可愛いは正義 では男前は?

丹葉 菟ニ

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本物です!

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兄の追及からは逃れる事が出来ないのか、ずっとか細い声で「だって」と繰り返すばかりの朝陽に胸が痛くなる。

「だって、なに?ちゃんと言えない子には次からはパンケーキ作ってやらないからな」

「それは嫌。兄ちゃんのパンケーキはヒート明けの楽しみなんだから無くなるのはやだ」

ただのパンケーキでは無い。ヒート明けの楽しみなら何がなんでも伝授してもらわなければならない。あの嫌な顔を見ながらでも番の為なら致し方ない。

「だったら偽物って言った理由を言わないとここに居る人が納得せずに執拗いストーカーになったらどうするの?警察にいつもお願いして排除してもらうの?接近禁止なんてどうにでも握り潰してきそうな相手に?攫われて監禁されたら俺でもなかなか救い出すのは難しいから」

流石は弁護士。俺の行動を予測してらっしゃる。しかも的確に執拗いとか色々と酷い言い方されてるけど否定はしない、本気でやるなら証拠なんか残さずに攫えばいい。
俺もそうだが父も兄を高く評価してるだろう。1を云えば10先を読むタイプはなかなかいない貴重な人材で顧問弁護を依頼してる中嶋法律でもトップクラスに位置しているはずだ。

そろっと顔を上げて俺を見てきた朝陽は不思議な顔つきになった。俺にどこかおかしいところがあるのかと父を仰ぎ見れば肩を竦めただけの父。何も無いと分かればもう一度朝陽を見返して「どうした?」と声をかけてみた。

「うーん、ストーカーはわかんないけど、監禁とか犯罪だから、そんな事はしないよ。それに偽物って言っちゃったけどホントは運命の番だとは思う。でもキライ」

「ストーカーとかは時間がある人や、同じ職場だったり通勤が一緒だったりする人がやる行為で、監禁とかは危険人物がやる犯罪だから」

「そーだよね。僕が危険人物と接触するなんてなかなかないよ」

なるほど、兄がいつも目を光らせてるわけだ。このポヤポヤ親子は目を離すと危険だな。その証拠に額に手を置いた兄の顔が若干引きつってる。

ストーカーや危険人物に監禁されない為にも俺が朝陽の周りを警戒すればいい。それよりも1番気になるのが1番聞きたくないキライである。俺は嫌われる何かをしたのか?

「運命の番は認めたのになぜキライってなるの」

俺よりも朝陽の扱いに慣れてる兄に任せて理由を聞き出そうとした矢先に面倒臭いと少し投げやりになり始めた、責任感だけで動き始めた兄に目配せだけで感謝したが目を逸らされてしまった。

「ヒートになったのに僕を置いて行った。行かないでって言ったのに」

その時の状況を思い出したのか大粒の涙を流し始めてしまった番を抱きしめた。
シェルターに1人だけにさせてしまったことは、たしかに悪かったと思う。

「ごめん。心細かったよな。俺も朝陽を1人残してシェルターを出ないといけなかったのは苦しかった。でも、わかるだろ。シェルターはΩを守るもので、例外が番夫婦か恋人カードを所有してる者しか残れない。出会って数分の俺ではどうしようもできなかったんだ」

「見つけたって思ったら置いていかれて物凄く寂しくて辛くて、捨てられたんだって思ったら胸にポッカリ穴が空いたみたいになって。それからはずっと苦しかった」

大事な番になんて辛い思いをさせてしまったんだと自分で自分を殴り飛ばしたくなる。

「朝陽の言ってるのは感情であって、法律とは全くもって無関係。恋人が居ない朝陽が1人でシェルターを使ってたから通常通り出てこれた。もし、2人で出て来たら警察に囲まれて別々に事情聴取を取られる。わかってよね。認められてない2人がシェルターを使えば録画されて全部見られる」

兄の朝から朝陽呼びにピクリと身体を強ばらせた番。兄は淡々とただ事実だけを言ってるだけで間違えてはいない。なのに、叱られた幼子の様にプルプル震えてる。叱られ慣れてない証拠だ。

「朝くんは寂しかっただけなんだよ。そんなに怒らなくても」

ポヤポヤ親の言葉に何度も頷いてみせる番の髪を撫でて落ち着かせる俺を見てる兄の目は諦めだ。

「事実を述べてるだけで怒ってません。それに朝も番だと認めた以上反対できませんからある程度は認めますよ。大切な弟を過剰にならない程度に大事にしてくれるなら」

父親は初めから認めてた。敵に回れば手に負えないと思ってた相手が兄だが、朝陽の態度から早々に無駄な抵抗は放棄した兄に心からの笑顔で「末永くよろしく」と言ったが兄は苦虫を噛み潰したような顔に又笑ってしまった。本当に心から認めてもらえるのはまだまだ先だな。
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