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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第4話 カード【ミシュリーヌ】
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「受け取ったカードは残っているか? できれば、北町の建物の詳細が知りたい」
「それが……カードはマジックバッグの中なのです」
ヴァネッサに渡されたカードは、マジックバッグに適当に放り込んだ記憶がある。捨てることも出来なくて、マジックバッグごと旅に持ち出していたのだ。
ミシュリーヌのバッグはマリエルのいる公爵領の宿だろうか? マジックバッグは所有者登録がされていると、所有者と制作者以外には出し入れができない。
「どうしましょう?」
「ミシュリーヌが持ち歩いていたバッグなら、私が保管している。持ってくるよ。マジックバッグの魔力が切れてしまうと困るから一緒に召喚したんだ」
マジックバッグの魔力が切れると中の物が溢れ出て、普通のバッグに戻ってしまう。ミシュリーヌはその事をすっかり失念していた。
「すぐに返さなくてすまない。ミシュリーヌが触れる心配のない場所に置いておきたかったんだ」
隣の部屋から戻ってきたオーギュストは、見慣れたミシュリーヌのマジックバッグを机の上に置いた。ミシュリーヌから離して置いているのは、間違っても触れてしまわないようにだろう。慎重で過保護なオーギュストらしい。
「今のわたくしではバッグに触れることもできません。カードを取り出していただいてもよろしいですか?」
マジックバッグは開けるたびに所有者の魔力を吸うことで機能を保っている。
「ああ。悪いが手を入れさせてもらう」
オーギュストは躊躇いながらミシュリーヌのマジックバッグからカードを取り出した。普通のバッグではないので、他の荷物に触れるわけでもない。それでも、オーギュストは恥ずかしそうに急いでバッグのフタをしめている。絶対に言えないがちょっと可愛い。
「ミシュリーヌ? どうした?」
オーギュストが不思議そうに見つめてくるので、ミシュリーヌは小さく首を振る。誤魔化すようにオーギュストの手元に視線を向けた。
「それで間違いありませんわ。中を確認して頂けますか?」
オーギュストは腑に落ちない顔をしたが、すぐにカードに意識を戻す。じっくりと見つめたあと、自分のマジックバッグから王都の地図を取り出した。
「このあたりで間違いなさそうだな。中流階級の屋敷が立ち並んでいるような場所だ」
オーギュストがミシュリーヌに王都の地図の一か所を指し示す。ミシュリーヌには書かれていた場所が実在したことくらいしか分からなかった。王都の街は複雑で、ミシュリーヌが把握できている場所は少ない。
「わたくし、一人では辿り着けそうにありませんわ」
「ミシュリーヌが迷っているところを……と考えていたのかもしれないな。王宮の出入口付近に怪しい人物がいなかったかも含めて探らせる」
トントントン
「ちょうど、戻って来たようだ」
ノックと共に入って来たのはジョエルだ。この件を調査する部隊を手配していたらしい。
ジョエルはオーギュストと軽く話をすると、再び部屋を出ていった。
「魔導師団の精鋭が捜査に出た。結果が出るのは明日以降だな」
オーギュストはそう言って、地図を片付け始める。夕食の準備ができる頃なので、話を切り上げるのだろう。
「殿下……」
ミシュリーヌは勇気を振り絞って、オーギュストに呼びかけた。食事のときにも話はできるが、使用人たちがいるので、本当の意味で二人きりではない。
ミシュリーヌはドキドキしながら距離を詰めて、近くから見上げる。
「どうした? 他に気になることがあるか?」
「いいえ、そうではありませんわ。わたくし、今晩は殿下のお部屋にお邪魔しようと思っています。そのつもりでいて下さいませ」
ミシュリーヌは言いながらオーギュストに抱きついた。捜査中ではあるが、勢いで今日伝えないと、またズルズル悩むことになる。オーギュストは一瞬身体を強張らせたが、すぐに力を抜いてミシュリーヌの髪を撫でた。
「構わないが、その言い方は誤解を招くよ」
その動作は妻に対するものではなく、子供だとしか思っていないと宣言しているようにも感じた。それでも、ミシュリーヌは諦めるつもりはない。先程の口づけは、オーギュストの本心だと信じている。
「誤解ではありませんわ。殿下はお嫌ですか?」
「そういうわけではないよ。焦る必要はないと思っているだけだ。私はミシュリーヌに後悔してほしくはない」
「わたくしは後悔などいたしません!」
ミシュリーヌが睨むように青い瞳を見つめると、困ったようにそらされる。オーギュストの耳がほんのり赤い。
これは勝算があるかもしれない。ミシュリーヌはそう思って待っていたが、再び目線を合わせたオーギュストはいつもと変わらぬ無表情に戻っていた。
「いろいろんなことがあったから、今の関係に不安を抱くのは分かる。でも、私は何があってもミシュリーヌを離すつもりはないよ。望むならいつでも一緒にいてあげるから、今晩は私の部屋においで」
「……」
どう解釈しても、オーギュストの言葉はミシュリーヌの望む『一緒』ではない。どうすれば、その気持ちを変えられるだろう? ミシュリーヌには読んだ小説の知識くらいしかなくて、オーギュストを説得する言葉がこれ以上見つからない。
「とりあえず、夕食にしよう。皆を待たせるのは良くない」
オーギュストが困っているので、ミシュリーヌはひとまず頷いた。後で侍女たちに相談するしかない。
……
その晩、ミシュリーヌの思惑どおり、二人は本当の夫婦になった。ボンヌを始めとする侍女たちの協力で、磨き上げ着飾ってもらって良かったと思う。
ミシュリーヌが子供ではないことは、オーギュストにも十分に伝わったようだ。
「それが……カードはマジックバッグの中なのです」
ヴァネッサに渡されたカードは、マジックバッグに適当に放り込んだ記憶がある。捨てることも出来なくて、マジックバッグごと旅に持ち出していたのだ。
ミシュリーヌのバッグはマリエルのいる公爵領の宿だろうか? マジックバッグは所有者登録がされていると、所有者と制作者以外には出し入れができない。
「どうしましょう?」
「ミシュリーヌが持ち歩いていたバッグなら、私が保管している。持ってくるよ。マジックバッグの魔力が切れてしまうと困るから一緒に召喚したんだ」
マジックバッグの魔力が切れると中の物が溢れ出て、普通のバッグに戻ってしまう。ミシュリーヌはその事をすっかり失念していた。
「すぐに返さなくてすまない。ミシュリーヌが触れる心配のない場所に置いておきたかったんだ」
隣の部屋から戻ってきたオーギュストは、見慣れたミシュリーヌのマジックバッグを机の上に置いた。ミシュリーヌから離して置いているのは、間違っても触れてしまわないようにだろう。慎重で過保護なオーギュストらしい。
「今のわたくしではバッグに触れることもできません。カードを取り出していただいてもよろしいですか?」
マジックバッグは開けるたびに所有者の魔力を吸うことで機能を保っている。
「ああ。悪いが手を入れさせてもらう」
オーギュストは躊躇いながらミシュリーヌのマジックバッグからカードを取り出した。普通のバッグではないので、他の荷物に触れるわけでもない。それでも、オーギュストは恥ずかしそうに急いでバッグのフタをしめている。絶対に言えないがちょっと可愛い。
「ミシュリーヌ? どうした?」
オーギュストが不思議そうに見つめてくるので、ミシュリーヌは小さく首を振る。誤魔化すようにオーギュストの手元に視線を向けた。
「それで間違いありませんわ。中を確認して頂けますか?」
オーギュストは腑に落ちない顔をしたが、すぐにカードに意識を戻す。じっくりと見つめたあと、自分のマジックバッグから王都の地図を取り出した。
「このあたりで間違いなさそうだな。中流階級の屋敷が立ち並んでいるような場所だ」
オーギュストがミシュリーヌに王都の地図の一か所を指し示す。ミシュリーヌには書かれていた場所が実在したことくらいしか分からなかった。王都の街は複雑で、ミシュリーヌが把握できている場所は少ない。
「わたくし、一人では辿り着けそうにありませんわ」
「ミシュリーヌが迷っているところを……と考えていたのかもしれないな。王宮の出入口付近に怪しい人物がいなかったかも含めて探らせる」
トントントン
「ちょうど、戻って来たようだ」
ノックと共に入って来たのはジョエルだ。この件を調査する部隊を手配していたらしい。
ジョエルはオーギュストと軽く話をすると、再び部屋を出ていった。
「魔導師団の精鋭が捜査に出た。結果が出るのは明日以降だな」
オーギュストはそう言って、地図を片付け始める。夕食の準備ができる頃なので、話を切り上げるのだろう。
「殿下……」
ミシュリーヌは勇気を振り絞って、オーギュストに呼びかけた。食事のときにも話はできるが、使用人たちがいるので、本当の意味で二人きりではない。
ミシュリーヌはドキドキしながら距離を詰めて、近くから見上げる。
「どうした? 他に気になることがあるか?」
「いいえ、そうではありませんわ。わたくし、今晩は殿下のお部屋にお邪魔しようと思っています。そのつもりでいて下さいませ」
ミシュリーヌは言いながらオーギュストに抱きついた。捜査中ではあるが、勢いで今日伝えないと、またズルズル悩むことになる。オーギュストは一瞬身体を強張らせたが、すぐに力を抜いてミシュリーヌの髪を撫でた。
「構わないが、その言い方は誤解を招くよ」
その動作は妻に対するものではなく、子供だとしか思っていないと宣言しているようにも感じた。それでも、ミシュリーヌは諦めるつもりはない。先程の口づけは、オーギュストの本心だと信じている。
「誤解ではありませんわ。殿下はお嫌ですか?」
「そういうわけではないよ。焦る必要はないと思っているだけだ。私はミシュリーヌに後悔してほしくはない」
「わたくしは後悔などいたしません!」
ミシュリーヌが睨むように青い瞳を見つめると、困ったようにそらされる。オーギュストの耳がほんのり赤い。
これは勝算があるかもしれない。ミシュリーヌはそう思って待っていたが、再び目線を合わせたオーギュストはいつもと変わらぬ無表情に戻っていた。
「いろいろんなことがあったから、今の関係に不安を抱くのは分かる。でも、私は何があってもミシュリーヌを離すつもりはないよ。望むならいつでも一緒にいてあげるから、今晩は私の部屋においで」
「……」
どう解釈しても、オーギュストの言葉はミシュリーヌの望む『一緒』ではない。どうすれば、その気持ちを変えられるだろう? ミシュリーヌには読んだ小説の知識くらいしかなくて、オーギュストを説得する言葉がこれ以上見つからない。
「とりあえず、夕食にしよう。皆を待たせるのは良くない」
オーギュストが困っているので、ミシュリーヌはひとまず頷いた。後で侍女たちに相談するしかない。
……
その晩、ミシュリーヌの思惑どおり、二人は本当の夫婦になった。ボンヌを始めとする侍女たちの協力で、磨き上げ着飾ってもらって良かったと思う。
ミシュリーヌが子供ではないことは、オーギュストにも十分に伝わったようだ。
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