人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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公爵令嬢

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「お招きありがとうございます」

食堂に案内されて入室時にジェラルド伯へお礼を申し上げる。

「カリッド様!そんなっ、本当に獣化していらっしゃるなんて、」

声に反応して見ると、有事で混乱する砦に似つかわしくない派手な女性がいた。

「ペリエ嬢?なぜここに?」

アイスブルーの潤んだ瞳をしばたたかせてている。
長い巻き毛の豪華な金髪を派手に結い上げて真っ赤なドレス姿に眉をひそめた。
予想より少ないとは言え黒獅子とスタンビートで多くの死傷者が出た。レースと刺繍がたっぷりついたそのドレスは若く美しい様相にとてもよく似合っていたが、華やかな装いと血のように赤いその色は無神経だと感じた。

「何度も、お手紙をお送りして、辛抱たまらず会いに参りましたの」

あれかと今日の手紙の山を思い出す。
有事の際は女からの手紙は一切受け取らない。
通すのは王宮からと関連する人間のみ、他はエドが内容を見極めて必要と判断したら手元に届く。
周知しているのに無視してしつこい場合はエドが代筆をするようにしていた。
内容は二度と会わないと書けと言ってある。
言葉を待っているようだが無言を貫く。
だからなんだと。
無視してジェラルド伯へ向き直る。

「本日は、」

仕切り直しに挨拶を繰り返す。

「急な招きに答えていただいて…」

穏やかに笑うが、目が許していない。
父親として当然だ。
ペリエ嬢の向かいに座るロバート殿も無表情だ。
エヴ嬢の出欠を問いたかったが聞ける雰囲気でない。
おそらく貴賓を迎えるドレスがないこととマナー不足が原因で欠席だ。この場にいないことにほっとした。
ジェラルド伯に促され着座し、隣のペリエ嬢の喜色に顔を背ける。向かいのロバート殿は一瞬冷たく私を見つめ貴族の仮面をつけ直した。

「ペリエ嬢、有事のせいとは言えご令嬢の御前でこのような装いで申し訳ない」

ジェラルド伯が軽装の甲冑姿を謝る。

「食事も王都に比べたら見劣りすることでしょう。男所帯でささやかなお持てなししか出来ませんが、ゆっくり寛がれてください」

「そうだな、ロバート。か弱い女性の身でこちらへ来るのも道中、難儀したことであろう。しかもカリッド殿にお会いするためと情熱的に。パティ公爵の心労を思えば痛み入るが、カリッド殿は男冥利に尽きるのではありませんか?」

「そうですね。ペリエ嬢のような若く美しい方に想われて羨ましい限りです」

会話を引き継いでロバート殿は私へ、素晴らしいですねと儀礼的な微笑みを浮かべた。

「美しいだなんて、そんな、うふふ」

社交界一と讃えられる微笑みを浮かべ、機嫌を良くする。
三者三様の反応に、マナーとしての微笑みを返してなんでこんなことにと歯噛みする。
手を出した女が悋気を起こすなら分かる。だが、ペリエ嬢には何もしていない。
社交界随一と謳われる美貌を持ち、歴代の宰相を輩出した由緒ある公爵家の愛娘、今生陛下の従姉妹だ。
しかも、ペリエ嬢の母親は前陛下からの溺愛をいまだに独り占めする末の妹。
母娘二人は美貌を武器に今生陛下と前陛下の庇護のもと社交界に君臨し続け、ペリエ嬢は母親と共に血縁の最高権力者の二人を駆使して私との婚姻を長いこと画策し、いい加減私はそのしつこさにうんざりしていた。
十九歳と若く美しくあるが、荒事を好む私に仕事を辞めて王宮勤めを押し付けてくる。
近衛団長に推薦されたが、毎日ただ陛下の側に侍って華やかなパーティーの警護だけするなどあり得ない。
かと思うグリーブス家を継げだのペリエ嬢のパティ家を継げだの。
グリーブス家には兄がいる。
あちらにも跡継ぎはちゃんといるというのに。
さすがに母親が嗜めたが、望むなら陛下に口添えをするとこっそり仄めかしていた。
例え血筋の尊い王妹と言えど、娘可愛さに王都随一の団を束ねる私へ国内で一、二を争う両家のお家騒動を唆す。
国を荒らすおつもりかと。
それともそんなことも分からぬ愚か者かと。
私を災厄のような餌で釣ろうと言う浅はかさに嫌気がさした。
陛下と宰相を勤める父親のパティ公爵へ事の詳細を報告し、今後私への個人的なやり取りは一切断ると宣言した。
幼少期よりお付き合いのある陛下は私が従姉妹と結婚し、遠くとも縁続きになるのが単純に嬉しかっただけのようで、母娘の余りのお粗末さに今までせっついて申し訳なかったとお言葉を頂いた。
パティ公爵は二人は本気ではないと軽く見ていたが、ならば私が本気にするような愚か者だったらこの力と権力を使って国はどうなっていたのだと問うと、やっと事の重大さに気がついて慌てていた。
兄は難しくとも私の豪腕なら人族であるパティ家の嫡男を殺すことも、国一番と言われる団をまとめあげ、高い武力で国力を削ぐことも容易いのだと。
砂を噛むような食事にげんなりしつつ黙っていると三人は朗らかに会話を弾ませている。

「それで、カリッド様の番はどなたかしら?ぜひお会いしたいわ」

美しい笑みを浮かべても声に憎しみが滲む。
察したジェラルド伯とロバート殿は微かに眉をひそめた。

「そうですね。どんな方と思われますか?」

「私より美しいのかしら?年上?興味があるわ」

「女性の美しさを口にするなど薔薇か百合かと比べるようなものですね。ペリエ嬢の美しさはこの辺境の地にまで響いています。そんな方を前に田舎者の私共が美醜を語るなんてとてもとても」

「確かに。マナーとして憚られる。王都はだいぶ田舎より先進的でおおらかなようだ」

「あら?お二人ともそんな固くならなくてもよろしいのに。このくらいのお話なら皆さんなさいますのよ?ね?カリッド様?」

「…ジェラルド伯に賛成ですね。王都でもごく一部が好むだけで、私は好んで話しません」

黙っていたいが肯定と思われても迷惑だ。
言うことは言わねばならない。

「まあっ、そんなに畏まらなくていいと思うの。気楽な話題だわ」

「それで、王都ではどのような話題が好まれますか?」
「それよりお相手の方は?話を変えるなんてひどいのね?ロバート様ったら、もう」

ロバート殿は話題を変えようとするのに甘えた空気を漂わせ非難までして見せる。
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