【R18】婚約破棄?解消?どちらにしてもデブ専王子なんてお断りです!

高瀬なずな

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 あれからすぐ、シリウス様はお父様であるラグランジュ公爵と共に領地へ旅立っていってしまった。
 留学のため国を離れていた三年間の間に領地がどう変わったか、これからどう変わっていくのかを跡取りとして学ぶらしい。

『週に一度は手紙を書くし、三ヶ月後のシャルルたちの婚約披露の時には必ず戻って君をエスコートするから、待っていてほしい』

 そう言って旅立って行ったシリウス様は、その言葉通り毎週欠かさず甘い言葉に一輪の花を添えた手紙を送って下さっている。

『愛しい貴女に一日も早く会いたい。愛している』

 そんな言葉を見る度に、今私がしていることはやはり間違いではないのか、と胸が痛んだ。

 あの日以来、私は今まで行っていた太るための努力を全て放棄し、痩せるための行動を取っていた。
 食事は無理矢理詰め込んでいた一日五食の肉を中心としたものから、一日三食の本来好んでいた野菜中心で健康的なものに。クリームや砂糖のたっぷりかかった菓子たちとはお別れし、暇さえあれば我が家の広大な庭をひたすら歩き回って、季節の花々を楽しむ。

 それだけで、ふくよかだった身体はみるみるうちに細くなり、元の姿を取り戻していった。
 そもそも今までの生活に無理があったのだから、当然といえば当然だ。
 急激に痩せたために皮膚が弛むのではないかと心配したが、侍女のミナが毎晩お風呂上がりに香油を使って念入りにマッサージをしてくれていたお陰だろうか、特に弛んだり肉割れの跡が残ったりすることもなかった。

 今の私を見て、数ヶ月前の私と同一人物だと思う人は恐らくいないのではないだろうか。もっとも、今の私の姿を知る者は家族と使用人以外誰もいないのだけれど。
 私とシャルル様が婚約を解消したことは、既に社交界に知れ渡っている。『あのデブ令嬢が、とうとう王子に見捨てられた。あの体型じゃ無理もない』と巷では笑いものとなっており、そのせいもあって我が家の敷地内から一歩も出ない日々が続いていた。

 けれども、来週はシャルル様と新しい婚約者、マリア王女の婚約披露パーティーだ。
 私はシャルル様との婚約解消に遺恨がない事を示すため、必ず出席して二人を祝わなければならない。考えただけで溜息が出そうだ。

 そして、その日にはシリウス様が帰ってきて、私をエスコートして下さる事となっている。
 変わってしまった私を見て、シリウス様は一体どんな顔をされるのだろうか。怒り? それとも失望?

 今の私には、それが何よりも恐ろしかった。


 *****


 その日は、光り輝く満月がやけに美しい夜だった。

 いよいよ、シャルル様達の婚約披露パーティー当日。

 シリウス様が迎えに来られたとの連絡を受けて、私は不安に胸を押しつぶされそうになりながら彼の元へと向かう。

 今日の私は、あまり目立ちたくないということもあって、深みのあるブルーにレースが随所にあしらわれた、シンプルだけれど上品なドレスに身を包んでいた。
 侍女や家族のみんなは綺麗だと絶賛してくれたけれど、シリウス様はこの姿を見てどう思うだろうか。

 玄関ホールへと続く大きな階段を下りると、そこにはダークグレーの夜会服を身に纏って佇むシリウス様の姿があった。
 刺繍や飾りこそ控えめだが、仕立てと生地の上質さの伺える衣装はそのシックな色合いも相俟って、普段から落ち着いた雰囲気のシリウス様をさらに大人びて見せていた。

 なんだか大人の色気すら感じさせるその佇まいに、思わず一瞬見惚れてしまう。

 シリウス様は私が来た事に気付いてすぐに顔を上げると、一瞬驚いたように大きく目を見開き――その後、何故か頬を紅潮させて、もの凄く嬉しそうな笑みを浮かべた。

 ――あれ? どうして?

 先ほどまでの大人びた姿はどこへ行ったのか、戸惑う私の元へシリウス様が大股で歩み寄ってきて力強く抱き締める。

「ああ、久しぶりだねアンジェラ、会いたかった……! 今夜の君はとても綺麗だね。月の女神が地上に舞い降りたのかと思ったよ」

「あ、ありがとうございます……?」

 過剰なまでの賞賛の言葉に、訳がわからず混乱したままとりあえず礼を返す。

「随分と痩せたんだね。まるで昔に戻ったみたいだ。美しい君をこのまま攫ってどこかに閉じ込めておきたいくらいだけれど、王家から招待されたパーティーでは流石にそういうわけにもいかないね」

 そう言ってシリウス様は名残惜しそうに身体を離し、私の前に手を差し出した。ようやく腕の中から解放された私は、戸惑いつつもその手を取る。
 シリウス様は私や手の甲に軽く口付けると、蠱惑的な笑みを浮かべた。

「では、行きましょうか。僕の可愛いお姫様」
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