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夕暮れにかかった中庭に連れていかれた。
向こうの思惑だ。
こちらも本性を出して追い払おうと、その思惑に乗る。
口説いて手の甲に唇を落とすのを叩き落とす。
まわりに人がいない。
思う存分やってやる。
見下げて睨むと驚いた顔を向ける。
「お気に召しませんか?」
「とても。」
「やはり、女性の方が好みかな。」
「ご冗談を。ただあなたが好みではないだけ。」
鼻で笑ってあしらう。
「殿方の火遊びに付き合うほど暇ではありませんの。」
「本気と言ったら?」
「愚か。」
半端もんだ。
よくて妾。
シナリオの動きがないのはルートに関係ないということ。
黙って去ろうとすると手を引かれる。
勝手に触るな。
乱暴に振りほどいて睨み付ける。
「どの殿方も乱暴者。」
「僕以外にも?…ああ、カリフの件かな。」
また手を引く。
向かい合わせに立たされる。
「ガドも。」
「ガド?兄だと聞いていたが。あ、いや、叔母と甥か。」
「どいつもこいつも嫌いだね。お前も触るな。」
見開く目に言葉を続ける。
「平民育ちだ。着飾ろうが本性はこんなもん。手を離せ。」
低く声を静かに。
「へえ、可愛い顔をして気が強い。」
二の腕をさする手が気に食わない。
「離せ。」
ぐっと力を入れて抵抗する。
「ふふ。所詮、女だね。」
「…そうだな。」
少し隙間ができれば充分だ。
がんっと脛を蹴って踵で足を踏んづける。
「いっ!」
その隙に下がる。
「だから触るなと言った。」
腕を組んで足を押さえてうずくまるのを見下げた。
「いったぁ。」
「下位の貴族に手を出すな。迷惑だ。」
「いてて。喜ばない女は初めてだ。」
「一緒にするな。」
「やっぱり女好きか?」
「ふざけんな。自分になびかなかった女は全員そうなのかよ。おめでたい頭してるな。」
くっと笑う。
「口が悪いね。」
呆れるのを笑って見返す。
「図々しい男にはこれで充分だ。」
「いら立ってるね。オーリス嬢が心配?」
「当たり前だ。やっと落ち着いたのに。」
また死ぬだの死んでくれだの騒ぎだしたらどうしてくれる。
「二人は婚約者同士だよ。何が心配?」
「それはいい。」
勝手に仲良くしてろ。
分からないと言った顔で見つめてくる。
「まだ不安定だから気にかけてる。あんたらの勘繰るようなことじゃない。試しに粉かけろと言われたんだろ。女同士の交わりかどうか。」
「バレた?でも、君が気になるのは本当だ。今までになくうずうずする。」
へらへらしていた表情が消えて、光る目があらわれた。
一緒にぺろっと唇を舐める仕草を眺める。
シナリオの影響か。
オーリスと私は強制的な動きを感じるのに、こいつは私を見ると感情が昂るらしい。
「は、性欲だろ。発散してこいよ。」
「見も蓋もない。」
「ああ、好みから外れてるだろ。」
「見かけは好みだが。…そうだな。」
ふと思い付いて口にする。
「今のお嬢様の方が好みだろう?」
おどおどして大人しい。
守りたくなるタイプ。
「ああ、…確かに可愛い。」
はたと気づいて驚いている。
「残念だったな。お相手がいる。」
やはり中身を入れ間違えたんじゃないか。
仮に男爵家から通って、オーリスがドS令嬢のままでも、私が男相手に楽しむとも思えん。
それか、私の中に前世の誰かがいるのかもしれない。
この手の男らを喜んで受け入れるようなタイプの。
まあ、どうでもいい。
今は私だから。
「だが、君も悪くない。」
目の前に立って上から下まで眺める。
先程の勢いはないので特に気にしない。
「顔か?」
「いや、中身。」
「趣旨替えか。何にしろ発散は他所でしてくれ。受け付けてない。」
「残念だ。」
髪の房を取り、唇を落とそうとするのでさっと引く。
「好みじゃない。」
「どんな相手がいい?」
「図々しくなければ。」
そんな男は奇跡だ。
父である先代か家族の異母兄と同居の甥っ子くらいだ。
ガドは論外だ。
あれは厚かましすぎる。
「僕は控えめなつもりなんだが。」
「残念ながら。」
また一歩引く。
距離を詰める気はないらしくあちらも下がる。
「仕方ない。」
「…先にどうぞ戻られてください。」
後ろから襲われたくない。
意図を察してため息を吐きながら頷く。
「またね。」
すんなり去る。
こんだけの蓮っ葉にまだ構うか。
普通ならあり得ない。
これだけすれば下民と罰せられてもおかしくない。
向こうもシナリオのせいでおかしいのだろう。
私の見目がいいと言ってももっと綺麗な女は掃いて捨てるほどいる。
高位なら綺麗所を使用人にして見慣れてるはずだ。
この程度の私に執着するのがおかしい。
姿が見えなくなってため息を吐いた。
疲れた。
会場から逆方向。
ここから見える東屋に向かって歩く。
ハンカチを敷き、腰かけて頬杖をついた。
夕暮れが過ぎて薄暗かった。
風の涼しさに目を閉じる。
さっさとオーリスと王子が結婚すればこのわけの分からん痺れはなくなるはずだ。
高位貴族や単細胞どもに絡まれるのは嫌いだ。
オーリスがまた泣くのも嫌だ。
泣き止ませるのが大変だから。
ニコニコしていればいい。
そっちが似合う。
かさ、かさ、と風と違う葉の音が聞こえて。
しまったと思ったが遅かった。
「んんっうう!」
後ろからテーブルに押しのられた。
ハンカチを口に塞がれる。
バカだった。
こういうところに。
暗がりに一人。
男を待ってるのと一緒だ。
どこかの令息だろう。
高級そうな袖が目に入る。
「何をしている!どけ!」
男の声にさっと手が離れて東屋の低い塀を飛び越えて行った。
捕まえようと手を伸ばしたのに痺れてる。
シナリオだ。
ということは、声の主は、
「無事か?」
カリフだ。
向こうの思惑だ。
こちらも本性を出して追い払おうと、その思惑に乗る。
口説いて手の甲に唇を落とすのを叩き落とす。
まわりに人がいない。
思う存分やってやる。
見下げて睨むと驚いた顔を向ける。
「お気に召しませんか?」
「とても。」
「やはり、女性の方が好みかな。」
「ご冗談を。ただあなたが好みではないだけ。」
鼻で笑ってあしらう。
「殿方の火遊びに付き合うほど暇ではありませんの。」
「本気と言ったら?」
「愚か。」
半端もんだ。
よくて妾。
シナリオの動きがないのはルートに関係ないということ。
黙って去ろうとすると手を引かれる。
勝手に触るな。
乱暴に振りほどいて睨み付ける。
「どの殿方も乱暴者。」
「僕以外にも?…ああ、カリフの件かな。」
また手を引く。
向かい合わせに立たされる。
「ガドも。」
「ガド?兄だと聞いていたが。あ、いや、叔母と甥か。」
「どいつもこいつも嫌いだね。お前も触るな。」
見開く目に言葉を続ける。
「平民育ちだ。着飾ろうが本性はこんなもん。手を離せ。」
低く声を静かに。
「へえ、可愛い顔をして気が強い。」
二の腕をさする手が気に食わない。
「離せ。」
ぐっと力を入れて抵抗する。
「ふふ。所詮、女だね。」
「…そうだな。」
少し隙間ができれば充分だ。
がんっと脛を蹴って踵で足を踏んづける。
「いっ!」
その隙に下がる。
「だから触るなと言った。」
腕を組んで足を押さえてうずくまるのを見下げた。
「いったぁ。」
「下位の貴族に手を出すな。迷惑だ。」
「いてて。喜ばない女は初めてだ。」
「一緒にするな。」
「やっぱり女好きか?」
「ふざけんな。自分になびかなかった女は全員そうなのかよ。おめでたい頭してるな。」
くっと笑う。
「口が悪いね。」
呆れるのを笑って見返す。
「図々しい男にはこれで充分だ。」
「いら立ってるね。オーリス嬢が心配?」
「当たり前だ。やっと落ち着いたのに。」
また死ぬだの死んでくれだの騒ぎだしたらどうしてくれる。
「二人は婚約者同士だよ。何が心配?」
「それはいい。」
勝手に仲良くしてろ。
分からないと言った顔で見つめてくる。
「まだ不安定だから気にかけてる。あんたらの勘繰るようなことじゃない。試しに粉かけろと言われたんだろ。女同士の交わりかどうか。」
「バレた?でも、君が気になるのは本当だ。今までになくうずうずする。」
へらへらしていた表情が消えて、光る目があらわれた。
一緒にぺろっと唇を舐める仕草を眺める。
シナリオの影響か。
オーリスと私は強制的な動きを感じるのに、こいつは私を見ると感情が昂るらしい。
「は、性欲だろ。発散してこいよ。」
「見も蓋もない。」
「ああ、好みから外れてるだろ。」
「見かけは好みだが。…そうだな。」
ふと思い付いて口にする。
「今のお嬢様の方が好みだろう?」
おどおどして大人しい。
守りたくなるタイプ。
「ああ、…確かに可愛い。」
はたと気づいて驚いている。
「残念だったな。お相手がいる。」
やはり中身を入れ間違えたんじゃないか。
仮に男爵家から通って、オーリスがドS令嬢のままでも、私が男相手に楽しむとも思えん。
それか、私の中に前世の誰かがいるのかもしれない。
この手の男らを喜んで受け入れるようなタイプの。
まあ、どうでもいい。
今は私だから。
「だが、君も悪くない。」
目の前に立って上から下まで眺める。
先程の勢いはないので特に気にしない。
「顔か?」
「いや、中身。」
「趣旨替えか。何にしろ発散は他所でしてくれ。受け付けてない。」
「残念だ。」
髪の房を取り、唇を落とそうとするのでさっと引く。
「好みじゃない。」
「どんな相手がいい?」
「図々しくなければ。」
そんな男は奇跡だ。
父である先代か家族の異母兄と同居の甥っ子くらいだ。
ガドは論外だ。
あれは厚かましすぎる。
「僕は控えめなつもりなんだが。」
「残念ながら。」
また一歩引く。
距離を詰める気はないらしくあちらも下がる。
「仕方ない。」
「…先にどうぞ戻られてください。」
後ろから襲われたくない。
意図を察してため息を吐きながら頷く。
「またね。」
すんなり去る。
こんだけの蓮っ葉にまだ構うか。
普通ならあり得ない。
これだけすれば下民と罰せられてもおかしくない。
向こうもシナリオのせいでおかしいのだろう。
私の見目がいいと言ってももっと綺麗な女は掃いて捨てるほどいる。
高位なら綺麗所を使用人にして見慣れてるはずだ。
この程度の私に執着するのがおかしい。
姿が見えなくなってため息を吐いた。
疲れた。
会場から逆方向。
ここから見える東屋に向かって歩く。
ハンカチを敷き、腰かけて頬杖をついた。
夕暮れが過ぎて薄暗かった。
風の涼しさに目を閉じる。
さっさとオーリスと王子が結婚すればこのわけの分からん痺れはなくなるはずだ。
高位貴族や単細胞どもに絡まれるのは嫌いだ。
オーリスがまた泣くのも嫌だ。
泣き止ませるのが大変だから。
ニコニコしていればいい。
そっちが似合う。
かさ、かさ、と風と違う葉の音が聞こえて。
しまったと思ったが遅かった。
「んんっうう!」
後ろからテーブルに押しのられた。
ハンカチを口に塞がれる。
バカだった。
こういうところに。
暗がりに一人。
男を待ってるのと一緒だ。
どこかの令息だろう。
高級そうな袖が目に入る。
「何をしている!どけ!」
男の声にさっと手が離れて東屋の低い塀を飛び越えて行った。
捕まえようと手を伸ばしたのに痺れてる。
シナリオだ。
ということは、声の主は、
「無事か?」
カリフだ。
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