君が嫌いで…好きでした。

秋月

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君が嫌いで…好きでした。

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1日経つと体に少しずつ感覚が戻ってきて、喋ることが出来るようになった
でも感覚が戻ると酷い怪我の痛みに時々襲われた
でもそれが生きている証拠だと思った
湊と凜ちゃんと鈴村先生は仕事が終わっては毎日お見舞いに来てくれた
そして湊から聞いた話だと学校では私と奏叶が凄い噂になってるそう
でもどうやら今までみたいな悪い噂ではないみたい
そして私を庇ってくれる人もいたとか…
それを聞いた時はびっくりしたけど…少し嬉しかった
私が笑った顔を見て湊はアホ面って笑った
凜ちゃんは順調に怪我も治って松葉杖もなくなり、以前のようにバリバリ働いているんだとか
奏叶と私はというと、この事故がきっかけで少し変わった
奏叶は毎日車椅子で来てくれてずっと側に居てくれる
それが嬉しかったし、早く元気にならなくちゃって励みにもなった
今まで不安で奏叶も死んでしまうんじゃないかって怖かったけど…今はそんな事思わない
だって奏叶は約束を守ってくれた
だからもう不安になってないで奏叶を信じようと決めた

―…事故に合って目が覚めた時、湊から千菜が屋上から飛び降りったって聞いた時は心臓が止まる勢いだった
ろくに動かせない体を必死に動かして、ずっと眠り続ける千菜の手を握って帰ってくるのを祈ってた
だから千菜が目を開けてくれた時、本当に嬉かった
千菜は夢の中で家族や伊藤に会ったと話してくれた
とても嬉しそうに…
そして今回の事があってから千菜は少し雰囲気が変わった気がする

奏叶「千菜…またご飯残してる」

千菜「だってあまり食欲ないんだもん…」

元々少食気味だし、食事は気まぐれな方だけど…

奏叶「食べなきゃ治るものも治らないでしょ?」

千菜「いらないもん…そんなに言うなら奏叶が食べればいいでしょ?」

奏叶「俺が食べちゃ意味ないでしょ?
わがまま言ってないで食べて」

俺が軽く千菜の頬をつねると痛い、食べるから離してって言って離すとべーっと舌を出して笑った
こんな千菜見たことがない
何かが吹っ切れたようにスッキリした表情だし喋るようになった
笑うことも増えた
前から少しずつ笑っていたけどこんな風に笑う事はなかった
これがもしかしたら本当の千菜の姿なのかな

湊「やっほー、お見舞いに来てやったぞ」

千菜「湊!」

湊が来ただけで嬉しそう
今までどれだけ感情を押し殺していたのだろう
今の千菜の方が何倍も好きだな
でもその笑顔を湊にまで振り撒かなくてもいいのに…そんな些細な事で妬いている俺は心が小さいのかも

ー…事故から1か月があっという間に過ぎた
毎日、奏叶と一緒に辛いリハビリを必死に頑張った
そしてようやく退院する日がやって来た

奏叶・千菜「ありがとうございました」

病院の入り口でお世話になった先生や看護師さん達に深く頭を下げて私達は手を繋いで病院を出た
久しぶりに見た外の世界は今まで見たことないくらい輝いて見えた

奏叶「はーぁ、やっと退院出来た」

千菜「…奏叶」

奏叶「ん?」

千菜「私達…生きてるんだね」

空を見上げるとあの時の不思議な夢を思い出す
皆がずっと守っててくれたんだね…

奏叶「うん。生きてる」

何故か涙が溢れた

"千菜、俺と付き合って"

あの雪の降る日に声をかけてくれた君
あの時は何も知らなくて知りたくもなかった
弱くて怖くて…1人で居たくて…
なのにうっとおしいくらい話しかけてくれて、酷いことを言う私に優しく笑いかけてくれた
今までそんな事してくれる人が居なかったから戸惑ったし嫌いだった
傷つけたくないのに君は何度だって笑いかけてくれた
そんな暖かい君の笑顔に徐々に心が揺れていった
そしていつの間にか君を好きになった
だけど好きになったから余計苦しかった
恐怖や不安に何度も潰されそうだった
なのに君はその笑顔を絶対に絶やさなかった
不安がありながらも君と過ごす時間は幸せだった
君の暖かさに初めて気付いた
今こうして君の隣に居られることが一番幸せなんだと思い出す
笑って泣いて苦しくて…限りある日々の中を、進んでいく時間を、私はどれだけ大切に出来るんだろう
だけど…君がいればこれから続く未来はきっと輝いているんだろうなってそう信じられる
そして…君にちゃんと伝えなきゃいけない
私の言葉で…

湊「あれ、もう出てきてたのか」

奏叶「湊!なんだよ、わざわざ迎えに来てくれたのか?」

湊「まぁな…色々あってどうなるかと思ったけど最悪の結末にならなくて良かったよ」

奏叶「悪かったな。心配かけて」

湊「あんな絶望的な思い2度と御免だからな
千菜もおかえり。もう大丈夫なのか?」

千菜「うん平気。ありがとう湊」

奏叶「それよりその2人は?」

湊の隣には2人の女の子
見覚えがある…
名前は知らないけど同じクラスの人
私の噂で誰も近づかないのにどうしてここに?

湊「あぁ…どうしても来たいって言うからさ」

「東さん…」

千菜「私…?」

クラスの女の子がわざわざこんな所に…
しかも私に何の用なんだろう
だけど女の子の1人がとった行動は思いがけないものだった

「ごめんなさい…っ!」

深く頭を下げて謝る女の子
思いがけない行動に私は戸惑い、思わず情けない声が出た

千菜「え…?」

「東さんが飛び降りたって聞いた時やっと自分が間違ってた事に気付いたの!
下らない噂に流されて東さんを傷つけて…!
ずっと苦しかったよね…」

なに…?

「東さんも何も言わないのも悪いけど、ただ噂を丸のみにして信じてた私達も馬鹿だった
ごめんなさい」

私に謝ってくれる2人…
これは一体どうゆうことなんだろう…
隣に居る奏叶も少し驚いているみたいだった
そんな私達を見て湊が教えてくれた

湊「前に話しただろ?
噂から千菜を庇ってくれた奴等」

「奴等って失礼だね
私は思ったことを言っただけ
何も知らないのにあんな風に言われたらムカつくじゃない」

この2人が私を庇ってくれた…?

「私、瀬田せだ汐莉しおり!ずっと東さんと話してみたかったの!」

「私は三津田みつだ綾乃あやの

汐莉「良かったら友達になりたいんだけど…
やっぱり都合いいかな…」

友達に…
私の事を気にかけてくれる人がいたんだ
こんな風に手を差し出してくれる人がいたんだ
止まったはずの涙がまた溢れ出た
1人でも平気だと思ってた
だけど私はただ強がってただけだった
本当は誰よりも寂しがり屋だったんだ

千菜「うん…ありがとう…」

汐莉の差し出してくれた手を握るととても暖かかった

綾乃「…なんで汐莉まで泣いてるの」

汐莉「うっ…だって東さんが泣いてるから…」

会って間もないけど汐莉は優しい子なんだと思った
綾乃も優しく笑う人なんだな
嬉しい…こんな事全然想像出来なかった

千菜「…千菜でいいよ」

だから素直に笑えたの
ふと隣の奏叶を見ると優しく笑っていた
伊藤先生って何者?
こんな未来を知ってたなんて…
あの時死んでたら…皆が守ってくれなかったら知らなかった未来
ねぇ…今、凄く世界が輝いて見えるよ

湊「んじゃそろそろ行くか!」

綾乃「2人の退院祝い」

汐莉「思いっきり遊ぼう!」

歩き出す3人
だけど立ち止まる私を奏叶は不思議そうに除き混んできた

奏叶「千菜?どうしたの。行かないの?」

千菜「…奏叶、私を見つけてくれてありがとう」

やっと…奏叶に伝えることが出来た
奏叶が居てくれて本当に良かった

千菜「大好き」

自然とその言葉が出た
奏叶は少し顔を赤くしていた
そんな奏叶も愛おしく感じる

湊「おーい!何してんだよ!」

汐莉「置いていっちゃうよー!」

3人が少し先で手を振って待っている
奏叶は私の手をとって大好きな笑顔を向けてくれた

奏叶「行こう!」

千菜「うん…!」

奏叶と歩む未来はきっと暖かく輝いているんだろうな…

*END*
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