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第6話:「大反抗攻勢作戦」

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 ――数日後。
 防衛隊中を駆け巡っていた、噂の大反抗攻勢作戦は予想通り。
 そして、満を持してベールを脱いでの大発表――などと言う事は無く。
 むしろ知っての事だろう、当たり前の事だろうとでも言わんまでの、自然な流れで堂々と開始された。


 大は旅団戦闘団や連隊戦闘団、中小は大隊・中隊戦闘群から浸透のための小隊分隊規模の。この時のために編成整理された数多の部隊が。
 小手先の企みは不要と言わんまでに、各地より進出。
 侵略の手を伸ばす鋼獣帝国軍と、真正面より頭突き合いの勢いで激突。
 各地で激しい戦闘が開始された。

 作戦はシンプルな分、劇的に戦況をひっくり返すような戦果結果はやはり無く、もちろん端から期待されておらず。
 しかし物量と技術差に物を言わせた攻勢は。確実に着実に、鋼獣帝国軍を削り押し退けて進んでいた。



「――ハァ」

 髄菩は、自機である89AWVの砲塔コマンドキューポラ上に。今はまた美少女の身体で、軽量装甲戦闘服7-型を纏うその身を置き。
 そこで一仕事終えたような、少し疲労の見える吐息を吐いた。


 その一仕事終えた様なと言うのは、実際の所その通りであり。髄菩の指揮する89AWVは、そして髄菩等の所属する連隊戦闘団は。
 大反抗攻勢作戦に参加する部隊の例外に漏れず、進出攻勢を開始。
 そしてこの数日間で、進行進路上に待ち構えていた鋼獣帝国陸軍の装甲旅団を、激戦を繰り広げた果てに見事打ち破り。
 その先に存在する、鋼獣帝国に占領支配されていた街を。解放してみせたのであった。

 そしてだ。街は鋼獣帝国軍より解放のこの日を迎え、そこかしこが引っ繰り返したようなお祭り騒ぎだ。
 陸上防衛隊の、髄菩も所属する戦闘団の各位は、街の住民の歓待にもみくちゃにされる勢いで。それを受け入れつつも、混乱・事故等が起こらないように神経を張り詰め、人手や労力を割かれる羽目になった。
 その後。実はこの国の軍隊の部隊も、いくらかが自国解放の面目を立ててやる必要性上、連隊戦闘団に同行しており。
 ようやく追いついてきた、そのこの国の部隊に花を持たせ――という建前で、街の住民の歓待の相手を、同国民であるそちらに向けさせて相手を押し付け。
 連隊戦闘団は、ようやくインターバルの暇を迎えるに至っていた。


 現在。髄菩機の89AWVは、その街の中心にある広場の端っこに、ややひっそりと潜むように駐機している。
 砲塔上より眼下を眺めれば。同じく機体上に這い出て上がって来た、砲手の薩来や操縦手の藩童が、そこで一息吐く様子を見せている。
 ついでに言うと。皆一様に美少女姿に性転換して、軽量装甲服のボディースーツ姿でその魅惑の身体を魅せながら。
 髄菩等は、連日続いた戦闘の果てに。今はようやくの少しの休息の時間を、享受している最中であったのだ。

 機体砲塔上の髄菩の視線の向こうでは、広場の中央付近に駐機する93AWVが見える。それは芹滝機のものであり、機体上には今もショートボブ美少女姿の芹滝や。同じく美少女に性転換している、砲手の上道や操縦手の静別の姿も見える。
 そして93AWVは、いくらかのこの街の子供達に集い囲われていた。
 広報喚起の実地により、いくらか落ち着いたのだが。街を解放して見せた防衛隊への住民の、特に子供達の興味はやはり大きく。
 恐ろしいまでの鋼鉄の兵器を操る者等の正体が、見目麗しい美少女たち(正体は男だが)である事が、また子供たちの興味好奇心を引くことに拍車を掛けており。
 そんな経緯でちらほらと集った子供たちの相手を、芹滝等はしていたのだ。

「ご苦労だな」

 そんな芹滝等の様子を、他人事のように見つつ。髄菩は一時の休息の甘受を続けている。

「――ん?」

 しかし直後。その髄菩が、そして他の二人も。その耳に甲高く独特の音声を聞き留めた。
 それは、緊急車両のサイレンだ。
 この世界のこの国も、日本との時代差はあるが自動車は普及しており。髄菩等は最初はこの国、この街の警察消防組織ものである可能性も考えるが。
 すぐにそれが、聞きなれた日本の緊急車両のサイレンである事が判別できる。そして戦地であるここで、そのサイレンを鳴らす車輛は防衛隊の緊急車両しかない。
 直後、それを証明するように。現在地の広場より伸びる街路の向こう、そこの交差路を。連隊戦闘団の衛生隊が保有する1トン半救急車が、急く様子でサイレンを響かせ走り抜けていった。

「何かあったな」

 それを見た髄菩等三人のうち、今は悪魔少女っぽい容姿になっている藩童が、察する声を上げてくる。

「フフ――不穏」

 それに、薩来が不気味な声で答える。

「面倒事か?」

 そして髄菩は気だるそうな声を零す。同時に視線を上げれば、93AWV上から芹滝が「言ってみるぞ」と促す色で、目配せをして来ている。

「はぁ、行くぞ」

 そして髄菩はまた気だるげに零し。他の二人に促す言葉を紡いだ。



 髄菩、芹滝等を乗せた89AWVと93AWVは、街路を抜けて。街の端の出入り口へと到着した。
 そこには防衛隊、連隊戦闘団の各員各隊、各車両が集まりごった返す様子が見える。そしてその気配は急き緊迫の様子だ。
 そしてその中心となっているのは、一個小隊ほどの部隊だ。
 見えるはその隊員等と、含まれるいくつかの装甲車輛や軽量型装脚機。そしてそのいずれもが、酷く傷ついた様子を見せていたのだ。
 その正体の彼らを助けるべく、衛生隊員を中心とした各隊員が、急き慌ただしく動き回っていた。

「空挺の面子だ」

 その中心となっている傷ついた正体を見止め、髄菩は砲塔上より零す。その傷ついた正体の所属正体は、髄菩等の属する連隊戦闘団とは別の部隊。
 第1空挺団の隊員等であった。

「聞いてくる、二人は手を貸してやれ」

 髄菩は薩来や藩童にそう伝え指示すると、自身は93AWVより飛び降り。93AWVから同じ様子で飛び降りて来た芹滝と合流。
 騒ぎ騒動の渦中へと、駆けていった。

「中隊長と隊長だ」

 荒々しく混雑するその現場を抜て行った髄菩と芹滝。その騒ぎの最中に知る人物を見つけて、芹滝は声を上げた。
 見えたのは、険しい色で言葉を交わしている――美女と美幼女だ。

 美女は、黒髪の長いポニーテールが映える、凛々しく気の強そうな。迷彩服3型姿の美人。
 明かせば。その正体は髄菩等の付随所属する普通科中隊の中隊長である〝男性〟の、性転換した姿。

 美幼女は、長い白髪ロングの麗しい、まるでお人形のようなロリータ幼女。その身発育のイカ腹ボディを、軽量装甲戦闘服7-型で包み魅せている。
 また明かせば。その身分は髄菩等の所属する装脚機隊の隊長であり、髄菩等の直接の上官。そしてその正体は、腹が出てハゲ散らかした、うだつの上がらないおっさん隊長の性転換した姿であったりした。

「中隊長、隊長ッ」
「ッ……あぁ、芹滝に髄菩か」

 その二人に芹滝が声を掛けて飛ばすと、二人はこちらに気づき顔を向ける。そして装脚機隊長の白髪ロリの方が、その愛らしい顔をしかし渋く困惑するそれに顰めつつ、言葉を返して来た。

「何事です?彼らは空挺のようですが?」

 二人に駆けより相対し。芹滝は率直に状況事情を尋ねる言葉を返す。

「空挺がここよりさらに推し進めているのは知っているな?その一部、突端の部隊がそこにある街で包囲されかけて、からがら後退して来たそうだ」

 それにまた端的に答えたのは、中隊長だ。

 詳細はこうだ。
 第1空挺団は反抗攻勢作戦の最前線を推し進める役割を担当していったが。混乱混戦の果てに、その先端の位置していた部隊の一部が、進出先の街で包囲される危機に陥ったという。
 その部隊の主力は、なんとか隙のある内に脱出する事に成功し、そしてこの街までの交後退指示を受けて引いて来たとの事であるが。
 実は、問題が一つ残っていた。

「――一個班と、応援に来てくれた装脚機の一機が。殿となって取り残されている……ッ」
「!」

 その続きを発したのは、その場に割って割って入って来た美少女だ。
 金髪ツインテールが映える、気の強そうな美少女。軽量装甲戦闘服7-型に包まれるは、豊かなワガママボディ。

「二尉、治療は?」
「後でかまいませんッ」

 その現れた美少女に、中隊長が案ずる言葉をまず掛けて発する。
 見ればツインテ美少女の身には痛ましい怪我が見えたが、彼女は構わないといった様子で続ける。

 彼女はその後退して来た空挺の小隊の、軽量装脚機乗りの隊員である人物であった。
 補足すれば、装脚機への搭乗の都合で性転換している、やはり正体は男性である。

「取り残されている?」

 その彼女からのあまりよろしくないワードを聞き留め、言葉を返したのは髄菩だ。

「あぁ――」

 それにツインテ美少女は、苦く悔いるような様子で説明する。
 聞けば。小隊の後退する際に殿を買って出た空挺の1個班と、後方より無理をして押し上げ駆け付けてくれた1機の90MBWが。その街に、敵の包囲の中に取り残されているというのだ。

「無茶を……」

 それに、芹滝は思わず少し苦い色の言葉を零す。

「一緒に後退するよう具申したさ。だが、彗跡と闘藤三佐は、頑として殿を譲らなかった……ッ」
「ッ!」

 それに、また酷く苦く悔いるように零すツインテの彼女。
 その彼女が発した名前のそれを聞き留め、微かに目を剥いたのは髄菩だ。

「残ったのは、彗跡二尉等かッ」
「闘藤さんもか……ッ」

 そして、発し上げる髄菩と芹滝。

「彗跡を知ってるのか?」

 それに、ツインテ美少女は少し驚くそれで返す。

「えぇ、以前の作戦で一緒になる事がありました――ってコトは、あのやかましいパリピギャル野郎もいそうだなッ」

 その名前の上がった空挺の二尉は、以前の作戦で髄菩等が作戦を共にした事がある人物であった。
 その事実を答え返し。そしてその二尉の部下である顔見知りもまた、その殿に含まれていそうな事を推察する髄菩。

「それに、闘藤さんもとはな……っ」

 そして続け、苦い色で発する芹滝。
 先日に防護陣地の守りを交代した際に顔を合わせた、また顔見知りである90MBW乗りの闘藤。その彼女(彼)こそ応援に赴いた者であり、そして空挺の1個班と共に取り残されている事が発覚。
 その事実から浮かべた苦い色であった。

「チト、早急に動かんとまずいな――ッ」

 そしてそれらの発覚した事実から。髄菩は苦い色でそんな言葉を紡いで見せた――
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