7 / 10
7
しおりを挟む
今夜はパーティーの支度で忙しかった。
「二人、並ぶと圧巻だね。」
迎えに来た王子がにこやかに呟く。
下位とはいえ貴族の身分なので私もオーリスにお供する。
行くつもりはなかったが。
このパーティーはルートにあるらしい。
行かずに済ますと思ったのに、公爵と王子のそれぞれが連れていくべきと決めたようだ。
オーリスもカリフの件から側を離したがらないから反対しない。
あの件は公爵の耳にも届いて娘を守るのに適していると誉められた。
騎士団長には息子の失態として抗議を入れた。
シナリオでは可愛らしいドレスだと聞いていたので、色も形も真逆のものを選ぶ。
濃い色にあまり肌を出さないように。
オーリスも今までの妖艶なものとは違って可愛らしく装った。
こちらはある程度、肩や腕を出す。
それでも、初々しい空気が漂っている。
性格にはそっちが合ってる。
「間違えたんじゃないか?」
「何が?」
「お嬢様の方がシナリオの主人公にぴったりだ。」
「え?そうかな?」
「ああ。優しくて清楚なんだろ?」
恥ずかしそうに顔を伏せてた。
何を間違って私なんだ。
昔は男と混じって荷運びをしながら小銭を稼いでた。
子供でもできる仕事だ。
だぼだぼの服を重ね着して売るために伸ばした髪を帽子に詰め込んで。
先代から月々もらった金があったが、二人とも長く生きそうにないと早々と諦めて自分が生きる為に働いた。
男と違って成人にも満たない女の働き口なんか簡単に見つからない。
ひとりで生きていけるほどとなるとな。
病弱な母のように誰かに囲われる気もしなかった。
健康だから働けばいい。
そう思ってたらありがたくも男爵家に引き取られて、家族の一員と認められた。
死んだ先代にも感謝した。
母と先代が死ねば1人のつもりだった。
こんな男勝りな私が男を侍らす?
バカか。
あり得ない。
表向き男爵の娘と言う立場だが、公爵令嬢の侍女。
見劣りしないように華美に装った。
もっと地味にしようとしたら公爵から叱られた。
ちゃんと金をかけろと。
オーリスと私の装いにやかましく口を挟んだ。
最近の穏やかなオーリスに父親として安心したようで、こうやってよく口を出してくる。
どうして娘は変わったのかとこっそり尋ねられて、
「呪われていたのかもしれませんね。それで慈悲のお心が迷子になっていたのかも。」
と、適当に答えた。
なんの心当たりがあるのか納得していた。
オーリスが私を信頼し落ち着いてきたことの功績で給料も上がった。
感謝されて当然なのでありがたく頂く。
会場では王子とオーリスの仲の良さに注目が集まった。
以前はいがみ合っていたようだ。
今のオーリスは王子の好みだ。
大人しくて泣き虫。
やはり、魂の入れ間違いだろう。
1人にすると絡まれるので私か王子が付き添った。
以前のことを仄めかされただけでうつ向くな。
「…前を向け。泣くな。」
「うん。」
こそっと耳打ちをする。
珍しくオーリスから耳に顔を寄せてきた。
「どうした?」
「アゼリアがいるから大丈夫。」
「…なら良かった。」
そのままその日は終わると思ったのに。
「あ、」
パーティーの半ば。
ぱしゃんと、ドレスにワインがかかった。
オーリスは空のグラスを持って青ざめている。
時折、こうしてシナリオの通りに体が動く。
私もだ。
口がぱくぱくと台詞を。
「あ、…あ」
涙を溜めて抗ってる。
「ちっ。」
忌々しく舌打ちをした。
痺れる手を動かして、グラスごとオーリスの手を掴んで引き寄せる。
あまりにも無茶苦茶な動きだとシナリオが外れる。
ヒロインが舌打ちなんぞしないから。
少し動きが鈍いが、自由になる。
まだ動けないオーリスの耳に口を寄せる。
「大丈夫だ。落ち着け。」
「ご、ごめんなさい。」
「動けるか?」
「し、痺れてる。」
「何でもいい。シナリオから抜けろ。」
「あ、アゼリア、が一番好き。」
「は?」
「あ、動ける。」
へらっと顔が緩む。
「…確かに、シナリオから1番外れてるな。よくやった。」
「アゼリアのドレス、」
「濃い色だ。目立たん。」
着替える気はなかった。
それこそシナリオに引っ掛かるから。
もとのシナリオはワインをかけられて中庭に逃げ込み、攻略対象に着替えを提供されて会場に戻るんだ。
王宮なら王子だ。
今回は会場の持ち主のルーカスだ。
まわりからの注目が集まってしまったので、その場は二人で逃げた。
王子にオーリスを預けてふらついたワインをこぼしたと説明する。
「具合が悪いなら帰るか?」
宰相主宰のパーティーを抜けるのはあまり良くないが。
「なら、控え室があるのでそちらで休みませんか?」
会話に宰相が混ざってくる。
息子を呼んで案内される。
付き添って控え室に。
「アゼリア、俺が付き添うから大丈夫だ。少しは楽しんでおいで。」
扉の前で私とオーリスの隙間に王子が塞がる。
「婚姻前に二人にはできかねます。」
「信用ないなぁ。」
「僕の侍従を置いておくよ。メイドも。」
案内のルーカスが口を挟む。
「アゼリア嬢を借りていってもよろしいですか?」
ルーカスの言葉にふるふると嫌がるオーリスに王子が微笑む。
「俺よりアゼリアが好きなのかと心配だ。」
「…ア、アゼリアァ。」
「オーリス嬢の大切な侍女に失礼など致しません。ご安心を。」
こいつら、結託してるな。
「…部屋の外でお待ちいたします。」
「いや、メイドもいるから気にするな。ルーカス、頼んだ。」
「ええ、承りました。」
「…お嬢様に不義があれば公爵へ報告をいたします。」
無駄だと分かっていても言い返したかった。
睨むと楽しそうに笑った。
「その顔が見たかった。以前の仕返しがやっと出来た。」
「二人、並ぶと圧巻だね。」
迎えに来た王子がにこやかに呟く。
下位とはいえ貴族の身分なので私もオーリスにお供する。
行くつもりはなかったが。
このパーティーはルートにあるらしい。
行かずに済ますと思ったのに、公爵と王子のそれぞれが連れていくべきと決めたようだ。
オーリスもカリフの件から側を離したがらないから反対しない。
あの件は公爵の耳にも届いて娘を守るのに適していると誉められた。
騎士団長には息子の失態として抗議を入れた。
シナリオでは可愛らしいドレスだと聞いていたので、色も形も真逆のものを選ぶ。
濃い色にあまり肌を出さないように。
オーリスも今までの妖艶なものとは違って可愛らしく装った。
こちらはある程度、肩や腕を出す。
それでも、初々しい空気が漂っている。
性格にはそっちが合ってる。
「間違えたんじゃないか?」
「何が?」
「お嬢様の方がシナリオの主人公にぴったりだ。」
「え?そうかな?」
「ああ。優しくて清楚なんだろ?」
恥ずかしそうに顔を伏せてた。
何を間違って私なんだ。
昔は男と混じって荷運びをしながら小銭を稼いでた。
子供でもできる仕事だ。
だぼだぼの服を重ね着して売るために伸ばした髪を帽子に詰め込んで。
先代から月々もらった金があったが、二人とも長く生きそうにないと早々と諦めて自分が生きる為に働いた。
男と違って成人にも満たない女の働き口なんか簡単に見つからない。
ひとりで生きていけるほどとなるとな。
病弱な母のように誰かに囲われる気もしなかった。
健康だから働けばいい。
そう思ってたらありがたくも男爵家に引き取られて、家族の一員と認められた。
死んだ先代にも感謝した。
母と先代が死ねば1人のつもりだった。
こんな男勝りな私が男を侍らす?
バカか。
あり得ない。
表向き男爵の娘と言う立場だが、公爵令嬢の侍女。
見劣りしないように華美に装った。
もっと地味にしようとしたら公爵から叱られた。
ちゃんと金をかけろと。
オーリスと私の装いにやかましく口を挟んだ。
最近の穏やかなオーリスに父親として安心したようで、こうやってよく口を出してくる。
どうして娘は変わったのかとこっそり尋ねられて、
「呪われていたのかもしれませんね。それで慈悲のお心が迷子になっていたのかも。」
と、適当に答えた。
なんの心当たりがあるのか納得していた。
オーリスが私を信頼し落ち着いてきたことの功績で給料も上がった。
感謝されて当然なのでありがたく頂く。
会場では王子とオーリスの仲の良さに注目が集まった。
以前はいがみ合っていたようだ。
今のオーリスは王子の好みだ。
大人しくて泣き虫。
やはり、魂の入れ間違いだろう。
1人にすると絡まれるので私か王子が付き添った。
以前のことを仄めかされただけでうつ向くな。
「…前を向け。泣くな。」
「うん。」
こそっと耳打ちをする。
珍しくオーリスから耳に顔を寄せてきた。
「どうした?」
「アゼリアがいるから大丈夫。」
「…なら良かった。」
そのままその日は終わると思ったのに。
「あ、」
パーティーの半ば。
ぱしゃんと、ドレスにワインがかかった。
オーリスは空のグラスを持って青ざめている。
時折、こうしてシナリオの通りに体が動く。
私もだ。
口がぱくぱくと台詞を。
「あ、…あ」
涙を溜めて抗ってる。
「ちっ。」
忌々しく舌打ちをした。
痺れる手を動かして、グラスごとオーリスの手を掴んで引き寄せる。
あまりにも無茶苦茶な動きだとシナリオが外れる。
ヒロインが舌打ちなんぞしないから。
少し動きが鈍いが、自由になる。
まだ動けないオーリスの耳に口を寄せる。
「大丈夫だ。落ち着け。」
「ご、ごめんなさい。」
「動けるか?」
「し、痺れてる。」
「何でもいい。シナリオから抜けろ。」
「あ、アゼリア、が一番好き。」
「は?」
「あ、動ける。」
へらっと顔が緩む。
「…確かに、シナリオから1番外れてるな。よくやった。」
「アゼリアのドレス、」
「濃い色だ。目立たん。」
着替える気はなかった。
それこそシナリオに引っ掛かるから。
もとのシナリオはワインをかけられて中庭に逃げ込み、攻略対象に着替えを提供されて会場に戻るんだ。
王宮なら王子だ。
今回は会場の持ち主のルーカスだ。
まわりからの注目が集まってしまったので、その場は二人で逃げた。
王子にオーリスを預けてふらついたワインをこぼしたと説明する。
「具合が悪いなら帰るか?」
宰相主宰のパーティーを抜けるのはあまり良くないが。
「なら、控え室があるのでそちらで休みませんか?」
会話に宰相が混ざってくる。
息子を呼んで案内される。
付き添って控え室に。
「アゼリア、俺が付き添うから大丈夫だ。少しは楽しんでおいで。」
扉の前で私とオーリスの隙間に王子が塞がる。
「婚姻前に二人にはできかねます。」
「信用ないなぁ。」
「僕の侍従を置いておくよ。メイドも。」
案内のルーカスが口を挟む。
「アゼリア嬢を借りていってもよろしいですか?」
ルーカスの言葉にふるふると嫌がるオーリスに王子が微笑む。
「俺よりアゼリアが好きなのかと心配だ。」
「…ア、アゼリアァ。」
「オーリス嬢の大切な侍女に失礼など致しません。ご安心を。」
こいつら、結託してるな。
「…部屋の外でお待ちいたします。」
「いや、メイドもいるから気にするな。ルーカス、頼んだ。」
「ええ、承りました。」
「…お嬢様に不義があれば公爵へ報告をいたします。」
無駄だと分かっていても言い返したかった。
睨むと楽しそうに笑った。
「その顔が見たかった。以前の仕返しがやっと出来た。」
2
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる