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拳骨
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「アモルの件は理解した」
エヴ嬢が妙にアモルに甘いのもそのせいか。
贄ではなく逆に魔力を注いでくれた相手だ。
嫌いだ帰れだと言う割には、憎んだ様子もない。何だかんだと受け入れていたのが気になっていた。
先日は、次の新月はお茶の約束だからとどの茶葉にするか悩んでいた。
本人は分かってないようだが、アモルの訪問を楽しみにしているのだと分かった。
アモルの奴は、自分の血肉を食べさせたがる変態じゃなかったらもう少し親しくなっていただろうに。
恐らくエヴ嬢としては素直に感謝したいのに、自分を食えと強くねだられるからあの態度なのだろう。
「それでエヴ嬢は10歳になってから人と触れ合うようになったのか」
「ええ、10歳の大きな赤ん坊でした。16歳のエヴ様が人として育ったのは6年間。まだ中身は6歳の幼子なのです」
そして側にいる二人を冷たく一瞥する。
「仕えた年月は違えど、二人も同じものを見てそれが分かってるのに。美しくなられたことに浮かれて、このくそ共が」
腹立ち紛れに二人の足を蹴った。無言で頭を下げて堪える姿を見ても気が収まらず何度も交互に脳天を殴る。
「お前達が、望めば、意味も分からず、あの方は、必ず、応える!幼子の、知恵で、単純に好いて、慕って、信頼する、お前らに、御身を、開く!それを、漬け込み、やがって!このゲスどもが!恥を知れっ!」
言葉を区切りながら一発づつ。
ごっ、がっ、と鈍い音が何度も響いてさすがに同情を禁じえない。
二人とも最後の一発が響いたようで膝をついて頭を抱えている。
顔は殴らんから安心しろと呟いたが、まだ殴る気だろうか。
「触れ合うのは自分だけだなどとおこがましいことをねだったそうだな。隠れてこそこそと御身に近づき、己の立場もエヴ様の幼さも忘れた馬鹿ども。内面の幼いあの方に男への媚を教えた自覚あるか?」
どちらもヤンにこそこそとしていたのか。
三人の結託かと思ったら。
そう言えば、ヤンの匂いは二人より薄かったと思い出す。
「あんなっ、触り方をっ、覚えさせてっ!お前らが馬鹿なことを、教えるから私にまで、」
ごん、ごん、とまた。
「意味など分からず、甘ったるくっ、抱きついて、機嫌を取った!側仕えの、私に!お前らは、幼い主人に、何てことを教えるんだ!」
ヤンが怒り狂うはずだ。
エヴ嬢を愛しているが、どちらかというと親の心境に近い。
だから本人のために小言を言って己よりエヴ嬢を優先する。
「いっ、てぇ…」
うずくまっていたラウルが頭を上げた。
「だけど!ヤンは番だと諦めるのか!?いいのかよ!?」
こちらを睨むがお門違いだ。
「それとこれは別だ。エヴ様が選ぶことだろうが。お前達の勤めから逸脱した行動と幼い相手へ欲を押し付けていることが許されんのだ。人より10年の遅れがあるのに、ここまで努力され今もされていのに。毛皮を触るくらいでガタガタ抜かすな!だいたい、」
続く言葉を一瞬、躊躇したと思ったら、ちらっと私へ視線を向けて言い淀む。
気にするなと手を振ると少し言いづらそうに口を開いた。
「…ご本人を前に憚られるが、団長はヒムドと同じ扱いだ」
「理解している」
気にするなと言えば嘘になる。
エヴ嬢の心に食い込みたいが、まだまだだ。
ヤンが複雑そうに目を細め、憐憫と畏敬のこもった視線に頷き返す。
「エヴ嬢は毛皮にしか興味ない」
「ですが、団長の人となりを尊敬されてます」
「そうか、ありがとう」
「私もそうです。自制心に驚かされました。欲も番の本能もあられるはずなのに」
あの時は殺そうと思いましたが、と小さく呟く。
「お付きの私達だけではなくヒムドにまで敬意を払って接しているのは頭が下がりました」
「そうか」
ふ、と口許が弛む。
新参者は私だ。
この三人やヒムドに嫌われたらエヴ嬢に切られる。
「それとラウル、お前は誤解している。どう考えても一番気に入られてるのはアモルだ」
私がそう言うとヤンとダリウスは黙って頷き、ラウルは分からないと顔をしかめている。
「考えてもみろ。切っ掛けが何であれアモルのおかげで新しく人生を歩めた。どんな屑でも心底嫌いようがない。あれが被食願望の食人主義者でなければもう少し違った関係を築いていた」
はっと顔が変わる。
人生を変えたアモルにまた違った感情を持つのは自然な流れだ。
触れ合えるのと心が近いのは意味が違う。
私はヒムドと同じ扱いで、三人はジェラルド伯や兄のロバート殿に近い存在。
私達が欲してるのはエヴ嬢の伴侶としての愛情だ。
ただ触れあえばいいと言うことではない。
「だから殺したいんだろう、ヤン」
「あれが一番、殺したいですね」
10年の努力を一瞬で覆し、関心を引いた相手だ。
面白いわけがない。
「嫌いだ帰れというだけで殺すとは絶対言わない。最近もお茶の支度を楽しそうに話していた。次回の新月はアモルとお茶会だと聞いてないのか?」
考え込む様子に今回だけと軽く考えていたようだ。
エヴ嬢が妙にアモルに甘いのもそのせいか。
贄ではなく逆に魔力を注いでくれた相手だ。
嫌いだ帰れだと言う割には、憎んだ様子もない。何だかんだと受け入れていたのが気になっていた。
先日は、次の新月はお茶の約束だからとどの茶葉にするか悩んでいた。
本人は分かってないようだが、アモルの訪問を楽しみにしているのだと分かった。
アモルの奴は、自分の血肉を食べさせたがる変態じゃなかったらもう少し親しくなっていただろうに。
恐らくエヴ嬢としては素直に感謝したいのに、自分を食えと強くねだられるからあの態度なのだろう。
「それでエヴ嬢は10歳になってから人と触れ合うようになったのか」
「ええ、10歳の大きな赤ん坊でした。16歳のエヴ様が人として育ったのは6年間。まだ中身は6歳の幼子なのです」
そして側にいる二人を冷たく一瞥する。
「仕えた年月は違えど、二人も同じものを見てそれが分かってるのに。美しくなられたことに浮かれて、このくそ共が」
腹立ち紛れに二人の足を蹴った。無言で頭を下げて堪える姿を見ても気が収まらず何度も交互に脳天を殴る。
「お前達が、望めば、意味も分からず、あの方は、必ず、応える!幼子の、知恵で、単純に好いて、慕って、信頼する、お前らに、御身を、開く!それを、漬け込み、やがって!このゲスどもが!恥を知れっ!」
言葉を区切りながら一発づつ。
ごっ、がっ、と鈍い音が何度も響いてさすがに同情を禁じえない。
二人とも最後の一発が響いたようで膝をついて頭を抱えている。
顔は殴らんから安心しろと呟いたが、まだ殴る気だろうか。
「触れ合うのは自分だけだなどとおこがましいことをねだったそうだな。隠れてこそこそと御身に近づき、己の立場もエヴ様の幼さも忘れた馬鹿ども。内面の幼いあの方に男への媚を教えた自覚あるか?」
どちらもヤンにこそこそとしていたのか。
三人の結託かと思ったら。
そう言えば、ヤンの匂いは二人より薄かったと思い出す。
「あんなっ、触り方をっ、覚えさせてっ!お前らが馬鹿なことを、教えるから私にまで、」
ごん、ごん、とまた。
「意味など分からず、甘ったるくっ、抱きついて、機嫌を取った!側仕えの、私に!お前らは、幼い主人に、何てことを教えるんだ!」
ヤンが怒り狂うはずだ。
エヴ嬢を愛しているが、どちらかというと親の心境に近い。
だから本人のために小言を言って己よりエヴ嬢を優先する。
「いっ、てぇ…」
うずくまっていたラウルが頭を上げた。
「だけど!ヤンは番だと諦めるのか!?いいのかよ!?」
こちらを睨むがお門違いだ。
「それとこれは別だ。エヴ様が選ぶことだろうが。お前達の勤めから逸脱した行動と幼い相手へ欲を押し付けていることが許されんのだ。人より10年の遅れがあるのに、ここまで努力され今もされていのに。毛皮を触るくらいでガタガタ抜かすな!だいたい、」
続く言葉を一瞬、躊躇したと思ったら、ちらっと私へ視線を向けて言い淀む。
気にするなと手を振ると少し言いづらそうに口を開いた。
「…ご本人を前に憚られるが、団長はヒムドと同じ扱いだ」
「理解している」
気にするなと言えば嘘になる。
エヴ嬢の心に食い込みたいが、まだまだだ。
ヤンが複雑そうに目を細め、憐憫と畏敬のこもった視線に頷き返す。
「エヴ嬢は毛皮にしか興味ない」
「ですが、団長の人となりを尊敬されてます」
「そうか、ありがとう」
「私もそうです。自制心に驚かされました。欲も番の本能もあられるはずなのに」
あの時は殺そうと思いましたが、と小さく呟く。
「お付きの私達だけではなくヒムドにまで敬意を払って接しているのは頭が下がりました」
「そうか」
ふ、と口許が弛む。
新参者は私だ。
この三人やヒムドに嫌われたらエヴ嬢に切られる。
「それとラウル、お前は誤解している。どう考えても一番気に入られてるのはアモルだ」
私がそう言うとヤンとダリウスは黙って頷き、ラウルは分からないと顔をしかめている。
「考えてもみろ。切っ掛けが何であれアモルのおかげで新しく人生を歩めた。どんな屑でも心底嫌いようがない。あれが被食願望の食人主義者でなければもう少し違った関係を築いていた」
はっと顔が変わる。
人生を変えたアモルにまた違った感情を持つのは自然な流れだ。
触れ合えるのと心が近いのは意味が違う。
私はヒムドと同じ扱いで、三人はジェラルド伯や兄のロバート殿に近い存在。
私達が欲してるのはエヴ嬢の伴侶としての愛情だ。
ただ触れあえばいいと言うことではない。
「だから殺したいんだろう、ヤン」
「あれが一番、殺したいですね」
10年の努力を一瞬で覆し、関心を引いた相手だ。
面白いわけがない。
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