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藤の花の咲く頃に
観覧車 -1-
しおりを挟む午後は花音も交えて園内を回ることにした。
混雑のピークは過ぎたようで、アトラクションの列もだいぶ短くなっていた。
「あれ、乗ってみたいです」
悠太は『エイリアンシューティング』というアトラクションを指さす。午前中も気にしていたアトラクションだが、待ち時間が一時間を超えるということで諦めたのだった。
「今なら三十分で乗れるみたいですよ」
まるで、どこぞのテレビショッピングの決まり文句のようなことを言う。
咲と花音は顔を見合わせ笑い、悠太と連れ立って列へと連なった。
悠太は並んでいる最中もソワソワと忙しなく身体を動かし、アトラクションの入り口を興味深げに眺めている。
その横を、子供たちが「ナカたんっ」と叫びながら走り去っていく。
「ナカたん?」
『ナカたん』という言葉に悠太は耳ざとく反応し、列を抜け出す。
「悠太くんっ」
咲は慌てて悠太を呼び止めたが、「すぐ戻りますっ」と後ろ手に手を振り、走り去っていってしまった。
「すぐ戻るって……」
見ると、列はもう少しでアトラクションの中に入れるところまで来ていた。
「どうしましょう、花音さん?」
咲は花音を見上げる。
「いいんじゃない? 悠太くんが戻らなかったら、二人で乗ればいいんだから」と笑った。
*
結局、悠太は戻って来なかった。仕方なく、花音と二人でアトラクションに乗り込む。
『エイリアンシューティング』は四人乗りのライドに次々と襲いかかってくる少し可愛らしいエイリアンを、備えつけのレーザー銃で倒していくというアトラクションだった。
「咲ちゃん、後ろは僕に任せてね」と花音が曰う。クスリと笑い、「よろしくお願いします」と返したが、後ろどころかほぼ全ての敵を花音が倒してしまった。
「すごいですね、花音さん」
咲は感心する。まあね、と花音は得意げに笑った。
「だいぶ練習したからね」
「練習?」と咲が首を傾げるのに、花音はしまったと言うように口を窄めた。
「……その、ゲームで」とバツが悪そうな顔をする。
「ゲームですか。花音さんがゲームなんて意外ですね」
花音の意外な一面に咲は顔を綻ばせた。
いつも大人ぶっている花音が、ゲームなんて子供みたいなことをしているのが可笑しかった。
アトラクションの出口を潜ったところで、スマートフォンが振動する。悠太からのメッセージだった。
『僕、ナカたんに会えたので大満足です。一人で帰るので、あとは花音さんと楽しんできてください』
「……だそうです」
メッセージを読み上げ、花音を見上げる。花音は、しょうがないね、と肩を竦めた。
「……それじゃあ、私たちも帰りましょうか?」
それに花音は「えーっ」と声を上げる。
それから咲の顔を覗き込み、「悠太くんのお言葉に甘えて、もう少し楽しみもう?」と笑う。
無邪気な笑顔に、咲の心臓はドクンと力強く脈打った。
──もう、それ、反則です……
咲は居た堪れず視線を逸らし、心の中でボヤく。頬がジンワリと熱くなった。
「……観覧車、なんてどうですか?」
視線を逸らした先に、ちょうど観覧車が見えたので、誤魔化しついでに花音に提案してみる。
「観覧車……」
花音は片眉を上げ、その大きな建造物を見上げた。
高さ八十メートルを超えるであろう円形のそれは、その壮大な佇まいから、『なかやまランド』のシンボルにもなっている。
「咲ちゃん、怖いの苦手なんじゃない?」
花音は咲に視線を戻し、気遣わしげに尋ねた。
「……まぁ、そうですけど」とゆっくり廻るそれを眺め、咲は頷く。
ただ廻っているだけなのだから、ジェットコースターのようにハラハラすることはないだろう。
「大丈夫ですよ」と答えて、はたと気がつき、咲は花音を振り返った。
「──私、怖がりだって、花音さんに言いました?」
「ああ」と花音は肩を竦める。
「イメージだよ。咲ちゃんって小動物っぽいから、怖がりなのかなって」
──小動物って……
花音さんから見たら私は、小動物っぽいのか。
なんとなくガッカリする咲の手を取り、花音は「行こっ」と笑いかけた。
花音の大きな手の温もりに、咲の心臓はドクンと再び脈打ったのだった。
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