婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

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37※ルルドラside

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何か隠してるとは思ってた。

数ヶ月不在の母。

執着していた僕から離れて手紙もなく大事な式典を休んだこと。

兄上が起こした騒動の狙いも。

一端に触れただけで全貌は分からない。

だけど分からなかった何かが分かった。

秘密の欠片を見つけたと気分が高揚していた。

「ルルドラ王子、待って」

ライン義姉様の声にハッとなって振り返った。

顔色の悪さと気遣う仕草。

それだけで僕の知らない何かを知ってると伝わった。

その横のメイド長。

兄上の腹心の1人。

ここで本音を晒す気はない。

「何?」

出来るだけ穏やかな声と態度を心掛ける。

扉越しに響いたもと婚約者のサーペント令嬢の怒鳴り声。

話を聞いて察するに兄上の独断で婚約破棄。

敵は王妃。

兄上を憎んでいた僕の母。

現状に納得出来ないと怒り狂うもと婚約者の態度。

そこまで分かれば絵面は出来上がる。

「大丈夫。怒ってないよ。傷ついてもいないし、サーペント令嬢の知らない一面には驚いたけど」

ああいうはっきりした女性だったんだねと答えた。

言葉が見つからず戸惑っていたライン義姉様はホッと顔を緩ませる。

すぐに信じてくれてありがとう。

単純なライン義姉様。

その隣で無表情に内心を隠しながら僕を探る視線のメイド長とは大違いだ。

「怖いね。あんなに怒鳴って」

「そ、そうですね。私も少し驚きました」

子供の会場を抜け出したタイミングだった。

自分の休憩と本会場の様子の確認のために。

途中、サーペント令嬢に従う兄上を廊下の端から遠くに見つけて興味から追いかけた。

庭を眺めて戻りたい、日差しがきつい、と細かく言えば通路の誘導は簡単だった。

珍しく神経質な発言をしたのに、誰も気づいてなかった。

「やっぱりちょっと辛かったなぁ。僕はまだ皇太子として認められてないんだね」

「ルルドラ王子、そんな」

戻った控え室でわざとそう言えばライン義姉様は簡単に青ざめて狼狽えた。

胸がスッとする。

「ライン義姉様、甘えたい」

「あ、はい」

袖を引くとすぐに抱き締めてくれた。

背が変わらない。

同じくらい。

少し前は僕の方が小さかった。

ライン義姉様の肩に顔を乗せて深呼吸。

いくつか頭に絵面を描く。

兄上と父上の愛情は本物。

疑いはない。

母上が姿を消したとたん家族として心地よく回り始めた僕らの関係。

母が庭で好んで育てていた植物の群生。

毎食に飲まされた薬湯。

心身によく効く薬を母自らの調合だと自慢していたこと。

飲むのをやめてから逆に体調がいい。

頭がスッキリして気分がよかった。

僕でなく母を中心に回っていた離宮。

減らした使用人達。

そのうちの何人かはいつも薬臭かった。

サーペント令嬢が母を罵った“毒マニア”とは言い得ているのだろう。

「全て母が起因か」

僕に飲ませるように周囲にも当然と飲ませたか。

「え?」

「何もないよ。もう少しこうしていて」

背中に手を回して、そうねだったところで扉が開いた。

執事姿の兄上だった。

僕らの様子に眉をひそめたけどまごついてる。

メイド長がルーラに止めてこいと指示を出していた。

機転が利いて、上に対して口の軽いルーラなら何か伝えたはず。

こっそりライン義姉様のことも呼び捨てにして妹のように可愛がってるのも知ってる。

分かりやすく言葉を探す兄上の様子を見たら優位に立ったと満足した。

「申し訳ありません。聞いてしまいました。サーペント令嬢の批判は1人の意見ではないのでしょう。兄上の期待に添えられず反省してます」

「皇太子に就任してまだ1年だ。これからだ」

「精進します」

「それより距離が近い」

睨まれて苦笑いを返す。

体を離したけど手は握ったままにした。

離したくなかったから。

それにしても冷静な兄上はライン義姉様が絡むと短絡的になる。

視線は僕らの繋いだ手を恨めしそうに見つめていた。

「先程のお話だとサーペント令嬢との将来を捨てて僕を助けてくれたんですね」

カマをかけるつもりで告げた。

「婚約破棄は建前で、僕へ皇太子を譲るために兄上の独断、」

「ルルドラ」

兄上の冷えた声音にしまったとほぞを噛んだ。

優しい兄ではない仮面を被った。

指導者としての、咎める態度に変化していた。

でもまだだ。

言葉の毒がある。

兄上に効かなくてもいい。

もう1人に。

冷徹な母を思い出してすぐさま口を開いた。

「僕の存在はサーペント令嬢との障害になってしまったんですね。ああやって本音を分かり合えるほど親しく相愛だったと知りませんでした


言った瞬間、ぎゅっとライン義姉様の手に力が入った。

強く握って震えてる。

やはり察した。

自分が望まれていなかった存在だと。

「サーペント令嬢は噂とは違い、兄上を愛してると子供の僕でも分かります。二人は結婚するはずだったのに皇太子を退いて予定外の結婚までしてしまった」

隣から大きな深呼吸が聞こえた。

兄上の瞳がとらえるのは動揺したライン義姉様。

仮面が剥がれて分かりやすく狼狽えた。

そして僕を一瞬だけ睨んだ。

母を見つめていた時のような瞳で。

翡翠の瞳が燃えていた。

慈しみ合う二人が好きだったのに。

二人に囲まれることも。

皇太子として期待に応えることと二人のためにと心に決めていたのに。

今は二人の仲を壊したくて堪らない。

欲しいのは皇太子の座ではない。

強く握る手を握り返して自分の望みを確認した。

手に入るかな。

壊して後悔しないかな。

不安なのにこうするのは当然と受け入れる自分がいる。

兄が憎い。

愛情と言いながら皇太子という重圧を押し付けて逃げた兄を。

欲したのは母で僕じゃないのに。

不幸になれと願ってしまった。

ライン義姉様の隣にいることも妬ましい。

この場所が欲しい。

やはり僕はあの恐ろしい母の息子だ。

なぜ思い通りにならないのと叫んで物を投げて、僕に皇太子となり兄を越えろ、父親の関心が薄いのは僕が不出来なせいだと呪詛を撒いていた母。

顔もそっくりなら中身も同じ。

自分が嫌いだ。

消えてしまえ。
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