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第9話:「〝進めッ〟」

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「――派手にやり始めたなッ」

 芹滝機の93AWVの機内。
 その機長席で、装甲越しにも聞こえる街並みの向こうからの戦闘、銃砲撃の音に。激しい戦闘の開始を察し、芹滝は零す。
 届くそれを聞きつつも、芹滝機の93AWVは続く髄菩機の89AWVの活路を開いてやるために。速く荒々しい走行で、激しく揺れながら街路を突き進む。
 ついでに芹滝等、搭乗する三名の身体と乳房も揺れる。

《芹滝三曹、前方より〝クロ〟ッ!》

 零した直後に芹滝の耳に、操縦手である静別しずべつ陸士長の。今は男性から、白髪にツーサイドアップの映える、凛とした美少女に姿を変えているその彼女(彼)からの。知らせる声が車内通信越しに届く。
 芹滝がペリスコープを急き覗き見れば、装脚機縦隊の進行方向の街路上を塞ぐように。魔帝軍の巨大騎獣である、恐竜のような生物が立ちはだかりノシノシと向かって来る姿が見えた。
 なお、〝クロ〟とはこの異世界の敵性大型生物を総称するために振られた、陸上防衛隊内での識別呼称である。

「やろうってか――突っ込めェッ!」

 しかしそれを見た芹滝は、臆する様子を微塵も見せずに、凛々しく透る言葉で発し上げた。
 それに応じ、操縦手の静別がアクセルを踏み込み、芹滝機はエンジンを一層吹かして急加速。コンバットタイヤを鳴らして突っ込み。
 次にはその胴体の鼻っ面を、その巨大騎獣に叩き込む勢いでぶつけた。

 その質量差は、93AWVに圧倒的な軍配が上がり。
 巨大騎獣はしかしその巨体が拉げる音を鳴らし上げて、その胴を押され持ち上げられた。地面を離れ浮いた前足が、あわあわと空を藻掻く。
 その底面どてっ腹を、93AWVの主砲である90mm低圧砲が。その照準が捉える。

「――ッ」

 そして、93AWVの砲手である上道かみみち陸士長の。今は男性から、黒髪セミショートが映えて、ギザ歯がチャーミングな美少女に性転換しているその彼女(彼)の。
 その指が、主砲のトリガーを引いた。

 ――瞬間、爆音が轟いた。

 90mm低圧砲が多目的弾頭を巨大騎獣のどてっ腹に叩き込み。その分厚い腹肉を貫通して体内に喰らい込み、そして炸裂。
 その内より爆散させた。

「ッゥ!」

 間近での爆発爆散が伝えた衝撃に93AWVの機体も揺れ、芹滝等は身構えてそれを堪える。
 そしてしかし93AWVは取るべく行動を継続。
 炸裂により大きく酷く損壊した巨大騎獣の身体を、押し踏み倒してドシンと地面に沈め。その機体と装脚で強引に退けて、進路を切り開いた。

「開通だッ!」

 芹滝はその気の強そうな美少女顔を、不敵な色に作って発し上げる。
 そして芹滝機は、さらに髄菩機はエンジンを吹かし。街路の爆走を続ける。


 それから髄菩機と芹滝機はまた一度二度、街路街並みを曲がり進み。程なくして突破点として目星を付けていた、王城敷地の端の一角に設けられる通用城門を、進路上に目視する。

「――ッ。芹滝、前方ッ」

 髄菩機の89AWV内で。ペリスコープ越しにその通用城門を見止めた髄菩は、同時にその周辺に動きを見止め。芹滝のそれを告げる声を上げた。

《見えてる、確認してるッ。空挺と敵の交戦を視認ッ》

 それに芹滝から返るは。同じ物を見て確認している事を、確かに伝えるための返答。

 進行方向先の通用城門周辺に見えた物。
 それは中型の恐竜型騎獣2体を中心とする、魔帝軍の一部隊。そしてそれと対峙する空挺の1個分隊だ。
 明かせばこれは。闇魔竜を中心に籠城へと移行始めた魔帝軍主力に合流しようとしていた、この魔帝軍小部隊と。
 配置転換行動中であった空挺の分隊がこの場で鉢合わせ、戦闘に陥ったものであった。

「苦労してそうだな」
《支援したほうがいいッ》

 分が悪そうな空挺分隊の様子を察し。
 どこかニヒルに言って見せた髄菩の言葉に、芹滝からは端的な支援実施の意思の声が返る。
 そして間髪入れずに。2機縦隊の先鋒を務める93AWVが、その90mm低圧砲を撃ち放った。撃ち込まれた多目的榴弾は、中型騎獣の内の片方のその晒していた横っ腹に。横殴りに命中。
 そしてその衝撃と炸裂で、騎兵獣を吹き飛ばして屠り去った。

《そのまま踏み込んで配置するッ》

 芹滝の次の行動を伝える言葉が、通信に響く。
 そしてその通り。芹滝機の93AWVは魔帝軍と空挺分隊が交戦していた、通用城門前の交差路に走り乗り込み。
 まずはその巨体による体当たりで、残るもう一体の中型騎獣を拉げ叩き飛ばして見せた。
 そして芹滝機はそのまま交差路のど真ん中に配置鎮座。空挺分隊へ遮蔽環境を提供し、同時に残る魔帝軍の散兵へと、同軸機銃による銃弾の雨を浴びせ始めた。
 応援の到着に合わせて、空挺分隊はその火力展開を厚く苛烈な物へと増し。各小銃、軽機やグレネードの投射音が景気よく上がり始める。
 魔帝軍の兵達は人間兵も魔物兵も関係なく驚愕して狼狽に陥り、そこを容赦なく浚え屠られて行く。

「芹滝、そのまま空挺の援護支援に残ってやれ。裏取りから排除はこっちだけでやる」

 その様子を見せる芹滝機に向けて、髄菩はそんな旨の。ここよりの突入戦闘行動を、自分等の機のみで行う旨を伝える通信を送る。
 そしてそれが発されたかと思った直後には。
 髄菩機の89AWVは交戦の開始された交差路を突っ切り。そして通用城門の閉ざされていた門へ、その胴の鼻面で思いっきり体当たりをかまして、容易く抉じ開けて踏み込んだ。

《マジかッ?――いや、頼むぞッ!》

 それに最初一瞬には驚きの声を寄こした芹滝だが。すぐに議論の時間は無いと考え察したのだろう、次には端的に任せる言葉が寄こされる。
 そして直後には、またもの90mm低圧砲の咆哮が、轟き聞こえ届く。

「任された」

 それを自機の背後に聞きつつ、髄菩はそう皮肉気な声色で答え。
 そして一層の荒々しい走行行動を見せ伝える93AWVのそれに、その身を揺らした。



 城門城壁を越えた向こうは、貴族や王城関係者が住まう住宅施設がひしめく一種の上街であり。そして現在は魔帝軍に占拠され、応急の陣地施設として使用されている。

 ――その最中を、髄菩機の89AWVは爆走していた。

「どひーっ!メッチャアップダウンするしっ!」
「おしゃべりはやめとけ、舌嚙むぞッ」

 機内では緊張感の無い声を上げる奈織に、髄菩が忠告の言葉を飛ばす。

 89AWVは、その強靭な装脚とコンバットタイヤで。
 街路に置かれるあらゆる物を蹴飛ばし。街並みの家々をそこかしこ叩き殴り損壊させ。
 そして行く手を阻む帝国兵達を、騎兵騎獣を、兵器の類を。轢いて跳ね飛ばし、踏み潰し、ぶち壊して。
 傍若無人を体現するそれで進んでいく。
 それでも抗い牙を剥こうとする者には。89AWVの備えるその35mm機関砲の凶悪で無慈悲な投射が撃ち注ぎ込まれ、その体をことごとく血肉の霧へと変える末路を辿った。

 攻める側であったはずが、知らぬ間に攻められる側になっていた魔帝軍の兵達は。混乱狼狽の中で、しかし矢を射、魔法を撃ち、死に物狂いの抵抗を見せて来る。
 今も爆走する髄菩機を狙い、矢が無数に降り注いでその装甲を叩き。魔法がすぐ側に落ちては爆裂爆炎の類が上がる。

「――ッ――ビビるなッ、進めェァッ!!」

 しかし、その猛攻を受けてなお。
凛々しくも愛らしい姿身ながら、しかしその真髄に揺ぎ無き〝心〟を宿す者は。
 髄菩は、号の如き声色で発し張り上げる。

 最早。その爆走を止める事など、誰にも認められず、誰にも叶う事は無い。

 それまさに、鋼鉄の衝撃であった――
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