伯爵令嬢、溺愛されるまで~婚約後~

うめまつ

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47※ロルフ

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本当にかなり強力な効果だ。

まだ抜けない。

水袋が空になるほど飲んで体から出るものもない。

何かないかと辺りを見回す。

予備の剣や防具。

それと普通、見張り部屋には応急用の包帯やガーゼ。

手の届く棚からそれを見つけて腰の剣を掴んで半身を出す。

ちらっとタイロンの伺う気配。

問う気はないようなのでそのまま続け、利き手の反対で刃を強く握った。

「なっ?!おい?!」

「……ふーっ」

痛みでピリピリする。

そのままぐっと拳を握って立ち上がる。

ふらつきそうなら拳を握る。

「これでいいんじゃないかな?行こうか」

手に止血の包帯を巻いて口を使って締めていると呆然としていたタイロンが手を出した。

「どういうつもりですか?御身に怪我などあってはならないのにっ」

抗議のつもりか結び目を強く縛りきつく睨まれてしまった。

痛みで顔をしかめたが、そんなことで揉める暇はない。

不機嫌なタイロンに笑みを返して、まあ良いじゃないかとなだめた。

「くっ、その顔っ、インクまみれの癖に!」

余程、この顔に弱い。

怒っていたのに顔をそらして地団駄を踏んでいる。

便利さに思わず感動してしまった。

「余程好みなのか」

「……まあ、その笑い方ですね」

しゃがみこんでふて腐れて。

そこまで拗ねるか?

「好きだった奴の笑い方です」

「ふぅん、それより婚約者を探したい」

「大丈夫ですよ。当てはありますから」

お互いにフルフェイスを被ってすぐに外へ向かった。

「どこに行く?」

「外です。通称ゴミ箱」

名前が癇に触って頬がひくりと動く。

「ゴミ箱?」

「自分はまだここに勤めて日が浅くて、やっとメイド達の噂を聞けました。場所も把握しました、おっと」

がっと掴んだ私の頭を無理やり下げた。

「喋らず年寄りらしく」

「分かった」

ぼそっと低くしゃがれさせる。

タイロンの真似。

背を丸め歩幅を狭めた。

上手くいった気はしないが、タイロンからはその調子と小さく返ってきた。

向かいから来ていたのは数人のメイド。

暗い通路。

こちらが足音を忍んで歩けばこちらに気づくこともなくペラペラと彼女達の声がよく響く。

皆、手に包帯をしてその中の泣き続ける一人に肩を貸して支えている。

『う、ひっく、ひっく、ううっ、痛い、痛いわぁ』

『いつまでも泣くのはやめてよね。仕方ないからしばらく仕事は変わるけど、私達だって踏まれて手が腫れているのよ』

『そうよ、あんなご機嫌を損ねている時に側に控えなきゃいけなくなって。私達が可哀想だわ。いいわよねぇ、あなたは。その折れた手を言い訳に出来て。それにしても許せないのはあのチビすけよ。とっとと王女の意に従えばいいのに』

『男もよ。我が国より品の落ちる雑種の国。特にあんな肌の汚い男をこの離宮に踏み入れさせて。汚れが移ったらどうするのよ、また私達がお叱りを受けるわ』

『ああ、憎らしいあの男達のせいよ』

逃げたタイロンと私への暴言も始まった。

女達の恨み辛み。

フィンレー王子の時にも感じたが、この国は王家の教育をどう考えているのか疑問だ。

権力を持ったまま我が儘放題に育てたらこうなることは目に見えているだろうに。

他国の教育事情など所詮、余所事。

関わりたくないと思うが、ここまでリリィ共々巻き込まれるとは夢にも思わなかった。

自国内で押さえろと心の中で毒づいた。

『ああ、もう早く痛め付けてくれないかしら。そうすれば王女様も多少機嫌がよくなるわ』

『本当にね。あれを見て早く気を沈めて貰わなくちゃ』
 
『あいつらもすぐやるって言ってたわ。あんなおぞましいことよくも好き好んでやるわよ。あのケダモノ達』

『あ!みんな、しー!静かにしてっ』

向かいの私達に気づいて女達が黙って横を通りすぎる。

『あ、ちょっと』

数歩通りすぎた辺りでタイロンが唐突に後ろへ声をかけた。

ここで騒がれたら困るのに。

女達の訝しげな視線が私達に集中した。

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