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26※ロルフ
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わなわなと震える王女を尻目に手袋を外した。
「ロルフ、あなた」
「汚れますよ」
冷たく言い放つとその場でおろおろと手が揺れていた。
ワインを吸った濡れた手袋。
もう片方も外して二枚に重ねる。
白い手袋にじわじわと広がる赤い染み。
それを割れたグラスの横に並べて置いた。
もう使えない。
不要だ。
「ロルフ、何を怒ってるの?おかしいわ」
「ああ、怒ってるとやっとお分かりになりましたか?」
「王に、してあげると私が言ってるのに。光栄なことよ。喜ぶべきことだわ」
むっとしたようで顔を歪ませて睨んできている。
「望むものには夢のような囁きでしょうね」
王女を避けて閉められた入り口へと手をかけたが、鍵が閉められている。
馬鹿なことをと舌打ちをする。
「外に閉じ込めてどうするおつもりでしたか?婚約者のいる相手に。王女は醜聞が怖くないと見える」
「醜聞?そんなものあるはずないわ。次期王女となる私に、」
「他国の来賓もいる中で婚約者のいる相手に懸想。面白おかしく話が広まるでしょうね」
ガチャガチャと揺すっても開かない扉にいら立った。
「会場のバルコニーを占拠してまで。愚かだ」
腹立ち紛れにきつく握ると取っ手がめきっと音をたてた。
それでも開かない。
“王にしてあげる”
馬鹿なことを。
玉座など欲してはいない。
そんなものいらない。
この王女の仄めかすひとときの快楽もだ。
俺には必要ない。
侮られるのは死ぬほど嫌いだ。
完璧に俺のことを舐めている。
婚約者がいると断ってるのに話も聞かずに己の言葉しか出てこない。
隣にしがみついて、逃げようにも反対の腕も後ろからもこの女の取り巻きががっしりと掴んで離さない。
気味の悪い笑顔を張り付けた訳の分からない異様さに圧倒された。
しかも、この女は閨の講師か何かになったつもりか。
一国の第一王女たる身分のくせに色気を安っぽく見せびらかして慣れた様子で体を押し当て、その手管に嫌悪感が湧く。
国で家族に愛されていたが、成長期の遅かった俺は周囲からみそっかすの四番目と揶揄されて育った。
背が低くとも、母そっくりの女顔のおかげで初物食いを趣味とした妙齢の女に追い回された。
子供と侮られてるのが分かるから色気を振り撒かれるのは嫌いだ。
背が伸びて精悍になれば、今までみそっかすのチビと侮った者達が手のひらを返して熱っぽく求めてきた。
豹変した女達に囲まれてうんざりしていた。
変わらなかった女性はリリィだけだ。
背が伸びても変わらず頬を染めて扇に隠れる様子が可愛かった。
“ロルフ様が伸びたから、私は前より小さくなりました。……私は、嫌われてませんか?”
恥ずかしそうにそう呟いて、尻すぼみになる小さな声、扇を持つ手元は微かに震えていた。
俺の方が聞いたのに。
背が伸びても良いかと。
“大きくても小さくてもロルフ様が好きです”
リリィは逆に背が近しい方が好みだろうに。
背が伸びて、リリィと並ぶと頭をひとつ以上離れた。
いまだに伸びてもうすぐふたつ分。
リリィも少しだけ背が伸びたけど俺の方がぐんぐん伸びた。
見かけが変わったのに、リリィは変わらずいつも頬を染める。
開かない扉に諦めてバルコニーの手すりに向かう。
「ロルフ、なにしてるの!危ないわっ!」
足をかけて背中にしがみつかれたが、煩わしくて振り払った。
引き留めるのを無視してバルコニーの手すりから身を乗り出して下を確認した。
「ロルフ、やめなさい!」
2階ほどの高さ。
天井の高い内部の合わせた造りなのでかなり高い。
それでも下は芝生と確認して飛んだ。
「危ないわ!やめて!ロルフッ!!」
足元から着地し、衝撃があったがごろっと転がって受け身をとった。
頭上から王女が俺の名をしつこく呼ぶが無視して開放されてるはずの扉を探しに行く。
軽く乱れた髪を撫で付けて、服の汚れを叩きながら。
「あんなのに構ってられるか」
そうひと言、吐き捨てた。
「ロルフ、あなた」
「汚れますよ」
冷たく言い放つとその場でおろおろと手が揺れていた。
ワインを吸った濡れた手袋。
もう片方も外して二枚に重ねる。
白い手袋にじわじわと広がる赤い染み。
それを割れたグラスの横に並べて置いた。
もう使えない。
不要だ。
「ロルフ、何を怒ってるの?おかしいわ」
「ああ、怒ってるとやっとお分かりになりましたか?」
「王に、してあげると私が言ってるのに。光栄なことよ。喜ぶべきことだわ」
むっとしたようで顔を歪ませて睨んできている。
「望むものには夢のような囁きでしょうね」
王女を避けて閉められた入り口へと手をかけたが、鍵が閉められている。
馬鹿なことをと舌打ちをする。
「外に閉じ込めてどうするおつもりでしたか?婚約者のいる相手に。王女は醜聞が怖くないと見える」
「醜聞?そんなものあるはずないわ。次期王女となる私に、」
「他国の来賓もいる中で婚約者のいる相手に懸想。面白おかしく話が広まるでしょうね」
ガチャガチャと揺すっても開かない扉にいら立った。
「会場のバルコニーを占拠してまで。愚かだ」
腹立ち紛れにきつく握ると取っ手がめきっと音をたてた。
それでも開かない。
“王にしてあげる”
馬鹿なことを。
玉座など欲してはいない。
そんなものいらない。
この王女の仄めかすひとときの快楽もだ。
俺には必要ない。
侮られるのは死ぬほど嫌いだ。
完璧に俺のことを舐めている。
婚約者がいると断ってるのに話も聞かずに己の言葉しか出てこない。
隣にしがみついて、逃げようにも反対の腕も後ろからもこの女の取り巻きががっしりと掴んで離さない。
気味の悪い笑顔を張り付けた訳の分からない異様さに圧倒された。
しかも、この女は閨の講師か何かになったつもりか。
一国の第一王女たる身分のくせに色気を安っぽく見せびらかして慣れた様子で体を押し当て、その手管に嫌悪感が湧く。
国で家族に愛されていたが、成長期の遅かった俺は周囲からみそっかすの四番目と揶揄されて育った。
背が低くとも、母そっくりの女顔のおかげで初物食いを趣味とした妙齢の女に追い回された。
子供と侮られてるのが分かるから色気を振り撒かれるのは嫌いだ。
背が伸びて精悍になれば、今までみそっかすのチビと侮った者達が手のひらを返して熱っぽく求めてきた。
豹変した女達に囲まれてうんざりしていた。
変わらなかった女性はリリィだけだ。
背が伸びても変わらず頬を染めて扇に隠れる様子が可愛かった。
“ロルフ様が伸びたから、私は前より小さくなりました。……私は、嫌われてませんか?”
恥ずかしそうにそう呟いて、尻すぼみになる小さな声、扇を持つ手元は微かに震えていた。
俺の方が聞いたのに。
背が伸びても良いかと。
“大きくても小さくてもロルフ様が好きです”
リリィは逆に背が近しい方が好みだろうに。
背が伸びて、リリィと並ぶと頭をひとつ以上離れた。
いまだに伸びてもうすぐふたつ分。
リリィも少しだけ背が伸びたけど俺の方がぐんぐん伸びた。
見かけが変わったのに、リリィは変わらずいつも頬を染める。
開かない扉に諦めてバルコニーの手すりに向かう。
「ロルフ、なにしてるの!危ないわっ!」
足をかけて背中にしがみつかれたが、煩わしくて振り払った。
引き留めるのを無視してバルコニーの手すりから身を乗り出して下を確認した。
「ロルフ、やめなさい!」
2階ほどの高さ。
天井の高い内部の合わせた造りなのでかなり高い。
それでも下は芝生と確認して飛んだ。
「危ないわ!やめて!ロルフッ!!」
足元から着地し、衝撃があったがごろっと転がって受け身をとった。
頭上から王女が俺の名をしつこく呼ぶが無視して開放されてるはずの扉を探しに行く。
軽く乱れた髪を撫で付けて、服の汚れを叩きながら。
「あんなのに構ってられるか」
そうひと言、吐き捨てた。
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