人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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椅子を引いて腰かけさせると、ありがとうございますと微笑んだ。
「いつか見たいと思っていた装いを見れて嬉しい」
「いつも鎧ですからね。女性らしい姿は私共も久々にお目にかかりました」
エヴの隣に座る末席のロバート殿も柔らかい微笑みに頷いて返す。
席に着くつもりで後ろを見るとヤンも食堂に入り、腕にフキンをかけていた。
「大公、宰相殿、先に娘の装いを謝罪致します。おもてなしにはいささか配慮のないと思われますでしょうが、ここには装う支度がありませんし、追悼を込めてあまり華美にする訳には参りませんので」
普段でしたら鎧姿ですからとうっそりと答えた。
「改めてお二方に子供達の紹介をさせていただきます。末席には先程の話し合いで同席した息子のロバート、手前は黒獅子と対峙した四名のうちのひとり、娘のエヴにございます。ご挨拶は娘だけで。さあご挨拶をなさい」
「クレイン辺境伯の娘、エヴ・クレインです。大公閣下、パティ公爵閣下、以後お見知りおきを」
穏やかな微笑みに苦虫を潰す大公とは違い宰相はしどろもどろになっている。
「これが噂の黒獅子を捻った娘です。どうぞお好きなだけご観賞されませ」
そうなんですねと微笑むとエヴはころころと笑った。
「こんな娘です。お楽しみいただけたら嬉しいです」
話し合いでエヴの話題が出たのか。
ジェラルド伯の気配から腹に据えかねるものがあって娘見せびらかしにここへ呼んだのだろうと察する。
彼らへの嫌味に素直なエヴはおかしそうに笑っている。
ロバート殿も冷えた気配を微かに漂わせ、いつもののらりくらりではない二人の様相に荒れそうだと目をつぶった。
少ない会話の中、食事が進み先に口火を切ったのは大公だった。
「このような、細腕で。さぞお供の三人が強いのだろう。陰日向に隠れていたのではないか?」
怪しいものだと訝しげに眉をひそめた。
面白くなさそうに鼻で笑う大公にエヴは気にせず笑みを浮かべた。
「はい、とても強い側仕えです。私は頑丈さしかとりえがないので囮になってました」
「囮にねぇ。守護の紋など女人には無用の長物だ。一人娘というのに。伯も哀れなものだ」
嘲りにエヴとジェラルド伯を交互に見つめて笑うとエヴが元気にいいえと言葉を挟んだ。
「大公閣下、守護の紋はとっても便利なんです。本当に頑丈で大型の鳥に食べられても蛇に絞められても無傷なんです。そうそう、黒獅子に投げられて山に穴が開きました。私の形に凹んでます。川も流れが変わってしまって。明日、ご覧になりますか?どちらも城壁から一望できますから」
観光名所になると団員が言ってましたと喜んで言うので二の句を告げずにいる。
「そんな、激しい戦いぶり、報告書には、」
「報告書は短く書きました。5日分は長いので読みづらいですよね?」
宰相が読んだ報告書は5日分を一枚に納めていた。
「戦ってる間お腹すいて眠かったです。たまに見つけた熟れていない青い木の実を齧ったり水をお腹いっぱい飲んだり。もう、いつ終わるんだろうって、早く帰ってほしかったです」
後からは側仕えと交代しながら休みましたと淡々と話す。
呆然とする三人を放って、今は眠れるしご飯も美味しいと笑った。
ジェラルド伯とロバート殿が戦いの最中、避難誘導で駆け回ったとそれぞれの出来事を口にし、避難と援軍の到達を持つことだけを優先して動いていたと話す。
「被害がこの砦の外だけで済んだのは守護の紋を持ち、最大の魔力量を誇る娘が私達の中心となって抗ったおかげです」
静まり返り、エヴ達が鳴らす微かな食器の音だけが食堂に響いた。
「あなた、ごめんなさい。私、何も知らなくて。そんなに大変な思いをしてここを守っていたのに、私」
ぽつりとペリエ嬢がエヴへ声をかけた。
強気なペリエ嬢の愁傷な様に宰相が目を丸くした。
大公は優しい姪だからと呟いて頬がほころんでいる。
「お姫様、私はここもこの国も守りたかったんです。え、と、国に、尽くして、陛下のお役に立てて嬉しいです」
思い出すように目がさ迷い、慣れない文言を口にする。
「私はその頃毎日お茶会や社交界にばかり出てたのよ?」
国の一大事だなんて分からなかったわ、と答えるとエヴは目を丸くして前のめりになる。
「そうなんですね、私、家族としかお茶会したことないんです。社交界もまだ。お話を聞かせてください」
「え?!どうして?!」
驚く三人にジェラルド伯が寝たきりで人並みに動くようになったのは最近なのでと話す。
「私、まだマナーが身に付いてないから。今も食事のマナーが、申し訳なくて」
恥ずかしいですと小さく呟いた。
「はうっ」
しょんぼりするエヴの姿がペリエ嬢の心に刺さったようだった。
胸を押さえて興奮している。
「わ、私がいるわ!あ、あなたに教えてあげるから!」
「本当?お姫様、嬉しいです」
エヴの頼る視線に頬を染めて胸を張った。
「もちろんよっ、王家のマナー師から学んだのよ。不安なら私が側にいてあげるし、私、私とずっと一緒にいればいいのよっ」
声を荒げる様子に隣の二人は訝しげに眉をひそめる。
見覚えがあるのだろう。
以前の私への態度だ。
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