約束の果てに

秋月

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*桜の想い

桜の想い#16

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華さんとのお喋りを楽しんでると不意に部屋の扉が開いて、そこには神職袴姿で何か良く分からない物が幾つか乗ってるお盆を持った琉が居た

琉「蓮?」

華「琉お疲れ様
見ての通り蓮ちゃんがあんたに会いに来たみたいよ」

琉「話し声がするから誰か居るんだろうとは思ったけど」

そう言うと琉は何故か私の方ををじっと見ていた

華「琉、あとの事は私と陸人でやっちゃうから、蓮ちゃんと散歩でもしてきたら?」

立ち上がって琉の持ってるお盆を受け取る華さん
あとの事ってもしかしてまだやることがあるの?
そういえば私、連絡もなしに突然お邪魔して、こんなの迷惑極まりないじゃん…っ

蓮「ま、待って、忙しいなら全然…!
そうとは知らずに急に押し掛けちゃってすいませんでした
私、帰りますから気にしないで下さい」

華「そんな、気を使わないで~
大したこと残ってないんだし大丈夫よ、ね、琉?」

琉「…ありがと、母さん
じゃぁ、任せた」

華「はいはーい」

蓮「え!?」

そのまま琉に手を引かれて境内の中を歩き進み、本殿の裏の方にやって来た

蓮「わぁ…こっち来たの初めて」

本殿の裏には小さな祠の様なものが幾つか並んでいた

蓮「祠?」

琉「1つ1つ神様が祀られた祠」

蓮「神様…」

本殿の裏にひっそりと佇んでいて、普段は人が来なそうな場所なのに、とても綺麗に整えられてる
琉や陸人さん達が毎日お掃除してるんだろうな

蓮「ここの神様達は幸せだろうね」

琉「どうした突然」

蓮「なんでもない」

琉「…1人で来たんだよな?大丈夫だったか?」

蓮「大丈夫、琉の御札があるしね
ここに来る前になおにも会ってきたんだ」

琉「直人?」

蓮「桜の事で私の事心配してくれてたみたい
琉も気にしてるかなって思って…何て言うか大丈夫って姿を見せに来たと言うか…」

琉「そっか、正直安心してる
もう少し取り乱すと思ってたからさ」

蓮「自分でも意外と落ち着いてられててびっくり」

琉「そっか」

私が笑うと琉も息を溢すように微笑んだ
そして琉はおもむろに懐から白い布を出すと小さな石段の上に敷いて、琉も腰を掛けた

琉「座れば、疲れるだろ」

蓮「え、大丈夫だよ
布汚れちゃうし…」

そしたら琉は立ってる私の手に手を伸ばして触れる

琉「いいから」

蓮「ありがとう…」

私はそのまま琉の隣に座った
ふと顔を上げると木漏れ日が漏れて、ソヨソヨと心地いい風も感じてほのかに水の香りもするような気がする

蓮「なんだか落ち着くね、ここ」

琉「…変な感じだな」

ふと、琉がそう呟いた

蓮「何が?」

琉「…静かすぎると思ってさ
正直俺にとっても桜が居たのが日常的だったからさ
時々煩いくらいだったし」

蓮「あはは、琉と桜ってば結構口喧嘩する事が多かったもんね」

琉「あいつが何かと突っ掛かってくるからな」

蓮「うーん、そう言われるとそうだったかも
あ、そういえばさっき琉が持ってたの何?
私初めて見たけど、なんか金色の小さいやかん…?みたいなやつとか色々あったけど何かに使うもの?」

琉「やかんって…あれは御神酒おみきだよ」

蓮「御神酒?」

琉「御供えするお酒の事
俺が持ってたのはその道具一式
お前がやかんって言ったのは銚子ちょうしっていう酒を注ぐ道具」

蓮「へぇ~…」

私ってきっと無知なんだろうな
お勤めとかそうゆう事も何をしているのか、どうゆうものなのか分からないし…
でも、大事な事なのはなんとなく分かる

蓮「私、大事なお勤めの途中でやっぱり迷惑だったよね…」

自分の気持ちを優先して考えなしだったかも…
落ち込む私を見て、琉は不意に頭を撫でてくれた

琉「良いって別に
まぁ、でも次からは連絡して
本当に忙しい時もあるから」

蓮「うん、気を付ける
今日はもう大丈夫なの?
もし用事があるなら私も帰るから
琉に少しでも会えただけで満足だし」

琉「あと1時間くらいなら平気だな」

そう袖を捲り腕時計を確認した琉

蓮「琉って腕時計してたんだ
初めて知った」

琉「そうだっけ
この格好の時は人前で携帯あんまり出せないから
持ってはいるけど」

確かにそんなイメージ無いかも

蓮「てゆうより、琉のそんな格好初めて見た
それも袴っていうのかな?」

琉「神職袴って言うんだよ」

蓮「そういえば陸人さんはいつもそんな格好してるね
じゃぁ、華さんも巫女さんみたいな格好してる時があるの?」

琉「や、母さんはしない
というより巫女って20代くらいまでだぞ
30代でもやってる人は稀に居るけど、母さんは恥ずかしいから無理って大体私服」

蓮「そうなんだ
華さん若いし全然いけそうだけど
でも琉も似合ってるね、格好いい」

そう微笑みかけると琉は少し間を開けて

琉「そ」

それだけ呟いた

蓮「…もしかして照れてたりする?」

顔にはやっぱり出てないけど、なんとなく雰囲気がそうっぽく見えてしまった

琉「照れてはない
お前がそんな事を言うのは珍しいと思っただけ」

そういえばそうかもしれない
静かに前を眺める琉の横顔を私は見つめた
本当に桜が居なくなって静かになったけど、琉とならこの静けさも心地よく感じる
ふと、琉の髪に手を伸ばしてみた

琉「何?」

思わず軽く避けるような動作を見せる琉

蓮「ごめん、触ってみたくて…嫌だった?」

琉「…急すぎるんだよ」

蓮「琉もいつも急に触る~」

からかうように笑いかけると、琉は軽く溜め息をついた

琉「はぁ…そうゆうところも桜と似てるな、お前」

蓮「あはは、褒め言葉として受け取っておくね」

琉「前向きだな」

そう小さく笑い合った
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