【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

文字の大きさ
71 / 160
三章 犯人を追って【オーギュスト】

第4話 カード【ミシュリーヌ】

しおりを挟む
「受け取ったカードは残っているか? できれば、北町の建物の詳細が知りたい」

「それが……カードはマジックバッグの中なのです」

 ヴァネッサに渡されたカードは、マジックバッグに適当に放り込んだ記憶がある。捨てることも出来なくて、マジックバッグごと旅に持ち出していたのだ。

 ミシュリーヌのバッグはマリエルのいる公爵領の宿だろうか? マジックバッグは所有者登録がされていると、所有者と制作者以外には出し入れができない。

「どうしましょう?」

「ミシュリーヌが持ち歩いていたバッグなら、私が保管している。持ってくるよ。マジックバッグの魔力が切れてしまうと困るから一緒に召喚したんだ」

 マジックバッグの魔力が切れると中の物が溢れ出て、普通のバッグに戻ってしまう。ミシュリーヌはその事をすっかり失念していた。

「すぐに返さなくてすまない。ミシュリーヌが触れる心配のない場所に置いておきたかったんだ」

 隣の部屋から戻ってきたオーギュストは、見慣れたミシュリーヌのマジックバッグを机の上に置いた。ミシュリーヌから離して置いているのは、間違っても触れてしまわないようにだろう。慎重で過保護なオーギュストらしい。

「今のわたくしではバッグに触れることもできません。カードを取り出していただいてもよろしいですか?」

 マジックバッグは開けるたびに所有者の魔力を吸うことで機能を保っている。

「ああ。悪いが手を入れさせてもらう」

 オーギュストは躊躇いながらミシュリーヌのマジックバッグからカードを取り出した。普通のバッグではないので、他の荷物に触れるわけでもない。それでも、オーギュストは恥ずかしそうに急いでバッグのフタをしめている。絶対に言えないがちょっと可愛い。

「ミシュリーヌ? どうした?」

 オーギュストが不思議そうに見つめてくるので、ミシュリーヌは小さく首を振る。誤魔化すようにオーギュストの手元に視線を向けた。

「それで間違いありませんわ。中を確認して頂けますか?」

 オーギュストは腑に落ちない顔をしたが、すぐにカードに意識を戻す。じっくりと見つめたあと、自分のマジックバッグから王都の地図を取り出した。

「このあたりで間違いなさそうだな。中流階級の屋敷が立ち並んでいるような場所だ」

 オーギュストがミシュリーヌに王都の地図の一か所を指し示す。ミシュリーヌには書かれていた場所が実在したことくらいしか分からなかった。王都の街は複雑で、ミシュリーヌが把握できている場所は少ない。

「わたくし、一人では辿り着けそうにありませんわ」

「ミシュリーヌが迷っているところを……と考えていたのかもしれないな。王宮の出入口付近に怪しい人物がいなかったかも含めて探らせる」

 トントントン  

「ちょうど、戻って来たようだ」

 ノックと共に入って来たのはジョエルだ。この件を調査する部隊を手配していたらしい。

 ジョエルはオーギュストと軽く話をすると、再び部屋を出ていった。

「魔導師団の精鋭が捜査に出た。結果が出るのは明日以降だな」

 オーギュストはそう言って、地図を片付け始める。夕食の準備ができる頃なので、話を切り上げるのだろう。

「殿下……」

 ミシュリーヌは勇気を振り絞って、オーギュストに呼びかけた。食事のときにも話はできるが、使用人たちがいるので、本当の意味で二人きりではない。

 ミシュリーヌはドキドキしながら距離を詰めて、近くから見上げる。

「どうした? 他に気になることがあるか?」

「いいえ、そうではありませんわ。わたくし、今晩は殿下のお部屋にお邪魔しようと思っています。そのつもりでいて下さいませ」

 ミシュリーヌは言いながらオーギュストに抱きついた。捜査中ではあるが、勢いで今日伝えないと、またズルズル悩むことになる。オーギュストは一瞬身体を強張らせたが、すぐに力を抜いてミシュリーヌの髪を撫でた。

「構わないが、その言い方は誤解を招くよ」

 その動作は妻に対するものではなく、子供だとしか思っていないと宣言しているようにも感じた。それでも、ミシュリーヌは諦めるつもりはない。先程の口づけは、オーギュストの本心だと信じている。

「誤解ではありませんわ。殿下はお嫌ですか?」

「そういうわけではないよ。焦る必要はないと思っているだけだ。私はミシュリーヌに後悔してほしくはない」

「わたくしは後悔などいたしません!」

 ミシュリーヌが睨むように青い瞳を見つめると、困ったようにそらされる。オーギュストの耳がほんのり赤い。

 これは勝算があるかもしれない。ミシュリーヌはそう思って待っていたが、再び目線を合わせたオーギュストはいつもと変わらぬ無表情に戻っていた。

「いろいろんなことがあったから、今の関係に不安を抱くのは分かる。でも、私は何があってもミシュリーヌを離すつもりはないよ。望むならいつでも一緒にいてあげるから、今晩は私の部屋においで」

「……」

 どう解釈しても、オーギュストの言葉はミシュリーヌの望む『一緒』ではない。どうすれば、その気持ちを変えられるだろう? ミシュリーヌには読んだ小説の知識くらいしかなくて、オーギュストを説得する言葉がこれ以上見つからない。

「とりあえず、夕食にしよう。皆を待たせるのは良くない」

 オーギュストが困っているので、ミシュリーヌはひとまず頷いた。後で侍女たちに相談するしかない。


 ……


 その晩、ミシュリーヌの思惑どおり、二人は本当の夫婦になった。ボンヌを始めとする侍女たちの協力で、磨き上げ着飾ってもらって良かったと思う。

 ミシュリーヌが子供ではないことは、オーギュストにも十分に伝わったようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

【完結】回復魔法だけでも幸せになれますか?

笹乃笹世
恋愛
 おケツに強い衝撃を受けて蘇った前世の記憶。  日本人だったことを思い出したワタクシは、侯爵令嬢のイルメラ・ベラルディと申します。 一応、侯爵令嬢ではあるのですが……婚約破棄され、傷物腫れ物の扱いで、静養という名目で田舎へとドナドナされて来た、ギリギリかろうじての侯爵家のご令嬢でございます……  しかし、そこで出会ったイケメン領主、エドアルド様に「例え力が弱くても構わない! 月50G支払おう!!」とまで言われたので、たった一つ使える回復魔法で、エドアルド様の疲労や騎士様方の怪我ーーそして頭皮も守ってみせましょう!  頑張りますのでお給金、よろしくお願いいたします!! ーーこれは、回復魔法しか使えない地味顔根暗の傷物侯爵令嬢がささやかな幸せを掴むまでのお話である。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、王太子を破滅させたあと静かに幸せになります

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エレナは、 誕生日の舞踏会で突然、婚約破棄を宣言される。 「地味で役に立たない」と嘲笑され、 平民の少女を新たな婚約者に選ぶ王太子。 家族にも見放され、エレナは王都を追われることに――。 しかし彼女は、ただの“癒しの令嬢”ではなかった。 静かに力を蓄え、事実と証拠だけで王太子の虚飾を暴き、 自らの手で破滅へと導いていく。 復讐の果てに選んだのは、 誰かに与えられる地位でも、名誉でもない。 自分で選び取る、穏やかな幸せ。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が 王太子を終わらせたあと、 本当の人生を歩き出す物語。 -

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...