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赤の国 ロッソ②
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牢から出たトトリとカシャは町に戻って情報を集めることにしました。だけど、誰一人として大樹が枯れた原因を知っている人はいません。当たり前です、もしも知っている人がいたなら、すっかり大樹は戻通り元気になっているはずです。大樹の治療には、たくさんの報奨金が支払われることになっていましたから。
「どうしよう手掛かり一つ見つからない……」
町中を駆けまわり、二人はへとへとになっていました。お日様はもう一番高い場所から少しずつ落ちてきています。急がなければいけません。
「カシャ! この国に魔女はいないの?」
トトリは思い出して尋ねました。リリエが言っていたではありませんか、他の国にも、魔女がいるはずだと――
「魔女……? 昔母さんが言っていた気がする。東の森に魔女が住んでいるって、でも会いに行くなんてとんでもない! 魔女は恐ろしいんだ。機嫌を損ねると食われてしまうって、町では噂になっていて、誰一人として森にはよりつかない」
トトリの頭にリリエの言葉がよみがえります。『気を付けて、世界には良い魔女だけではなくて、悪い魔女もいる……』襲ってくる不安を、トトリは一生懸命跳ね返しました。どんなに恐ろしくても、少しでも望みがあるなら行かないわけにはいきません。
「だけどカシャ、少しでも望みがあるなら僕は行きたいんだ。アリスとココを助けなきゃいけないし、なにより木の実を分けてもらわないといけない」
トトリの真剣な顔を見て、カシャも勇気を振り絞ります。
「ようし、行くか! 東の森へ!」
東の森は、名前通り町の東側にあるようです。森は鬱蒼としてて光が差し込まず、真昼だというのに薄暗くて気味が悪いではありませんか。リリエが住んでいる森とは大違いです。本当に悪い魔女が住んでいるのかもしれません。機嫌を損ねたら、大きな鍋でぐつぐつと煮られて食べられてしまうかもしれません。トトリは震える心に鞭を打ちました。
しばらく進むと、大きな川が流れていました。その向こうに、小さな家が見えます。真っ赤な川は流れが速く、容易に渡れそうにありません。それに濁っているのでどのくらい深いのか見当もつきませんでした。
「筏を作って渡ろう」
カシャは持っていたナイフで枝を切り、蔓で編んでいきます。トトリは材料になる太い枝をたくさん集めてきました。辺りの枝を探し回っていると、蔦にリスが絡まっているのを見つけました。リスはすっかり蔦にからめとられてしまって、身動きが取れないようです。
「今助けてやる」
トトリはナイフで蔦を断ち切り、リスを助けてやりました。リスは一度だけトトリの方を振り返ると、木の上に駆けのぼり、見えなくなってしまいました。
トトリが木の枝を集めてくると、筏はすっかり完成しました。木の棒を使って筏を操り、対岸に辿り着きます。魔女の家は目前でした。蔦の絡まる古い家は、ものすごいぼろ屋に見えます。家の扉の前で、トトリは大きく深呼吸をしてから扉をトントンと叩きます。すると、中からしわがれたおばあさんの声がしました。
「なんのようだい?」
「あ、あの、僕はイーハトーブのトトリです」
「イーハトーブ? 隣の国じゃないか。そんなところの子供が何の用だい」
扉の前で、トトリは必死に説明をしました。トトリが話し終えると、扉がゆっくりと開きます。中からしわくちゃのおばあさんが姿を見せました。おばあさんはじっとトトリの首元を見つめます。そこには、リリエがくれたユリのネックレスがかけてありました。
「なるほど、おまえリリエの知り合いかい? 中へお入り」
魔女の家は想像していたよりもずっと清潔で、暖かでした。リリエの家から香ってくるような甘い香りもします。もうトトリに恐怖心はありません。おばあさんの目元にたたまれたたくさんのしわは、死んでしまったおじいさんを思い起こさせました。きっと優しい魔女に違いない――そうトトリは確信を持ちます。
「赤の王様は他の色をお嫌いになるだろう? だから大樹は枯れたのさ」
「そうなんですか?」
「そうさ、あの樹の根はこの森の泉につながっていて、そこから水を飲んでいるのだけどね、十五年ほど前に王様は泉に流れ込橙色の流れを止めてしまった。だから水が腐ってしまったんだよ。それでついに樹も枯れてしまったんだろうね。流れを戻せば、樹は元通り元気になると思うよ」
それを聞いてトトリとカシャは飛び上がって喜びました。
「ありがとう魔女さん! あなたはとっても良い魔女だ!」
「おやおや世辞なんか言うもんじゃない。私は悪い魔女さ、王様の命令に背いて、王女様を逃がしてしまったからね」
おばあさんはどこか遠くを見つめるような悲しい瞳をしました。時は一刻を争います。でも、トトリはおばあさんの話を聞いてあげたくなりました。
「魔女さん、何か気になっていることがあるんじゃないですか?」
「あぁそうさ、私はね、ずっと王女様のことを気にかけていたんだ。こんな私でも昔はお城の王様に仕えていたのさ。王女様は別の色の国から来た旅人に恋をしてね、どうしても一緒になりたいと泣くものだから、私は王女様をお城から逃がしてしまったのさ。王様はそれはそれはお怒りになって……私は城も町も追い出されて、この森の中でひっそりと暮らしているわけさ。誰もこんなところに顔を出す者はいない、私と言葉を交わせば、王様に怒られてしまうからね。だから、誰にも相談できずにずっと王女様が幸せになったどうか心配していたのだけれど、どうやら杞憂に終わったようだ。二人とも、ここを尋ねて来てくれてありがとうね」
おばあさんはトトリとカシャに優しい笑顔を向けてくれました。それからたくさんの食べ物を持たせてくれて、最後にカシャの肩をポンと優しく叩いたのです。
「会えてよかったよ。おまえさんの名前も聞かせておくれ」
「カシャだ」
「そうかい、良い名だ。おまえさんたちに祝福を授けてあげようね。行く道に光が照らすように――」
おばあさんがそう言って持っていた杖をかざすと、淡い光が二人を包みました。光は暗い森の中を照らしてくれるようです。これで泉まで進みやすくなりました。
「そうだ、私の使い魔を助けてくれてありがとう」
最後におばあさんはそう言いました。おばあさんの足元には、いつの間にか、さっきトトリが助けたリスが寄り添っています。トトリは嬉しい気持ちになりました。
二人はおばあさんに教えてもらった通り森の中を進みます。すると、どろどろに濁った泉が現れました。泉の一角に一が積み上げてあります。見ると、小さな流れが堰き止めてありました。赤い色に似ていますが、見たこともない色です。なるほど、これが『橙』でしょう。
「よし、石をどかそう!」
二人は力を合わせて一をすべて取り除きました。すると、キラキラと輝く流れが泉に注ぎ込みました。どろどろと濁っていた泉に、美しい橙の水が注ぎ込み、水を浄化していきます。
「さぁ戻ろう! もうすぐ日が暮れる!」
トトリは空を見上げてから言いました。すっかり日が陰ってきています。お日様がすっかり落ちてしまうまでに、お城に戻らなければいけません。二人は駆けだしました。
森を抜けると、お日様はゆらゆらと溶けて揺らめいていました。もうすぐ日が落ちます。トトリとカシャはお城の入り口まで駆けていくと、大声で帰ってきたことを告げました。すると、固く閉ざされていた門が音を立てて開きます。中にはお城の兵士たちが待っていました。二人は兵士たちに連れられてお城の中庭に通されました。中庭に着いたトトリとカシャは、大樹を見て感嘆の声を漏らしました。どうしてかって? 決まっています。大樹はよみがえり、美しい真っ赤な実をたくさんたくさんつけていたからです。
「よくやってくれました」
王妃様の声がしました。隣には、立派な髭を蓄えた王様も立っています。アリスとココが駆け寄ってきました。牢から出してもらえたようです。
「ありがとうアリス、カシャ!」
アリスはトトリに抱き着きます。トトリは木がよみがえったことにほっとして、ほっと息を吐きました。
「約束通り実を差し上げましょう。たった今実ったものを収穫しましたよ。さぁ、お持ちなさい」
トトリは王妃様が差し出してくれる真っ赤な実を受け取ると、カバンの中から小瓶を取り出しました。大きな実です、瓶の中に入すか心配していましたが、リリエの渡してくれた小瓶は魔法の小瓶です。大きな実は吸い込まれるように小さな瓶の中に納まりました。
それから、王妃様はにっこりと微笑んで、カシャに語り掛けます。
「カシャと言いましたか……どうか、足に巻いている布を取り払ってくれませんか? あなたの色を、よくよく見せてほしいのです」
王妃様の言葉にカシャは戸惑います。王様は大の別の色嫌い。赤色以外の色をひどく嫌っているのです。カシャは戸惑いながらも布を取りました。ハラハラと細い布が落ちると、綺麗な緑色の足が現れます。王妃様は目を見開きました。
「カシャ、おまえは北の山に住んでいましたね?」
「はい」
「父は緑の国からの旅人ですね」
「……はい」
そう答えると、王妃様はカシャを抱き寄せました。
「ずっと会いたいと思っていました。姫の子供が、こんなに大きくなっていたなんて……」
今度目を見開いたのはカシャの方です。そうです、カシャのお母さんは、この国のお姫様だったのです。緑の国から来た旅人のお父さんと恋に落ち、二人の間にはカシャが生まれました。三人での生活は、貧しくとも幸せな日々でした――
「姫は亡くなったそうですね……」
カシャは視線を落とし、涙とともに頷きました。
「二年ほど前に病で亡くなりました。父は母のために薬を探しに旅へ――今もまだ戻りません」
「そうですか……寂しい思いをさせましたね。さぁ、あなた、いつまでも臍を曲げていないで、いい加減素直におなりなさい。いつもカシャのことを心配していたではありませんか、行商人に頼んでカシャの様子を見守らせていたでしょう?」
「こら、バラすんじゃない!」
王様は恥ずかしくてそっぽを向いていました。でもついにカシャを見ると、ポロポロと涙を流し始めたのです。
「姫にそっくりだ……」
そう言ってカシャを抱きしめました。王様はひとしきり泣いて、涙が落ち着くと、カシャの肩に手を置きました。
「お城に来ないか? おまえは私たちの孫だ、一緒に暮らせたらそんなに嬉しいことはない」
カシャは王様を見つめ、ゆっくりと頷きました。カシャは一人ぼっちではなかったのです。優しい王妃様と王様がいつも見守ってくれていたのです。
「旅から戻ったら、必ず一緒に暮らします」
「旅?」
「はい、俺は父さんを探しに行きたいんです」
王様と王妃様は互いに顔を見合わせてから、優しい笑顔をカシャに向けました。
「行ってらっしゃい、姫の夫――あなたのお父さんにも会いたいわ。姫の話を聞かせてもらいたいですから――いつまでも待っていますからね」
「ありがとうございます! いってきます!」
カシャは元気に答えました。王様は旅に必要なものを用意してくれました。カシャは旅支度を終えると、トトリとアリス、それからココを順番に見つめます。
「俺も一緒に連れて行ってくれ」
トトリとアリスは喜んで声を上げました。ココも「にゃぁ」と嬉しそうに鳴きます。
「喜んで! 嬉しいよカシャ! 一緒に行こう! 君は父さんを探しに、僕たちは色を集めに」
「あぁ、よろしくな!」
トトリとカシャは互いに拳をぶつけ合いました。友達のしるしです。
三人と一匹は次の国を目指してエルドラドの町を後にしました。
「どうしよう手掛かり一つ見つからない……」
町中を駆けまわり、二人はへとへとになっていました。お日様はもう一番高い場所から少しずつ落ちてきています。急がなければいけません。
「カシャ! この国に魔女はいないの?」
トトリは思い出して尋ねました。リリエが言っていたではありませんか、他の国にも、魔女がいるはずだと――
「魔女……? 昔母さんが言っていた気がする。東の森に魔女が住んでいるって、でも会いに行くなんてとんでもない! 魔女は恐ろしいんだ。機嫌を損ねると食われてしまうって、町では噂になっていて、誰一人として森にはよりつかない」
トトリの頭にリリエの言葉がよみがえります。『気を付けて、世界には良い魔女だけではなくて、悪い魔女もいる……』襲ってくる不安を、トトリは一生懸命跳ね返しました。どんなに恐ろしくても、少しでも望みがあるなら行かないわけにはいきません。
「だけどカシャ、少しでも望みがあるなら僕は行きたいんだ。アリスとココを助けなきゃいけないし、なにより木の実を分けてもらわないといけない」
トトリの真剣な顔を見て、カシャも勇気を振り絞ります。
「ようし、行くか! 東の森へ!」
東の森は、名前通り町の東側にあるようです。森は鬱蒼としてて光が差し込まず、真昼だというのに薄暗くて気味が悪いではありませんか。リリエが住んでいる森とは大違いです。本当に悪い魔女が住んでいるのかもしれません。機嫌を損ねたら、大きな鍋でぐつぐつと煮られて食べられてしまうかもしれません。トトリは震える心に鞭を打ちました。
しばらく進むと、大きな川が流れていました。その向こうに、小さな家が見えます。真っ赤な川は流れが速く、容易に渡れそうにありません。それに濁っているのでどのくらい深いのか見当もつきませんでした。
「筏を作って渡ろう」
カシャは持っていたナイフで枝を切り、蔓で編んでいきます。トトリは材料になる太い枝をたくさん集めてきました。辺りの枝を探し回っていると、蔦にリスが絡まっているのを見つけました。リスはすっかり蔦にからめとられてしまって、身動きが取れないようです。
「今助けてやる」
トトリはナイフで蔦を断ち切り、リスを助けてやりました。リスは一度だけトトリの方を振り返ると、木の上に駆けのぼり、見えなくなってしまいました。
トトリが木の枝を集めてくると、筏はすっかり完成しました。木の棒を使って筏を操り、対岸に辿り着きます。魔女の家は目前でした。蔦の絡まる古い家は、ものすごいぼろ屋に見えます。家の扉の前で、トトリは大きく深呼吸をしてから扉をトントンと叩きます。すると、中からしわがれたおばあさんの声がしました。
「なんのようだい?」
「あ、あの、僕はイーハトーブのトトリです」
「イーハトーブ? 隣の国じゃないか。そんなところの子供が何の用だい」
扉の前で、トトリは必死に説明をしました。トトリが話し終えると、扉がゆっくりと開きます。中からしわくちゃのおばあさんが姿を見せました。おばあさんはじっとトトリの首元を見つめます。そこには、リリエがくれたユリのネックレスがかけてありました。
「なるほど、おまえリリエの知り合いかい? 中へお入り」
魔女の家は想像していたよりもずっと清潔で、暖かでした。リリエの家から香ってくるような甘い香りもします。もうトトリに恐怖心はありません。おばあさんの目元にたたまれたたくさんのしわは、死んでしまったおじいさんを思い起こさせました。きっと優しい魔女に違いない――そうトトリは確信を持ちます。
「赤の王様は他の色をお嫌いになるだろう? だから大樹は枯れたのさ」
「そうなんですか?」
「そうさ、あの樹の根はこの森の泉につながっていて、そこから水を飲んでいるのだけどね、十五年ほど前に王様は泉に流れ込橙色の流れを止めてしまった。だから水が腐ってしまったんだよ。それでついに樹も枯れてしまったんだろうね。流れを戻せば、樹は元通り元気になると思うよ」
それを聞いてトトリとカシャは飛び上がって喜びました。
「ありがとう魔女さん! あなたはとっても良い魔女だ!」
「おやおや世辞なんか言うもんじゃない。私は悪い魔女さ、王様の命令に背いて、王女様を逃がしてしまったからね」
おばあさんはどこか遠くを見つめるような悲しい瞳をしました。時は一刻を争います。でも、トトリはおばあさんの話を聞いてあげたくなりました。
「魔女さん、何か気になっていることがあるんじゃないですか?」
「あぁそうさ、私はね、ずっと王女様のことを気にかけていたんだ。こんな私でも昔はお城の王様に仕えていたのさ。王女様は別の色の国から来た旅人に恋をしてね、どうしても一緒になりたいと泣くものだから、私は王女様をお城から逃がしてしまったのさ。王様はそれはそれはお怒りになって……私は城も町も追い出されて、この森の中でひっそりと暮らしているわけさ。誰もこんなところに顔を出す者はいない、私と言葉を交わせば、王様に怒られてしまうからね。だから、誰にも相談できずにずっと王女様が幸せになったどうか心配していたのだけれど、どうやら杞憂に終わったようだ。二人とも、ここを尋ねて来てくれてありがとうね」
おばあさんはトトリとカシャに優しい笑顔を向けてくれました。それからたくさんの食べ物を持たせてくれて、最後にカシャの肩をポンと優しく叩いたのです。
「会えてよかったよ。おまえさんの名前も聞かせておくれ」
「カシャだ」
「そうかい、良い名だ。おまえさんたちに祝福を授けてあげようね。行く道に光が照らすように――」
おばあさんがそう言って持っていた杖をかざすと、淡い光が二人を包みました。光は暗い森の中を照らしてくれるようです。これで泉まで進みやすくなりました。
「そうだ、私の使い魔を助けてくれてありがとう」
最後におばあさんはそう言いました。おばあさんの足元には、いつの間にか、さっきトトリが助けたリスが寄り添っています。トトリは嬉しい気持ちになりました。
二人はおばあさんに教えてもらった通り森の中を進みます。すると、どろどろに濁った泉が現れました。泉の一角に一が積み上げてあります。見ると、小さな流れが堰き止めてありました。赤い色に似ていますが、見たこともない色です。なるほど、これが『橙』でしょう。
「よし、石をどかそう!」
二人は力を合わせて一をすべて取り除きました。すると、キラキラと輝く流れが泉に注ぎ込みました。どろどろと濁っていた泉に、美しい橙の水が注ぎ込み、水を浄化していきます。
「さぁ戻ろう! もうすぐ日が暮れる!」
トトリは空を見上げてから言いました。すっかり日が陰ってきています。お日様がすっかり落ちてしまうまでに、お城に戻らなければいけません。二人は駆けだしました。
森を抜けると、お日様はゆらゆらと溶けて揺らめいていました。もうすぐ日が落ちます。トトリとカシャはお城の入り口まで駆けていくと、大声で帰ってきたことを告げました。すると、固く閉ざされていた門が音を立てて開きます。中にはお城の兵士たちが待っていました。二人は兵士たちに連れられてお城の中庭に通されました。中庭に着いたトトリとカシャは、大樹を見て感嘆の声を漏らしました。どうしてかって? 決まっています。大樹はよみがえり、美しい真っ赤な実をたくさんたくさんつけていたからです。
「よくやってくれました」
王妃様の声がしました。隣には、立派な髭を蓄えた王様も立っています。アリスとココが駆け寄ってきました。牢から出してもらえたようです。
「ありがとうアリス、カシャ!」
アリスはトトリに抱き着きます。トトリは木がよみがえったことにほっとして、ほっと息を吐きました。
「約束通り実を差し上げましょう。たった今実ったものを収穫しましたよ。さぁ、お持ちなさい」
トトリは王妃様が差し出してくれる真っ赤な実を受け取ると、カバンの中から小瓶を取り出しました。大きな実です、瓶の中に入すか心配していましたが、リリエの渡してくれた小瓶は魔法の小瓶です。大きな実は吸い込まれるように小さな瓶の中に納まりました。
それから、王妃様はにっこりと微笑んで、カシャに語り掛けます。
「カシャと言いましたか……どうか、足に巻いている布を取り払ってくれませんか? あなたの色を、よくよく見せてほしいのです」
王妃様の言葉にカシャは戸惑います。王様は大の別の色嫌い。赤色以外の色をひどく嫌っているのです。カシャは戸惑いながらも布を取りました。ハラハラと細い布が落ちると、綺麗な緑色の足が現れます。王妃様は目を見開きました。
「カシャ、おまえは北の山に住んでいましたね?」
「はい」
「父は緑の国からの旅人ですね」
「……はい」
そう答えると、王妃様はカシャを抱き寄せました。
「ずっと会いたいと思っていました。姫の子供が、こんなに大きくなっていたなんて……」
今度目を見開いたのはカシャの方です。そうです、カシャのお母さんは、この国のお姫様だったのです。緑の国から来た旅人のお父さんと恋に落ち、二人の間にはカシャが生まれました。三人での生活は、貧しくとも幸せな日々でした――
「姫は亡くなったそうですね……」
カシャは視線を落とし、涙とともに頷きました。
「二年ほど前に病で亡くなりました。父は母のために薬を探しに旅へ――今もまだ戻りません」
「そうですか……寂しい思いをさせましたね。さぁ、あなた、いつまでも臍を曲げていないで、いい加減素直におなりなさい。いつもカシャのことを心配していたではありませんか、行商人に頼んでカシャの様子を見守らせていたでしょう?」
「こら、バラすんじゃない!」
王様は恥ずかしくてそっぽを向いていました。でもついにカシャを見ると、ポロポロと涙を流し始めたのです。
「姫にそっくりだ……」
そう言ってカシャを抱きしめました。王様はひとしきり泣いて、涙が落ち着くと、カシャの肩に手を置きました。
「お城に来ないか? おまえは私たちの孫だ、一緒に暮らせたらそんなに嬉しいことはない」
カシャは王様を見つめ、ゆっくりと頷きました。カシャは一人ぼっちではなかったのです。優しい王妃様と王様がいつも見守ってくれていたのです。
「旅から戻ったら、必ず一緒に暮らします」
「旅?」
「はい、俺は父さんを探しに行きたいんです」
王様と王妃様は互いに顔を見合わせてから、優しい笑顔をカシャに向けました。
「行ってらっしゃい、姫の夫――あなたのお父さんにも会いたいわ。姫の話を聞かせてもらいたいですから――いつまでも待っていますからね」
「ありがとうございます! いってきます!」
カシャは元気に答えました。王様は旅に必要なものを用意してくれました。カシャは旅支度を終えると、トトリとアリス、それからココを順番に見つめます。
「俺も一緒に連れて行ってくれ」
トトリとアリスは喜んで声を上げました。ココも「にゃぁ」と嬉しそうに鳴きます。
「喜んで! 嬉しいよカシャ! 一緒に行こう! 君は父さんを探しに、僕たちは色を集めに」
「あぁ、よろしくな!」
トトリとカシャは互いに拳をぶつけ合いました。友達のしるしです。
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