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手紙
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女達のよく回る口がおかしくてしばらく笑った。
食事が運ばれて乱雑な書斎机を邪魔しないように気を利かせたご婦人方は外から小さめのテーブルを用意してくれた。そこに二人分の食事を並べて座るばかりに支度を整えて声をかけられた。
「ご婦人方、ありがとう。エドもそろそろ休んで飯にしろ」
「あと少し、こちらをやってからにします」
まだエドの大きな机には書類が散乱している。食べ終わったら私も手伝うか。
「重いものを運んで疲れただろう。世話になった」
労うと、にっと笑って胸を張った。
「このくらい軽いですよ、恩人様。雑用は任せてゆっくり休んでください」
「ええ、本当に。息子を助けていただいたって聞いて感謝しているんですよ」
誰のことかと思ったらブラウンの母親だった。
「私一人で出来たことではない」
「聞いておりますよ。お嬢様も一緒にと。あの後、治療中の天幕へ怪我に効く薬を沢山届けて下さったって。皆感謝してます」
深々と頭を下げる。他の女達も頭を下げてお礼を口にする。
「おかげで安心してここにいれます。街から避難したくても、私なんか外に伝はなくって行くところがないんですよ」
「私も旦那や息子を置いて逃げるなんて。死ぬなら家族とここでと思ったわ」
「さあ、無駄話は終わり!私達は出ていくよ。食事の邪魔をしちゃいけない。恩人様、ごゆっくり」
「ご婦人方、私はカリッド・グリーブスだ。役職は団長。好きに呼んでもらって構わない。仕事をしたまでなのに恩人様だと呼ばれてむず痒い」
「では、グリーブス様と呼ぼうかね」
「御名を呼ぶのは恐れ多いものね」
「何かありましたらいつでも声かけてくださいな。お貴族様だろうが、若い娘なんぞ笑って相手してやりますから」
「黒獅子とスタンビートの方が恐ろしかったからね。毎晩、轟音が鳴り響いて怪我人の手当て。辛かったわ」
さてと、と皆が動き出したので声をかけた。
「出で行かれる前に尋ねたい。ご婦人方は両団から出ている箝口令は把握されているかな?」
発表がある前にこちらへ呼ばれたのだ。やはり知らないようなので簡潔に説明をする。ペリエ嬢の持つ影響力もかいつまんで話した。
「どこで聞かれるか分からない。なので忘れたつもりでいてほしい」
それぞれ真剣な顔つきで頷いて、やかましかったのが嘘みたいにぞろぞろと静かに天幕を出ていく。
「面白かったな」
「軽口はお嫌いでは?」
「お前は的外れだからだ。番はまだ私に気がないのに結婚は間近だと喜んだり、ラウル達に嫌われていたのに仲良くなったと誤解したり。天幕では独り言が多くて外に話を漏らす。黙れと怒られて当然だろう?」
「き、聞いてたんですか?」
「耳がな。前より良くなったから。なので気を付けろよ。お前を手放すのは惜しいのだから。それと色魔の件でラウル達とは共同戦線だ。関係は良好だ」
リーグの件は伏せて状況を端的に伝えた。
「書類の方はそんなに混ざってるのか?」
スープの肉を頬張りながら尋ねた。
行儀が悪いが気になることが多くて時間が勿体ない。
旨そうな焦げ目のついた肉の柔らかさとしゃきしゃきと歯応えのある野菜がたっぷり入っているので新しく作ってきたと分かった。
残り物なら具が少なくぐずぐずに溶けている。
気遣いに感謝しつつ口に入れた。
「ええ、はい。順番に引き出しから抜いて持ってきたと言っていたのですが」
「ひとつの引き出しに四人の報告書はまとめていた。あとは時系列、スタンビートごと。全て区切りごとに付箋を挟んでいたがどうだ?」
「バラバラですね。端が破れていたり全体がしわくちゃになってますし、団長なのか彼女達なのか悩みました」
「彼女らとは思えん。手際が良かった」
「あと、これをご覧ください」
ゴミ箱にしている木箱の中身をこちらに向けたので食事を続けながら視線だけ向ける。ビリビリに破られた紙が溢れていた。色とりどりの山に理解できない。
「それは何のゴミだ」
「女性達からの手紙の束だと思います」
「は?」
「天幕内にこれが散らかっていたそうで、掃除を言いつけられて集めて持ってきたんです。彼女らも文字が書いてあるので大事なものではないかと気にしてました」
「…飯が不味くなる」
旨かったスープが一気に砂の味になった。
「書類も番を調べたくて漁ったのか」
「…やっぱりそうですかね」
エドも顔色悪く頷いていた。
「他の手紙を読んだ形跡はあるか?」
「どうでしょうか。さすがに王宮からの物は手をつけていないと思いますが」
「食べたら一通り見てみる。その書類も。今日は1日その作業か。手間だな」
「どなたか知られたでしょうか?」
「昨日のペリエ嬢の話しぶりだと、獣化したとだけ話が広まっているようだ。根掘り葉掘り番について聞いていた」
その破られた手紙の束を読めば王都の様子が分かったんだが。
残念だ。
食事が運ばれて乱雑な書斎机を邪魔しないように気を利かせたご婦人方は外から小さめのテーブルを用意してくれた。そこに二人分の食事を並べて座るばかりに支度を整えて声をかけられた。
「ご婦人方、ありがとう。エドもそろそろ休んで飯にしろ」
「あと少し、こちらをやってからにします」
まだエドの大きな机には書類が散乱している。食べ終わったら私も手伝うか。
「重いものを運んで疲れただろう。世話になった」
労うと、にっと笑って胸を張った。
「このくらい軽いですよ、恩人様。雑用は任せてゆっくり休んでください」
「ええ、本当に。息子を助けていただいたって聞いて感謝しているんですよ」
誰のことかと思ったらブラウンの母親だった。
「私一人で出来たことではない」
「聞いておりますよ。お嬢様も一緒にと。あの後、治療中の天幕へ怪我に効く薬を沢山届けて下さったって。皆感謝してます」
深々と頭を下げる。他の女達も頭を下げてお礼を口にする。
「おかげで安心してここにいれます。街から避難したくても、私なんか外に伝はなくって行くところがないんですよ」
「私も旦那や息子を置いて逃げるなんて。死ぬなら家族とここでと思ったわ」
「さあ、無駄話は終わり!私達は出ていくよ。食事の邪魔をしちゃいけない。恩人様、ごゆっくり」
「ご婦人方、私はカリッド・グリーブスだ。役職は団長。好きに呼んでもらって構わない。仕事をしたまでなのに恩人様だと呼ばれてむず痒い」
「では、グリーブス様と呼ぼうかね」
「御名を呼ぶのは恐れ多いものね」
「何かありましたらいつでも声かけてくださいな。お貴族様だろうが、若い娘なんぞ笑って相手してやりますから」
「黒獅子とスタンビートの方が恐ろしかったからね。毎晩、轟音が鳴り響いて怪我人の手当て。辛かったわ」
さてと、と皆が動き出したので声をかけた。
「出で行かれる前に尋ねたい。ご婦人方は両団から出ている箝口令は把握されているかな?」
発表がある前にこちらへ呼ばれたのだ。やはり知らないようなので簡潔に説明をする。ペリエ嬢の持つ影響力もかいつまんで話した。
「どこで聞かれるか分からない。なので忘れたつもりでいてほしい」
それぞれ真剣な顔つきで頷いて、やかましかったのが嘘みたいにぞろぞろと静かに天幕を出ていく。
「面白かったな」
「軽口はお嫌いでは?」
「お前は的外れだからだ。番はまだ私に気がないのに結婚は間近だと喜んだり、ラウル達に嫌われていたのに仲良くなったと誤解したり。天幕では独り言が多くて外に話を漏らす。黙れと怒られて当然だろう?」
「き、聞いてたんですか?」
「耳がな。前より良くなったから。なので気を付けろよ。お前を手放すのは惜しいのだから。それと色魔の件でラウル達とは共同戦線だ。関係は良好だ」
リーグの件は伏せて状況を端的に伝えた。
「書類の方はそんなに混ざってるのか?」
スープの肉を頬張りながら尋ねた。
行儀が悪いが気になることが多くて時間が勿体ない。
旨そうな焦げ目のついた肉の柔らかさとしゃきしゃきと歯応えのある野菜がたっぷり入っているので新しく作ってきたと分かった。
残り物なら具が少なくぐずぐずに溶けている。
気遣いに感謝しつつ口に入れた。
「ええ、はい。順番に引き出しから抜いて持ってきたと言っていたのですが」
「ひとつの引き出しに四人の報告書はまとめていた。あとは時系列、スタンビートごと。全て区切りごとに付箋を挟んでいたがどうだ?」
「バラバラですね。端が破れていたり全体がしわくちゃになってますし、団長なのか彼女達なのか悩みました」
「彼女らとは思えん。手際が良かった」
「あと、これをご覧ください」
ゴミ箱にしている木箱の中身をこちらに向けたので食事を続けながら視線だけ向ける。ビリビリに破られた紙が溢れていた。色とりどりの山に理解できない。
「それは何のゴミだ」
「女性達からの手紙の束だと思います」
「は?」
「天幕内にこれが散らかっていたそうで、掃除を言いつけられて集めて持ってきたんです。彼女らも文字が書いてあるので大事なものではないかと気にしてました」
「…飯が不味くなる」
旨かったスープが一気に砂の味になった。
「書類も番を調べたくて漁ったのか」
「…やっぱりそうですかね」
エドも顔色悪く頷いていた。
「他の手紙を読んだ形跡はあるか?」
「どうでしょうか。さすがに王宮からの物は手をつけていないと思いますが」
「食べたら一通り見てみる。その書類も。今日は1日その作業か。手間だな」
「どなたか知られたでしょうか?」
「昨日のペリエ嬢の話しぶりだと、獣化したとだけ話が広まっているようだ。根掘り葉掘り番について聞いていた」
その破られた手紙の束を読めば王都の様子が分かったんだが。
残念だ。
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