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女神編

4葬目 −黒い華の思い−

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その日はいつもより晴れていたと思う。
館は鍵が閉まり、ガラーンとしていた

そんな中、一人の男がチャイムを押していた

「すみません!女神さん!!僕は❈❈出版の日高と申します!前から言ってる取材をお願いしたいんですが!!」

そう、記者である日高 かける
彼自身が初めて女神に関わった事件だ

この日は女神は現れることはなく、明け方、霧雨が降っていた頃だろうか?

館に明かりが灯り、ゆっくりと客を招き入れ始めたとき
日高は初めて館に入った

館の中は本当の水族館などのように様々な水槽があり、水槽の中には可愛らしい女性やたくましい男性
はたまた幼い少女から老人までが
様々な華と共に眠っていた

作り物と錯覚してしまうほどに美しいに日高は目を奪われた

奥にひとつだけ薄いカーテンがかけられた水槽がある

その水槽はほとんど灯りが灯ってなくて薄暗いため、赤い着物が少し目視できる程度だった

『記者さん』

背後から聞こえる鈴のなるような頭にじんわりと響く声が聞こえ、日高は振り向く

「っ…」

彼は息を呑んだ

噂と違わない女性が…女神のような女性が立っていたのだから…

『あなた…本当に諦めませんね…』

あきれたようなため息を漏らし、日高を見つめる女神
日高は首を振り、女神の手をとる

「あなたの取材をしたいのです!この館、花達の!!」

キラキラとした目で話す日高に女神は諦めたのか、そっと背を向ける

「あ!まってくださ…」

『ひとつ、お話をしましょう。もう一人いらっしゃるから早くついていらっしゃい…』

そう声を掛ければ奥の部屋に向かう女神

日高は慌ててメモを取り出し、彼女を追いかけた…









奥の部屋にいたのは小柄の女性だった。
何故、という顔をするが、すぐに目をそらされてしまった


『今日はこの華にしましょう…』

そっと女神がカーテンをあければ、水槽が現れる…中は、黒いチューリップの花に囲まれた青年が花の中で眠っている状態だ。

日高は初めての光景に、瞳を輝かせつつも何か得体のしれぬ恐怖感を覚えていた


「たっくん…」

女性はポロポロと涙を流した
きっと水槽の中の男性は彼女の知り合いだったのだろう。

『では…華のお話を…』

女神の言葉と共にあたりが暗くなり、水槽だけが淡く照らされる

神秘的…確かに、そう思える光景が広がっていた

『彼は…幼い頃からずっと身体が弱く、独り身でした


そんな彼のそばに寄り添ったのは幼馴染の女の子…

彼は幸せな生活を手に入れますが……

ある日、彼の体調が悪化してしまう……

そのまま病院に入院することになってしまうの…

毎日毎日、女の子はお見舞いに来たわ。

それでも彼が良くなることはなかった

彼もわかっていたのね、彼女が幸せになる方法が…

彼はある日病院を飛び出したわ


そしてそのまま悪化して、ひとりぼっちで亡くなった…

彼女の幸せを願いながら』


ガタッ…と音がしたかと思えば隣の女性が立ち上がっていた、そして女神に掴みかかった


「見ていたの?ねぇっ!なんで、彼を助けてくれなかったのっ!!」

泣きながら女神を揺する彼女
日高は慌てて止めようとする


『日高さん…お帰りください』

女神は普段と変わらぬ口調で日高を返そうとする

「でも…」

『いいですから、ここからは彼女のための小話。よその方にはきかせれませんから』

女神の言葉に、日高は部屋を後にした



「何よ…なんで、彼は私の、私だけのものだったのに!!」

彼女のポケットから注射器が顔を出す

「そうだ、女神様、貴女を眠らせれば、たっくんは帰ってくるかしら」

クスクスと狂ったように笑う女性

『もうやめなさい…貴女、わかっているの?』

冷たい声が響く

「は…?何言ってんの、貴女殺され…」

『…貴女、彼の大切な人を傷つけたでしょう?』

「っ…どこまで知ってるの…?」

怯えたように女神から離れる女性

『あなた…黒いチューリップの花言葉知ってる?』

「なに…?」

『私を忘れてください……』

女性は崩れ落ちる

『あなたの前にもう一人女性が来たの…』

女神は女性に近づく

『あなた…彼の入院を長引かせて、自分のものにしたつもりだったの?』

「何言ってるの!!彼は私のっ」

『あなたの、患者よね?』

女神はそっと女性に手を伸ばす

「ちが…」

『本当の彼女を殺そうとしたり、彼の病状を悪化させようとしたり…』

女性は首を横に振り、泣きそうになりながら女神を見つめる

『あなたは間違えたの、さようなら。あなたには罪の花がふさわしいわ…』

ニッコリと微笑むと女性の後ろから草が伸びてきて引っ張られていく

「いや、いやっ!なにこれ…あなた本当にバケも…」

『私はここの管理人よ…あなたの罪、そこで償いなさい…』

「い、いやぁぁぁぁあ!!!」

女性は悲鳴と共に、暗闇に消えた


『タクさん…あなたの願いは届いたわ…きっとあなたの恋人は幸せになる。あなたのことは忘れないけれど、きっと願いを聞いてくれるわ』

優しく撫でれば、中の青年が微笑んだ気がした…









その頃…

「女神さま、何か考えがあったんだろうなぁ…」

日高は思考を巡らせていた


(まず、なぜあんなことをしたんだ?彼女は。普通に考えればただの恋人の死を悲しむ女性…)

ぼんやりと空を見上げる

(黒いチューリップは…私を忘れてください、…その後ろに一輪だけ咲いてたのは…)


黒いバラ。チューリップの中に一輪だけ咲いていた

(花言葉は……あなたは私のもの?)


花言葉の違いに首を傾げたところで思い至る

(もしかして、別々の人に向けた花言葉?だとしたら…まさか)


「まさかな…」

探偵の真似事をしてたことを馬鹿みたいに思い、そっと手帳を閉じ、出版社に走り出す

記事をまとめるために…















黒バラの花言葉…あなた私のもの






そして

憎しみ恨み…
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