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躾
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昼食後に、と約束し、誰かお供に付いてくると思ったら一人で来た。
「一人か?」
「三人が天幕の外まで付いてきたけど用事かあるって戻りました」
思うところがあったので天幕の入り口にいるエドとスミスを呼んでゲームでもして甘い物でも食べていろ、王都の話でも聞かせてやれと預けた。
「毛皮はあとだ。すぐ戻る」
あの三人がまとめて抜けたのは初めてだから気になった。
匂いを辿ると三人は宿舎から離れ、城内の人気のないに敷地へ向かっていた。
かなり近くに匂いを感じたので気配を消して近寄る。
どごっと衝撃音と共に繁みの向こうからラウルが吹っ飛んできた。
幸いぶつかることはなかった。
「ラウル、お前の最近の態度は目に余る!ダリウスっ、お前もだっ!」
もう一度どすんっどすっと、聞こえてくる。
ダリウスの呻き声も。
「二人とも反省しろ!16となられても中身はまだ小さな子供なんだぞ!幼いエヴ様に甘えて自分の欲を押し付けるな!くそどもがっ!」
目の前にひっくり返ったラウルが青い顔で起き上がると私と目があった。
「なんであんたがここにいるんだ?!」
「珍しい。喧嘩か?」
言葉遣いは無視して上官への不敬は見ないふりしてやった。
「悪いな。エド達に預けてきた」
やはり私に預けたつもりだったのだろう。
そう言うとラウルが舌打ちをして腹を押さえながらヨタヨタと立ち上がる。
「番犬を気取ってるくせに留守も頼めないんですか」
「事情を話すなら意に染むようにする。勝手にされたことまでは協力できない」
繁みを掻き分けて二人の元へ行くと、腹を抱えて座り込むダリウスと仁王立ちに冷めた目で見下すヤンがいた。
「ラウル、上官への態度を弁えろ。お前の無作法がエヴ様の非になると分かれ。バカが」
「普段はこうか」
私が対峙すると姿勢を正し、すっといつも通りの品のいい態度に変わる。
「失礼いたしました。団長」
「何を揉めている?」
「教育です」
「そうか。これは何のための教育だ?」
「主への不敬を咎めました。最近の二人は目に余りますゆえ」
心当たりに頷く。それに思ったより反抗なく素直な対応に心境の変化を察した。
「先程、エヴ嬢が幼いとなぜそんなに断言したのだ?実際に、なぜあそこまで内面が育ってないのか不思議だった。詳しく聞きたい。私は君らの信頼に値するのだろう?だからエヴ嬢を私に預けた。同等と思っていいのかな?」
三人と同じ立場がほしいと暗に仄めかすとヤンが首肯した。
「分かりました。団長は最近の、この二人と違って欲を押し付けることもなくエヴ様を気遣って下さっていました」
ヤンに見下され悔しそうに唇を噛むラウルと顔を引き締めて沈むダリウス。
どこからお話ししましょうかと呟いてしばらく考え込むと、ゆっくりと口を開いた。
「エヴ様は、お産まれになった時から強い魔力と守護の紋で命を落としかけてました。私がお会いしたのはその頃です」
バランスが崩れ、全身があのコブに覆われていたと。
ヤンは幼少期から人と暮らすのに害になるドレインを覚醒して、家族と暮らせず孤児院にいたそうだ。良し悪しがあれど目立つ特性は領主に報告が上がる。その縁があって本邸に呼ばれ、赤ん坊の頃から世話をしていたと話す。
「ですが、その頃の私の力は弱かったので最低限生かすことしか出来ず、人並みに歩けるようになったのは10才をすぎた頃です。それまではただベッドの上で何も人らしいことを経験することなく過ごしていました」
お互いの安定しない魔力に、吸いすぎたり吸えなかったりを繰り返し、時には魔力の吸いすぎで魔力枯渇させたそうだ。無理な魔力の吸い上げで、魔力が人より早く回復し大量に保有出来るようになったという。
しかも成長と共に増えるといういたちごっこ。
10年間、寝る間を惜しんで膨らむコブに手を乗せてずっと魔力を吸い続けたと話す。
先日、目にしたあの時の様子が頭をよぎった。
元の顔が分からぬほどコブがふくらんでいた。
苦しかっただろう。
辛かったろう。
手はふたまわりも大きく腫れて、喉を潰すほどだった。
ヤンから目も耳もコブに圧迫されて、きっと何も聞こえず見えもしなかったと聞いて目の前が真っ暗になる。
それが生まれてから10年間も。
たった6年という短い人生。
人生をやっと取り戻し始めたのに、魔人の襲来に剣も振れないくせ戦場に飛び込んで、今は男と混じり泥にまみれて魔獣退治をしている。
それでも今のエヴ嬢は驚いたり泣いたりと忙しく、いつも幸せそうに笑う。
生い立ちに胸が締め付けられ、いじらしさに目頭が熱くなった。
御父上であるジェラルド伯、側仕えのヤン達の深い愛情を察する。
エヴ嬢の笑顔と回りを見ればわかる。
多くの者がエヴ嬢を守ってここまで育てたのだと頭が下がる思いだった。
「なぜ6年前に落ち着いた?」
「アモルの魔力です。以前からあれ以外の襲来が度々ありましたが、アモルは6年前初めてエヴ様を襲い、なぜか魔力の交合をしました。結果、エヴ様の体質は魔法に特化した魔人の特性を帯びて魔力のバランスを操れるようになったのです。公にしておりませんが、いくつかアモルと同じ魔法を使えます」
「…聞いたことがない」
「恐らく上位種特有のものかと思います」
以前、アモルが魔力と共に術式を授けたと言っていた。
術式を授けたと言っていたが、私はエヴ嬢の舌に術式を刻んでるんだと思っていた。
実際、あの時の術式を作ったのはエヴ嬢本人だったわけか。
新たな情報に、上位種だけ?本当か?と今までの経験で見聞きした混血や王都の魔族の婚姻を思い出すと、上位種であるアモルだけの特殊な例だというのは違うのかもしれないと思い付く。
人と交わって暮らす下位種は魔力が多少あると言うだけで魔法を扱えない者や筋肉に特化した者ばかりだ。
魔族の婚姻はただ気配を感じるようになるだけだと思っていたが、魔族にとっての魔力の交合はお互いのもっと深いところを混ぜるものなのかもしれない。
「…ふむ、」
熟孝の必要があるが、他に例がないのでどうしようもない。
上位種の魔人と人族の組み合わせは私の知る限りひとつもないのだから。
「一人か?」
「三人が天幕の外まで付いてきたけど用事かあるって戻りました」
思うところがあったので天幕の入り口にいるエドとスミスを呼んでゲームでもして甘い物でも食べていろ、王都の話でも聞かせてやれと預けた。
「毛皮はあとだ。すぐ戻る」
あの三人がまとめて抜けたのは初めてだから気になった。
匂いを辿ると三人は宿舎から離れ、城内の人気のないに敷地へ向かっていた。
かなり近くに匂いを感じたので気配を消して近寄る。
どごっと衝撃音と共に繁みの向こうからラウルが吹っ飛んできた。
幸いぶつかることはなかった。
「ラウル、お前の最近の態度は目に余る!ダリウスっ、お前もだっ!」
もう一度どすんっどすっと、聞こえてくる。
ダリウスの呻き声も。
「二人とも反省しろ!16となられても中身はまだ小さな子供なんだぞ!幼いエヴ様に甘えて自分の欲を押し付けるな!くそどもがっ!」
目の前にひっくり返ったラウルが青い顔で起き上がると私と目があった。
「なんであんたがここにいるんだ?!」
「珍しい。喧嘩か?」
言葉遣いは無視して上官への不敬は見ないふりしてやった。
「悪いな。エド達に預けてきた」
やはり私に預けたつもりだったのだろう。
そう言うとラウルが舌打ちをして腹を押さえながらヨタヨタと立ち上がる。
「番犬を気取ってるくせに留守も頼めないんですか」
「事情を話すなら意に染むようにする。勝手にされたことまでは協力できない」
繁みを掻き分けて二人の元へ行くと、腹を抱えて座り込むダリウスと仁王立ちに冷めた目で見下すヤンがいた。
「ラウル、上官への態度を弁えろ。お前の無作法がエヴ様の非になると分かれ。バカが」
「普段はこうか」
私が対峙すると姿勢を正し、すっといつも通りの品のいい態度に変わる。
「失礼いたしました。団長」
「何を揉めている?」
「教育です」
「そうか。これは何のための教育だ?」
「主への不敬を咎めました。最近の二人は目に余りますゆえ」
心当たりに頷く。それに思ったより反抗なく素直な対応に心境の変化を察した。
「先程、エヴ嬢が幼いとなぜそんなに断言したのだ?実際に、なぜあそこまで内面が育ってないのか不思議だった。詳しく聞きたい。私は君らの信頼に値するのだろう?だからエヴ嬢を私に預けた。同等と思っていいのかな?」
三人と同じ立場がほしいと暗に仄めかすとヤンが首肯した。
「分かりました。団長は最近の、この二人と違って欲を押し付けることもなくエヴ様を気遣って下さっていました」
ヤンに見下され悔しそうに唇を噛むラウルと顔を引き締めて沈むダリウス。
どこからお話ししましょうかと呟いてしばらく考え込むと、ゆっくりと口を開いた。
「エヴ様は、お産まれになった時から強い魔力と守護の紋で命を落としかけてました。私がお会いしたのはその頃です」
バランスが崩れ、全身があのコブに覆われていたと。
ヤンは幼少期から人と暮らすのに害になるドレインを覚醒して、家族と暮らせず孤児院にいたそうだ。良し悪しがあれど目立つ特性は領主に報告が上がる。その縁があって本邸に呼ばれ、赤ん坊の頃から世話をしていたと話す。
「ですが、その頃の私の力は弱かったので最低限生かすことしか出来ず、人並みに歩けるようになったのは10才をすぎた頃です。それまではただベッドの上で何も人らしいことを経験することなく過ごしていました」
お互いの安定しない魔力に、吸いすぎたり吸えなかったりを繰り返し、時には魔力の吸いすぎで魔力枯渇させたそうだ。無理な魔力の吸い上げで、魔力が人より早く回復し大量に保有出来るようになったという。
しかも成長と共に増えるといういたちごっこ。
10年間、寝る間を惜しんで膨らむコブに手を乗せてずっと魔力を吸い続けたと話す。
先日、目にしたあの時の様子が頭をよぎった。
元の顔が分からぬほどコブがふくらんでいた。
苦しかっただろう。
辛かったろう。
手はふたまわりも大きく腫れて、喉を潰すほどだった。
ヤンから目も耳もコブに圧迫されて、きっと何も聞こえず見えもしなかったと聞いて目の前が真っ暗になる。
それが生まれてから10年間も。
たった6年という短い人生。
人生をやっと取り戻し始めたのに、魔人の襲来に剣も振れないくせ戦場に飛び込んで、今は男と混じり泥にまみれて魔獣退治をしている。
それでも今のエヴ嬢は驚いたり泣いたりと忙しく、いつも幸せそうに笑う。
生い立ちに胸が締め付けられ、いじらしさに目頭が熱くなった。
御父上であるジェラルド伯、側仕えのヤン達の深い愛情を察する。
エヴ嬢の笑顔と回りを見ればわかる。
多くの者がエヴ嬢を守ってここまで育てたのだと頭が下がる思いだった。
「なぜ6年前に落ち着いた?」
「アモルの魔力です。以前からあれ以外の襲来が度々ありましたが、アモルは6年前初めてエヴ様を襲い、なぜか魔力の交合をしました。結果、エヴ様の体質は魔法に特化した魔人の特性を帯びて魔力のバランスを操れるようになったのです。公にしておりませんが、いくつかアモルと同じ魔法を使えます」
「…聞いたことがない」
「恐らく上位種特有のものかと思います」
以前、アモルが魔力と共に術式を授けたと言っていた。
術式を授けたと言っていたが、私はエヴ嬢の舌に術式を刻んでるんだと思っていた。
実際、あの時の術式を作ったのはエヴ嬢本人だったわけか。
新たな情報に、上位種だけ?本当か?と今までの経験で見聞きした混血や王都の魔族の婚姻を思い出すと、上位種であるアモルだけの特殊な例だというのは違うのかもしれないと思い付く。
人と交わって暮らす下位種は魔力が多少あると言うだけで魔法を扱えない者や筋肉に特化した者ばかりだ。
魔族の婚姻はただ気配を感じるようになるだけだと思っていたが、魔族にとっての魔力の交合はお互いのもっと深いところを混ぜるものなのかもしれない。
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上位種の魔人と人族の組み合わせは私の知る限りひとつもないのだから。
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