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そのシリウス様が、どうしてこの状況でここにいらしたのだろう。
問いかけるようにシャルル様へ視線を向けると、シャルル様は何故か得意そうに笑う。
「実はシリウスから、君を是非妻に迎えたいとの申し出があってね。どうだい、素敵な話だろう?」
「……え、ええっ⁉︎ そんな、嘘⁉︎」
思いがけないその言葉に、私はおよそ淑女とは言い難い声をあげてシリウス様を見る。私と目が合ったシリウス様は、見るだけでうっとりとするような優しい微笑みを浮かべてみせた。
「嘘なんかじゃない、本当のことだよ。……アンジェラ、愛している。是非僕の妻になって欲しい」
そう言って差し出された手を、呆然と見つめる。
先ほどまで絶望の真っ只中にいたのに、夢でも見ているみたいだ。
大好きだったシリウス様が、まさか私を妻に望んで下さるなんて。
そのままふらふらと手を伸ばしかけて、まるで腸の肉詰めのようにぱんぱんに膨らんだ自分の指先を見てハッと我に返った。
嘘だ。そんな都合のいい話がある訳がない。
これはきっと、婚約破棄の穴埋めの為に、シャルル様或いは国王陛下がシリウス様に無理強いした結果に違いない。
でなければ誰がこんな肥え太った女を妻になどしたいものか。それこそシャルル様のような特殊な性癖の持ち主でもない限り、あり得ない話だ。
残酷な現実に気づいた私は伸ばした手を下ろしかけ、その時ふと脳裏をよぎった考えに動きを止める。
……でも、そのおかげで想う人のところへ嫁げるのなら、それはそれでいいのではないだろうか。
それなりに高位な貴族の娘として育てられた私は、今まで恋した相手と結ばれる、などという有り得ない夢を見たことはなかった。いずれは家のため、親の決めた相手の元に嫁ぐのだと、そう思い込んでいた。
けれども、そのあり得ないはずの夢が今叶うかもしれないのだ。
たとえそれがシリウス様にとっては強いられたものだとしても。
「……シリウス様は、本当に、こんなみっともない姿の私が相手でもよろしいのですか……?」
聞く声が、緊張で思わず掠れる。
愛されてはいなくても、せめて嫌われていなければいいのだけれど。そんな願いを込めてシリウス様を見つめる。
シリウス様は、私の手を優しく両手で包み込むと、真っ直ぐに視線を合わせた。
「もちろん。僕は君の全てが好きなんだ。太っていたってなんだって構わない。むしろ今の姿のままでずっといてほしいくらいだ」
そう言って、私の指先に恭しく口付けるシリウス様。
一方私は、シリウス様の言葉に雷に打たれたかのような衝撃を受け、その場で立ち竦んだ。
『むしろ今の姿のままでずっといて欲しい』?
それは、つまりシリウス様も、シャルル様と同じ特殊性癖の持ち主、つまりふくよかな女性を愛する『デブ専』だということだろうか。
そうか。だからシリウス様は私なんかを妻に望んでくれたのか。
シリウス様はシャルル様と近い親戚なのだから、趣向も似通っているのかもしれない。
心が急速に冷えて、凍りついていくのを感じる。
「……ふ、ふふっ」
「アンジェラ?」
あまりの虚しさに、思わず乾いた笑みが零れた。
私は顔を上げると、訝しげな表情のシリウス様に向けてにっこりと微笑んで見せた。
「ありがとうございます、シリウス様。謹んでお受けいたしますわ」
「……! そうか、ありがとう。必ず幸せにするよ」
ぱっと顔を輝かせ、嬉しげな声を上げるシリウス様に対して、顔の筋肉を必死に動かして、どうにか表面上だけの笑みを形作って見せる。
どうせ、私の所まで話が下りてくる時点で、この結婚話は決定事項なのだ。ならば抗っても仕方ない。
なんだか、全てが吹っ切れた……いや、正確には、キレた。
誰かのために自分を殺して、振り回されるのはもう沢山だ。
シャルル様の時と同じように、相手の好みに合わせて涙ぐましい努力を重ね、シリウス様にまた同じように捨てられてしまったら、私は今度こそ立ち直れないだろう。
私は決心した。
もう、無理に太ろうとするのはやめよう。
元の姿に戻って、私は私のなりたい『私』を目指すのだ。それでシリウス様に嫌われてしまったとしても、それでいい。偽りの私を愛してもらっても、そんなのは虚しいだけだ。
喜色を浮かべるシリウス様と、表面上だけはにこやかな私。
そんな私達二人を、これで万事解決だとばかりにシャルル様がにこにこと見守っていた。
問いかけるようにシャルル様へ視線を向けると、シャルル様は何故か得意そうに笑う。
「実はシリウスから、君を是非妻に迎えたいとの申し出があってね。どうだい、素敵な話だろう?」
「……え、ええっ⁉︎ そんな、嘘⁉︎」
思いがけないその言葉に、私はおよそ淑女とは言い難い声をあげてシリウス様を見る。私と目が合ったシリウス様は、見るだけでうっとりとするような優しい微笑みを浮かべてみせた。
「嘘なんかじゃない、本当のことだよ。……アンジェラ、愛している。是非僕の妻になって欲しい」
そう言って差し出された手を、呆然と見つめる。
先ほどまで絶望の真っ只中にいたのに、夢でも見ているみたいだ。
大好きだったシリウス様が、まさか私を妻に望んで下さるなんて。
そのままふらふらと手を伸ばしかけて、まるで腸の肉詰めのようにぱんぱんに膨らんだ自分の指先を見てハッと我に返った。
嘘だ。そんな都合のいい話がある訳がない。
これはきっと、婚約破棄の穴埋めの為に、シャルル様或いは国王陛下がシリウス様に無理強いした結果に違いない。
でなければ誰がこんな肥え太った女を妻になどしたいものか。それこそシャルル様のような特殊な性癖の持ち主でもない限り、あり得ない話だ。
残酷な現実に気づいた私は伸ばした手を下ろしかけ、その時ふと脳裏をよぎった考えに動きを止める。
……でも、そのおかげで想う人のところへ嫁げるのなら、それはそれでいいのではないだろうか。
それなりに高位な貴族の娘として育てられた私は、今まで恋した相手と結ばれる、などという有り得ない夢を見たことはなかった。いずれは家のため、親の決めた相手の元に嫁ぐのだと、そう思い込んでいた。
けれども、そのあり得ないはずの夢が今叶うかもしれないのだ。
たとえそれがシリウス様にとっては強いられたものだとしても。
「……シリウス様は、本当に、こんなみっともない姿の私が相手でもよろしいのですか……?」
聞く声が、緊張で思わず掠れる。
愛されてはいなくても、せめて嫌われていなければいいのだけれど。そんな願いを込めてシリウス様を見つめる。
シリウス様は、私の手を優しく両手で包み込むと、真っ直ぐに視線を合わせた。
「もちろん。僕は君の全てが好きなんだ。太っていたってなんだって構わない。むしろ今の姿のままでずっといてほしいくらいだ」
そう言って、私の指先に恭しく口付けるシリウス様。
一方私は、シリウス様の言葉に雷に打たれたかのような衝撃を受け、その場で立ち竦んだ。
『むしろ今の姿のままでずっといて欲しい』?
それは、つまりシリウス様も、シャルル様と同じ特殊性癖の持ち主、つまりふくよかな女性を愛する『デブ専』だということだろうか。
そうか。だからシリウス様は私なんかを妻に望んでくれたのか。
シリウス様はシャルル様と近い親戚なのだから、趣向も似通っているのかもしれない。
心が急速に冷えて、凍りついていくのを感じる。
「……ふ、ふふっ」
「アンジェラ?」
あまりの虚しさに、思わず乾いた笑みが零れた。
私は顔を上げると、訝しげな表情のシリウス様に向けてにっこりと微笑んで見せた。
「ありがとうございます、シリウス様。謹んでお受けいたしますわ」
「……! そうか、ありがとう。必ず幸せにするよ」
ぱっと顔を輝かせ、嬉しげな声を上げるシリウス様に対して、顔の筋肉を必死に動かして、どうにか表面上だけの笑みを形作って見せる。
どうせ、私の所まで話が下りてくる時点で、この結婚話は決定事項なのだ。ならば抗っても仕方ない。
なんだか、全てが吹っ切れた……いや、正確には、キレた。
誰かのために自分を殺して、振り回されるのはもう沢山だ。
シャルル様の時と同じように、相手の好みに合わせて涙ぐましい努力を重ね、シリウス様にまた同じように捨てられてしまったら、私は今度こそ立ち直れないだろう。
私は決心した。
もう、無理に太ろうとするのはやめよう。
元の姿に戻って、私は私のなりたい『私』を目指すのだ。それでシリウス様に嫌われてしまったとしても、それでいい。偽りの私を愛してもらっても、そんなのは虚しいだけだ。
喜色を浮かべるシリウス様と、表面上だけはにこやかな私。
そんな私達二人を、これで万事解決だとばかりにシャルル様がにこにこと見守っていた。
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