠としては弱すぎるが、オーギュストがはめられる可能性は減った。伯爵はミシュリーヌと連絡がつくまで報告を控えていたというわけだ。

「相手は本気ですぞ。私は団長を王都に残したのが正解なのか不安になってきました。替えが効かないのはミシュリーヌ妃ですからな」

 オーギュストは同意することができず黙っていた。伯爵は暗に王太子一家が殺されても代わりオーギュストがいると言っているのだ。オーギュストはミシュリーヌもノルベルトもどちらも守りたい。甘い考えかもしれないが、オーギュストがヘクターを追い落として王になるよりは現実的な気がした。
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