君が嫌いで…好きでした。

秋月

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君が嫌いで…好きでした。

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中庭につくとベンチに座った

湊「ほら、ハンカチ濡らしてきた。それで冷やせよ」

千菜「…ありがと」

湊から貰ったハンカチを頬に当てる
湊は私の隣に座った

湊「大丈夫かほっぺ」

千菜「うん…」

湊「お前も売り言葉に買い言葉だよな。あんな風に言えば余計怒るに決まってんだろ」

千菜「……」

湊「何黙ってんの?もしかしてまだ痛いのか?」

千菜「私は…奏叶を不幸にする事しか出来ないのかな…」

湊「あいつ等の言ってた事気にしてんのか?
そんなん気にするだけ無駄だろ。不幸か幸せか判断すんのは俺達じゃねぇ。かなだろ
それに不幸だと思ったらあそこまで過保護に東の事、気にするわけねぇだろ」

千菜「でも私にはあの噂が…」

湊「んなこと気にしてどうすんだよ。噂があろうがなかろうがお前はお前なんだから堂々としてりゃいいんだよ」

千菜「湊…」

湊「それよりなんなんだよこの暗い顔は」

ぐにっと湊は私の頬を軽くつねった

湊「大体なんだよ。暗い顔ばっかしてても仕方ねぇだろ。昨日言ったろ。笑ってればいいんだよ」

千菜「…うん…湊は…私の事どう思う?」

湊「は?」

千菜「やっぱり私と居るのは怖い?」

湊「紛らわしい…お前みたいな弱虫が怖いわけあるかよ。確かにさ、かなを不幸にすんのはお前かもしんないけどそれ以上に幸せにしてやれんのもお前だけなんだよ」

千菜「湊…」

湊「いいから笑えって」

千菜「うん…」

なんとなく湊の言葉のお陰で心が軽くなったかもしれない…

湊「笑ったな。影で言いたい奴は勝手に言わせとけって。かながお前を選んだんだから心配することもないしな
さ、さっさと教室戻ろうぜ。かなもきっと待ってる。ほっぺどうだ?」

千菜「湊のお陰でだいぶいい…ありがと湊」

なんだか奏叶に早く会いたくなっちゃった
不幸にするのも幸せにするのも私次第か…
湊って意外と色々と考えてるんだな…

―…授業終わり千菜を迎えに行こうと思っていたら体育委員で先生に捕まってしまった
湊は湊で見捨てて先に行くし…
体育倉庫の片付けなんて本当ついてない
そしてようやく終わりそうな時慌ただしい足音が聞こえた

「居た!奏叶!」

走ってきたのは同じクラスの女子2人

奏叶「何?そんなに慌ててどうかした?」

「大変だよ奏叶!東さんが女子達に連れていかれてた!」

「裏校舎の方行ったから不味いんじゃないかな…早く助けに行った方が良いよ!」

奏叶「千菜が!?裏校舎ね!ありがと!」

慌てて裏校舎に向かったけどそこにはもう湊が居た
なんとなく出でいけなくて俺は影に隠れてしまった
そしてなんとなくずっと湊と千菜の様子を見ていたらある疑問が俺の中に生まれた
ずっと一緒に居れば些細な変化にも気づいてしまう
もしかしたら湊は千菜の事を…
まだそうと決まったわけじゃないけど俺の中に微かに不安がよぎった
そして俺は何もせずそのまま教室に戻ることにした
千菜無事みたいで良かった

――――…

「おい、こいつん家お母さん居ないんだってよ」

「こいつお母さんに捨てられたんだってよ」

奏叶「何してんの?」

「奏叶!こいつお母さん居ないんだぜ」

奏叶「…それがどうしたの?」

「え?どうって…面白いだろ?」

奏叶「何も面白いことないし。そうやって笑って人を馬鹿にする奴、俺好きじゃない」

「な、なんだよ…行こうぜ!」

小学校の頃、離婚がきっかけで苛められている湊と出逢った

奏叶「たくあいつ等…大丈夫?」

湊「別に助けてなんて頼んでない」

奏叶「うん。でも困ってるように見えたから」

湊「…お前も俺の事可哀想だと思ってんだろ」

奏叶「可哀想?なんで?俺、七瀬奏叶!お前は?」

湊「―…野々村湊」

奏叶「ふーん。よろしくな湊!」――…

湊…お前は千菜の事を…だとしたら俺は…
教室に戻るとさっき千菜の事を教えてくれた女子が心配そうに声をかけてきた

「奏叶!東さんどうだった!?」

直接千菜に関わる訳じゃないけど影ながら千菜の事を心配してくれる人が居る
千菜…千菜はもう1人じゃないんだよ
でも…湊は?

奏叶「うん。大丈夫だった。教えてくれてありがとう」

「良かった。でも東さんは一緒じゃないの?」

奏叶「うん。でももうすぐ来ると思うよ」

その時、千菜と湊が一緒に戻ってきた

湊「かな戻ってたのかよ。もう終わったのか?」

奏叶「まあね」

湊「それより聞けよ。未だにこいつ女子に絡まれてるんだぜ?俺が居たから良かったものの彼氏ならちゃんと守ってやれよ?」

奏叶「そうなの?千菜大丈夫だった?」

千菜「うん…平気…」

なんとなく湊はちゃんと話してくれると思ってた
そして千菜は別に何も言わないと思った
案の定予想通りで…
湊が考えていることも千菜が考えていることもなんとなく分かってしまう
何より気がかりな事は湊だ
確信は無いけど気づいてしまった
だとしたら俺は…
でも今は千菜に余計な心配はかけられないだから余計な事を考えるのはやめよう

奏叶「そういえば千菜保健室行ったんでしょ?大丈夫だった?」

俺が千菜に声をかけると同時に湊は他の奴に呼ばれその場を離れていった

千菜「うん…やっぱり少し寂しいけど…新しい先生が優しそうな人で…」

奏叶「そっか。良かった。でも無理しないようにね。俺が居るんだから少しは頼ってよ」

俺が千菜に出来ることは限られてる
でも俺は千菜の為にその出来ることを精一杯やりたい

千菜「うん」

奏叶「じゃぁ…そろそろ席に戻ろっか。昼休み終わっちゃうし」

そう言って俺が席に戻ろうとすると千菜が服の裾をピッと掴んだ

奏叶「千菜?どうかした?」

千菜「行かないで…」

最初の頃に比べて喋るようになったし表情も豊かになってきたけどやっぱり不安そうな顔は消えない
それにこんな風に甘えてくることなんて無いから、正直嬉しい

奏叶「分かった。チャイムなるまで一緒に居るよ」

そう言うと千菜の表情が少し和らいだ

奏叶「…今日一緒に帰ろう。湊と3人で」

千菜「うん」

千菜を不安にはさせたくない
でももしかしたら千菜と一緒に居られるのはあと少しかもしれない
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