【完結】さがしびと〜英雄の弟とまつろわぬ姫〜

よもぎ大福

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第28話 アラヤザ

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 アラヤザがいつ噴火するのかはわからない。

 なるべく早く、避難しないと。

 私はクレスの手を取る。

 もう一度、海の神殿に行くのだ。

 アミルとガラドールを守る術を考えないと。

 でも、そんな方法が本当にあるのだろうか。

 かつて目の当たりにした光景。

 死の恐怖に支配された人間は、思考を停止し、何にだって縋り付く。

 とってつけたような身代わりの姫で、事が収まると平気で信じるように。

 どうしたら。

 掴んだクレスの手を、強く握る。

 私もまた、縋ることしかできない。

「お願いクレス、アラヤザを止めて。」

 なんて虫の良い話。

 彼から兄を奪い、ひとりぼっちにしておいて、平気で縋り付く。

 それでも。

「行こう!」

 それでも、クレスは応えてくれた。

 向かった先は赤の祭壇。

 辿り着くなり、クレスは祈りの言葉を唱える。

「我が名はクレス。ただひとつのものから生まれし、燃え盛る山アラヤザよ。」

 その声には焦りが滲んでいた。

 この場所からは、蠢く火口が見えた。

 熱い。

 容赦のない熱気。

 先ほど降り立った時とはまるで違う。

 時間がない。

「アラヤミの言葉を持ち、御前にいます。どうか、どうか姿を現してください。」

 アラヤミから託された小瓶を掲げる。

 答えはなかった。

 アラヤザは現れない。

 止められない。

 いや、たとえ姿を現したとしても、説得などできるものか。

 私達はただ祈りながら、災禍が過ぎ去るのを待つだけ。

 クレスはじっと火口を見つめている。

 説得が無理とわかった以上、早くこの場を離れなければ。

 私は、同じく己の無力さに打ちひしがれてあるであろうクレスを見つめた。

 そして気づく。

 自分が間違っていることに。

「ここをどうにかすればいいんだ。土や岩をかぶせても吹き飛ばされるだけ。水は、かえって爆発を大きくする。」

 クレスは必死に考えていた。

 諦めてなどいなかった。

 彼はいつだって、終わりに抗っている。

 クレスは顔を輝かせ、私の肩を掴んで叫んだ。

「水、いや、海だよ!アラヤミだ!」

 真面目な顔をして、彼はとんでもないことを言い出した。

「アラヤザの火口を、アラヤミの遥か底、一番深い溝まで持っていくんだ。そこなら噴火の力も弱まる。」

 海の中にも火山は存在する。時には噴火し、それにより、新たな島が生まれることもある。

 だが、人の寄りつくことすらできない深海では、人間はその噴火に気づくこともない。

 それは事実だ。

 だとしても、一体どうやって。

 現にアラヤザは大地に高く聳え立ち、アラヤミと溶け合うことはない。

「イアルさんも、今の俺も、どこにでも行ける。何でも持っていける。それって、場所と場所を繋げられるってことだ。」

 世界の枠からはみ出した、ただひとつのものの欠片。

 私達の転移は経験則でしかない。

 その仕組みは、私も理解できていなかった。

 でもクレスの言葉には、妙な説得力があった。

「イアルさんはこの場所から。俺は海の行けるとこまで行った後、精霊術で海底まで飛び込んで。二人でアラヤザとアラヤミを繋ごう。」

 精霊術が使えない私は、深海まで辿り着くことができない。

 クレスひとりで深海から火口を繋ごうとすれば、海水を火口に注ぎ爆発を誘引する事態になりかねない。

 この作戦には、私とクレス双方が必要。

 でも本当に、そんなことができるのだろうか。

「できると思う?」

 諦めようとする自分を、膝をつこうとする弱い自分を、必死に引き止める。

「本当に、できると信じる?」

 そんなことは無理だと、投げ出す自分を握りつぶす。

 クレスは笑って言った。

「できるよ。なんだかさ、このために今までがあった気がしてる。」

 彼が信じている。

 常識知らずの彼が、できると信じている。

「私も信じるよ。」

 かつて切り捨てた、弱い自分。

 全てを諦め、悟った振りをして、何もしなかった自分。

 嫌だった。

 もう、後悔はしたくなかった。

 そう、私が望むのは、強い自分。

 何ものをも恐れず、何ものにも惑わされずに突き進む、銃弾のような力強さ。

「一緒に止めよう。」

 世界の常識など知らない。

 自然の摂理など関係ない。

 私は、そんなものに屈服したりしない。
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