175 / 190
【 過 去 】
エルディアブロ(1)
しおりを挟む真っ白な光が射し込んで俺は緑生い茂る世界に踏み入った。
あたりはやたらと眩しくて訳もわからず地面に尻をついて呆けていた。すると急に視界に影がかかり頭上から声がする。
『おやおやこの子は……せっかちな子ですね、眩しいですか?』
顔を上げると何かが光を遮るように俺の頭の上にくる。
『産まれたばかりですので驚くのも無理ありません』
その者は俺を見ながら淡々と言う。真っ白なその出で立ちは光よりも眩しくキラキラと光っていた。
『だれ、おまえ』
するとそいつは少し眼を見開いて
『これは驚いた、既に言葉を知ってるんですか』
すると急に身体が持ち上がった。気付くとその真っ白な出で立ちの者が俺をその腕に抱いている。
顔を上げると紫色の瞳と眼があった。
『私はハクイと言います』
そのまま目尻を下げて微笑み
『貴方は私が――――』
その続きはなんと言ってたかよく覚えていない。
「――エル、エルディアブロ」
あれから俺は魔王の城と言う所へ連れてかれた。
城での生活は退屈で森でテキトーに暇を潰していると俺を呼ぶ男の声がする。その声は少し呆れた口調で「全くあの子ときたら」とため息をついた。
奴が近くまで来ていると知り、俺はあえてその声から遠ざかった。
「――まさか戻って来ているとは……エル」
森から離れて俺は奴の部屋で暇潰しをしていた。やたら綺麗に棚に陳列された本を全て取っ払ってみたり破いて床に散乱してみたり、机の中の物も全部ひっくり返した。
いいだけぐちゃぐちゃにした部屋の真ん中で、まだまだ足りないとこのモヤモヤした気分を持て余していたら奴が丁度部屋に戻って、一瞬眼を見開いたあとやはり一瞬眉を潜めて、更に一瞬疲れた顔をしたあと何時もの冷たい表情でこっちに淡々と語りかける。
「エルディアブロ、どうしてこんな事をするんです?」
コイツはいつもこんな感じに冷たい表情で淡々とものを言う、一日中ずっと見ててもあまり表情が変わらない。たまに変わる時があるとすると怒った時に一瞬で消える表情の変化ぐらい。なのにあの魔王の前にいる時はいつもより表情が豊かになって、俺はそれを見るたびイライラしてしょうがなかった。それでなくても忙しい忙しいと姿を消して、その間俺はやることもなく暇をもて余す。
だから遊びに出れば今度は何処に行っていたと怒られ、遅くなればもっと早く帰って来いと口煩い。
そして暇だから部屋で遊んでいれば散らかすなと怒られる。なんなんだコイツは本当にいちいちうるさい目障りだ。
俺は側にあったコップを至近距離で投げつけた。それは奴に当たり床に落ちた。その瞬間高い音をあげて割れ四方に飛び散る。飛び散った破片は身長的に床に近い俺の方にまで飛んで来た。
「エル!」
奴が少し慌て俺の服についた破片を払う。
「……エル、今お前が私に投げ付けたこれは硝子で出来たグラスです。硝子は今みたいに壊れやすい物なんですよ。割れた硝子は手足を傷付ける事もある。危ないんです。眼や口に入ればもっと痛くて大変です」
奴はしゃがんで俺の両腕を掴み、言って聞かせるように眼を合わせながら真剣に言う。俺はというとコップが壊れるとは思っていなかったので驚いて呆けていた。
「エル? 何処か痛みませんか? 眼に違和感は?」
ハッとして頬に触れそうだった手を跳ねのけた。
けれどハクイは気にした様子もなく俺の身体を持ち上げて「とりあえず服を着替えましょう」と隣の部屋へ移動する。
着替えた服は真新しく清潔感のある装いだ。
「サイズぴったりですね。作らせたかいがあります良く似合っていますよ」
そいつが着ている服と同じ、肌触りの良い真っ白な装い。だが俺はそれが妙に気に食わない。
服の袖を破いてやろうと引っ張ったがしっかりとした生地のせいか簡単には破けなかった。
「エル」
俺の行動がバレたらしくそいつは少し怖い顔で俺の腕をとった。
「本当に、どうしてそうなんでもかんでも反発するのか……この子は」
ため息をついて
「エル良くみていてください」
また俺を抱き上げる。
「おろせ!」
「いいから大人しく見てなさい」
そいつの手がポンッと頭に触れると俺の身体は動かなくなった。
「おい!っっ……!?」
そして急に声もだせなくなったのだから心の中で「このやろハクイ!」と悪態をつくしかない。
ハクイはやれやれと俺を片腕に抱いたまま隣の部屋へと戻り、割れた硝子を片付け始めた。
「いいですかエル、硝子は危ないので素足で床を歩いて片付けないでください。さて、ではまず大きい物から集めましょう」
途中で片腕だとやりづらいと俺を背負いだした。その時には俺も抵抗する気が失せていたので動かせるようになった手足を使いその背にしがみつく。本当は翼を使って飛んでいれば良かったがその時は何故かその気にならなかった。
落とさないように少し屈んだハクイが片手に箒を片手にチリトリを持って更に屈んで細かい硝子の破片をだまだまと片付ける。
「これでいいですね。さぁ今度はこの部屋の惨状をなんとかしますよ」
硝子を片付け終わるとハクイは俺を床におろしてそう言った。
「遊び終わったら片付ける。でないとほら、足の踏み場もありませんし物に躓きやすいでしょう。躓きやすいと言う事は転びやすいし転びやすいと言う事は危ないですし、転んだ先に固い物があったらぶつかって痛い。脆い物があったら壊してしまう。それにこれでは何処にお目当ての物があるか分からない。大変困ります」
腰に手をあてつらつらと並べ立てる。
「つまりはとても生活しずらく不便と言うことです。見た目にも落ち着かないでしょう」
では始めますよとハクイは床に転がった物を拾いだした。
「何をしてるんですエル、お前もやるんですよ。出した物は元の場所へ戻せばいいんです。こうやって」
そう言って手に取った本を元の棚へと戻していく。
「場所が分からなければ言いなさい教えて差し上げますから、それと破いた本の紙は全て集めなさい……あぁそうだお前にはそれをやって貰いましょう」
側にある籠に全て集めるよう言われた、集めてどうするのかと聞くと修復するのだと。
するとコンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「今そちらまで行けませんのでどうぞ入ってください」
1
あなたにおすすめの小説
祖国に棄てられた少年は賢者に愛される
結衣可
BL
祖国に棄てられた少年――ユリアン。
彼は王家の反逆を疑われ、追放された身だと信じていた。
その真実は、前王の庶子。王位継承権を持ち、権力争いの渦中で邪魔者として葬られようとしていたのだった。
絶望の中、彼を救ったのは、森に隠棲する冷徹な賢者ヴァルター。
誰も寄せつけない彼が、なぜかユリアンを庇護し、結界に守られた森の家で共に過ごすことになるが、王都の陰謀は止まらず、幾度も追っ手が迫る。
棄てられた少年と、孤独な賢者。
陰謀に覆われた王国の中で二人が選ぶ道は――。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
天涯孤独になった少年は、元軍人の優しいオジサンと幸せに生きる
ir(いる)
BL
※2025/11 プロローグを追加しました
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元軍人の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。
※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。
※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話)
※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい?
※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。
※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。
※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる