【完結】さがしびと〜英雄の弟とまつろわぬ姫〜

よもぎ大福

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第27話 憧れの人

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 あの頃の、苦い記憶に苛まれる。

 クレスの言葉は、私が切り捨てたものを呼び起こす。

 優しい姉を心から慕い、その復活を望む、純粋無垢な妹。

 そうではないのだ。

 そう在りたかったけれど、私にはできなかった。

 だからこそ、アルムの存在が眩しい。

 彼女は私が思い描く、理想の姫の妹。

 私は彼女のように、あがくべきだったのに。

 もう過去には戻れない。

 私は、今の私にやれることを成し遂げるのだ。

「切り捨てたのは、必要ないからだよ。」

 私はクレスに冷たく言い放つ。

「私の目的は、姉を生き返らせること。それ以外のことは、もういらないの。切り捨てなきゃ、前に進めない。」

 クレスはなおも食い下がる。

「あるものを、なかったことにしたら駄目だ。本当の願いを見失ってしまうよ。」

 傍のヴィオンの棺に手を置き、クレスは呟く。

「俺もなかったことにしてたよ。そのせいで兄さんを巻き込んで、苦しめた。」

 クレスは私をまっすぐに見据える。

 茶色の瞳は、強い光を湛えていた。

 揺るがない、決意の光だ。

「終わりは必ずあるんだ。それがいつか、どんな形かはわからないけど。必ず終わる。あなたとの旅だって。」

 震える声で続ける。

「兄さんを殺したあなたを許せない。でも俺はイアルさんと、ずっと冒険をしていたかったよ。憧れてたんだ。兄さんみたいに仲間と冒険をして。俺がみんなを助けるんだ。」

 まだ幼い頃。

 家族や周囲の人々に、愛でられ、支えられて生きていたであろうクレス。

 成長し、今度は彼が皆を支えるはずだった。

 でもその機会は失われてしまった。

 彼は願っていたのだ。

 終わりを恐れるからこそ、彼はいつだって、抗ってきた。

 だから諦めることがなかった。

 それはきっと、彼の本当の願い。

 愛すべき、守るべき人々を助けたい。

 焦がれるような英雄願望。

「どうして頼ってくれなかったんだ。違う方法を一緒に考えられた。きっと、兄さんだって協力してくれた。」

 そう、今だったらそんな選択肢もあったと思える。

 でも、私は恐怖に勝てなかった。

 今すぐ動かなければ、何もかも手遅れになるかもしれない恐怖から、逃げ出した。

 次の千年を待つ気力など、持てるわけがなかった。

 でも、クレスはヴィオンの死を受け入れようとしている。

 一体、どうしたら。

 考えあぐねていたその足元で。

 突然、大地が揺れた。

「この地震は。」

 この国で、大地が揺れ動くのはさほど珍しいことではない。

 でも、嫌な予感がした。

 この揺れを、私は知っている。

 視線を山頂に向ける。

 夜の闇に溶け込んでいたその姿が、揺らいで見えた。

 まさか。

 クレスを見やる。

 苦々しく歪んだ横顔。

 私と同じことを考えている。

 彼もかつて経験しているのだ。

 この不気味な大地の震え。

 来たるべき、噴火の予兆。

 「どうして、今なの。」

 アラヤミは言ったではないか。

 人の贄などいらないと。

 今アラヤザが荒ぶるならば、人々は思うだろう。

 これは、海の儀式を中断したせいだ、と。

 アミルの笑顔が頭に浮かぶ。

 ようやく、姫という鎖から抜け出そうとしているこの時に。

 あまりに無慈悲だ。

 どうして、今なの。

「アラヤミにも、アラヤザにも、関係ないんだよ。」

 クレスは震える声で告げる。

「人の生き死には、関係ないんだ。」

 徐々に大きくなる揺れ。

 命も願いも飲み込む、アラヤザの咆哮が近づいていた。
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