君が嫌いで…好きでした。

秋月

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君が嫌いで…好きでした。

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バスケを見るので夢中で上から落ちてくるスローガンに私は気付かなかった

奏叶「千菜危ない!」

奏叶の言葉に気付いた時には遅かった
―…大きな音がしたと思ったら目の前が真っ暗になった
周りからはいろんな声が聞こえてきた
何が起こったのかすぐに理解できなかった

奏叶「千菜…大丈夫?」

千菜「奏叶…?」

私を看板から守るように覆い被さってくれていた
そしてすぐに湊や先生が看板を動かしてくれた

湊「千菜!かな!大丈夫かよ!」

千菜「私は平気…」

奏叶「俺も大丈夫って言いたいところだけど…背中に強くぶつかったみたいで」

奏叶は痛そうに背中を押さえた

湊「すぐ保健室行くぞ!千菜も!」

千菜「う、うん…」

奏叶は湊に支えられながら、私はその2人の後を追いかけた

―…保健室

鈴村「あら、結構強くぶつけたみたいね
痣になってるけど骨に異常はないと思うわ
彼女守るなんてカッコいいじゃないの!」

鈴村先生は軽く手当てをして奏叶の背中をパシッと叩いた

奏叶「いてっ…先生一応怪我人なんですけど」

鈴村「若いから治りも早いはずよ
私職員室行かなきゃだから貴方達も授業戻りなさいね」

湊「大したことなくて良かったな
じゃ、俺先に戻るな」

奏叶「ありがとな湊」

湊の奴…気を利かせてくれたんだな
ここに来てから何も喋らず立ち尽くしている千菜
千菜を助けられたのは良かったけど…やっちゃったな…

千菜「痛い…?」

微かに震えてながら消えそうなくらい小さな声

奏叶「千菜、我慢しなくていいよ」

そう言った瞬間、気が緩んだのか千菜の目から涙がこぼれた
胸が少し痛かった
今、千菜が泣いている原因は俺だ
千菜。千菜はどれだけ辛い思いをしてきたの?
どれだけ苦しかった?
たったこれだけの怪我で苦しそうに泣くほど千菜は自分を責めているのだろうか
ただでさえ最近高梨さんや鈴村先生の事で不安になっていた千菜…
今、その涙をどうやったら止めてあげられる?
どうしたら千菜の不安を取り除いてあげられる?

奏叶「千菜抱き締めてもいい?」

千菜「え…?」

聞いておきながら千菜が返事する前に俺は千菜を抱き締めた
千菜暖かい…こうしてると安心する
でも千菜は?
1人で居ても俺と居ても不安がいっぱいで今もこうして泣いている
抱き締めていても千菜は不安なのかな…

奏叶「千菜…別れる…?」

どうして俺は今こんな事が言えたんだろう
自分から告白しておいて自分から別れを告げるなんて…この状況で
俺はきっとずるい奴だろう
しかもそれを千菜に選ばせるなんてさ
でも…別れた方が俺達の為かもしれない
千菜も1人で居た方がもっと楽だったかもしれない
俺の事で不安になって泣くこともない
何が正しいのか分からない
ごめんね千菜
情けない彼氏でさ…

ー…後悔しても遅い
奏叶の前で泣いてはいけないと後悔してから気づいた
でも奏叶の顔を見たら自分でも分からない
涙が自然と溢れたの
悲しかった?辛かった?
自分で自分の事が分からない
奏叶の腕の中で別れる?と聞いてきた奏叶
抱き締められてるから奏叶の顔が見えない
どうしてそんなこと言ったの?
どうしてそんな寂しそうに言うの?
今、奏叶は何を考えてるの?
でもそうさせてるのは間違いなく私
確かに別れてしまった方が奏叶の為かもしれない
そうすれば奏叶が死ぬことはないかもしれない
それが今の私が奏叶にしてあげられる事かもしれない
…1人に戻れば不安に襲われる事もない
でも奏叶と関わった事実は消えない
別れたところで全部無駄かもしれない
それに奏叶との事を思い出にしてしまうの…?
未来の事は誰にも分からない
何が正しい答えなのか私には分からない

千菜「…私は奏叶が居てくれれば幸せなの」

ごめんね奏叶
弱虫でごめんね
奏叶に…そんな思いをさせてごめんね
でも奏叶が居れば今まで見えなかった未来を描くことが出来るの
貴方の側に居たいの
だって…今では離れたくないって思えるほど奏叶が好きだから

奏叶「…ははっ。千菜って変」

何故かそんな風に言われた

千菜「奏叶に言われたくない…それより離して…涙も止まったから…」

奏叶「なんで?」

千菜「…恥ずかしいから」

分かってるくせに聞かないで
たまに奏叶は意地悪だ
でもそんな奏叶が好きな私はおかしいんだろうな

奏叶「…さっきは泣いてたのに今度はなんで笑ってるの?」

千菜「分かんない…でもなんか嬉しいの」

奏叶「変な千菜。そろそろ帰ろうか」

時計を見ればとっくに授業が終わって放課後になっていた
授業終わりのチャイムにも気付かないなんてあるだろうか
教室に戻ると湊は居なかった
もう凜ちゃんの所に行ったんだ
夢中になれるものがあるって凄いな…
帰り道、ずっと繋いだ手
今日あんな事があったのに何故か胸につかえていた不安が嘘のようになかった
あんなに不安だったのにどうしたんだろう…
アパートに着くといつものように奏叶が見えなくなるまで見送った
夢も最近見なくなってたし、何故かいつもあった不安もこの日は消えていたから安心していた
同じ明日が来るのだと、また湊と奏叶がいる賑やかな1日が始まるのだと別れを惜しみながらも明日が来るのを楽しみにしていた
でも奏叶に私の声はどうやら届かなかったらしい
ずっと良い天気が続いていたのに、その日の夜は久しぶりに雨が降りだした
悪い知らせを届けるかのように…
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