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2話 モラトリアム2
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なんの本を読もうかな
芥川龍之介先生の本も読み終わり、次は誰にしようかと、母の部屋の本棚をぼんやりと見ていた
そんなことを考えていると”バサッ“という音と共に1冊の本が落ちた
本を取ったときにバランスがおかしくなったのか、それとも…
「入れ方がおかしかったのかな…」
首を傾げつつも、本に触れる
そしてタイトルを見て、私はその本を撫でた
母の作品だった
【暁月みゆき】母の名前の上には【満たされぬ者】とタイトルが書かれている
読む前にはどこにでもあるタイトルだし、なんでこの本が売れたのか?なんて考えていた
でも、一度この本を読んで引き込まれた私はこの本が人気になった理由もわかる
よくある話だった
女の子が吸血鬼として覚醒して、好きな人を襲ってしまう
そんなお話
けれども母の書き方が面白かったのだ
本当に存在するかのように葛藤する少女
私にはマネなんてできないだろう……
「…でも、なんで落ちたんだろう。最近読んでないのに…」
その本を持ち、本棚に戻そうとする
「暁月…みゆき…かぁ」
ポツリと母の名前を呟いた
そのはず、だった
ゾクリと背筋が震える
部屋の温度が下がった気がする
『あら、ワタシを呼ぶなんて珍しいのね』
どこからか聞こえた声にゴクリと喉がなる
つい最近聞いた、昔、私の通っていた学校に七不思議があったということを思い出してしまい、声が出なくなる
なんやかんやホラーは苦手なんだ…
「だ、誰?」
両親は仕事で外に出ているはずだし、ましてや聞いたことのないどこか艷やかな女性の声だった
『なーんだ。ワタシを呼んだわけじゃないのね』
その声と同時に“スルリ”と細く白い女性の手が私の背後から胸元へまわってくる
「ひっ……」
私の喉からはうわずった情けない声が漏れる
このまま首を絞められてしまうかもしれない
私の頭を巡るのは死への恐怖
だけど、私の想像とは違って胸元の手は動かなかった
『アナタ………あぁ、そうなの。アノ子の娘なのね』
「え?」
その言葉に振り返れば、何も言えなくなった
白髪の長い髪に、真っ赤な瞳の綺麗な女性が立っていた
カーテンの隙間から差し込む太陽の光が当たればその女性は半透明のようだった
「きれい……」
『ふふっ、なるほどね。だからわからなかったのね』
クスっと艶やかに笑った女性は私のメガネを奪い取った
「か、返して!!」
『ふぅん?アナタ、目が悪いのね。』
幼い頃から本が好きすぎて暗いところでも読んでいたせいだと父に怒られた覚えがある
私の視力はとても悪い。メガネがないと見えないくらいだ
「それが、何?」
『アノ坊やね。…ふふっ、ワタシがいない間に随分色々やってるのねぇ』
女性は楽しそうに私の頬に触れる
ひんやりとした冷たさに身体が強張る
『名前、アナタの名前は?』
「なずな……暁月、なずなです」
私の名前を聞けば女性の瞳が大きく見開かれた
何か変な事でも言っただろうか…
『そう、そうなのね。……ふふっ、なずな。アナタ、この世界は生きにくい?』
「……」
私は何も答えられなかった
この世界は生きにくい。そのとおりだ
だからといって何か変わってほしいわけでも、何とかなってほしいわけでもない
父親譲りの無気力をなめないでほしい
『そう、ノーコメントってやつね。ならワタシが楽しいからアナタのその瞳、治してあげる』
「え?」
返答なんて待たずに私の目元に親指を置く女性
何故か怖くなり、身を引こうとするが彼女の力が強く逃げられない
私の視界が女の指で埋め尽くされ、真っ暗になったと同時に目に痛みが走る
「っ!?!?ぐ…ァぁあっ!」
痛みで私の口からは情けない悲鳴が漏れる
耳には、ブチュ…グヂッ、グチャグチャと私の目玉があった部分から血肉が掻き回されるような音が響く
痛みで逃げ出したいのに、やはり強い力で掴まれていて、逃げ出せない
頭の中によぎるのは、両親の顔
助けて…父さん、母さん……
ゆっくりと私の体から力が抜けそうになる
『あぁ、こんなに強く押さえつけていたら痛いに決まってるわよね。ふふっ、ほら、もう少し…』
ググッと更に奥までえぐられる
人の体から聞こえてはいけない音がする
私は何をしたのだろう
何をしてしまったのだろう
苦しさで声すら出ず、口をパクパクとさせていた
そう、まさに、虫の息だ
『…ほぉら、大丈夫。もう終わるわ。全く、複雑にするんだから』
終わる?なにが?私の命とでも言うの?
”ズルリ“と私の目のあった位置から女の指が抜けた
そのまま、私の体は床に崩れ落ちた
あぁ、私はこのまま死ぬのか
そんなことを考えるが、意識が飛ぶ気配が一向にない
痛みも完璧に落ち着いたことを不思議に思い、瞼を開ける
開けても、目玉が潰れていれば何も見えるわけがない…
『どう?見えるかしら?』
女性の声がする方へ顔を向ければ、最初は見えなかった目がぼんやりと見えはじめ、次第にはっきりと見えるようになった
そして最後にはメガネをかけていないのにメガネをかけている時と同様に目が見えるようになっていた
確かに目玉を潰されたはずなのに…
『目の奥にあったものを取っただけよ。それが悪さしてたのよ。なずな、よく見えるでしょ?それがアナタの本当の視力よ。ふふっ、また何かあったら呼びなさい、気が向いたら来てあげる』
そう言って楽しそうに笑えば女性はスゥッと光に紛れるように消えてしまった
「ゆ、め?」
そんなわけがない、あんなに痛かったのに
それに、メガネがなくてもこんなに見える…
フラフラと立ち上がり、鏡を見れば私の姿がはっきりと見える
元々赤みがかった茶色い瞳は、あの女性そっくりな真っ赤に染まっていた
「なに、これ」
自分の体の変化に驚くことしかできなかった…
まって、これ、治るの?……
芥川龍之介先生の本も読み終わり、次は誰にしようかと、母の部屋の本棚をぼんやりと見ていた
そんなことを考えていると”バサッ“という音と共に1冊の本が落ちた
本を取ったときにバランスがおかしくなったのか、それとも…
「入れ方がおかしかったのかな…」
首を傾げつつも、本に触れる
そしてタイトルを見て、私はその本を撫でた
母の作品だった
【暁月みゆき】母の名前の上には【満たされぬ者】とタイトルが書かれている
読む前にはどこにでもあるタイトルだし、なんでこの本が売れたのか?なんて考えていた
でも、一度この本を読んで引き込まれた私はこの本が人気になった理由もわかる
よくある話だった
女の子が吸血鬼として覚醒して、好きな人を襲ってしまう
そんなお話
けれども母の書き方が面白かったのだ
本当に存在するかのように葛藤する少女
私にはマネなんてできないだろう……
「…でも、なんで落ちたんだろう。最近読んでないのに…」
その本を持ち、本棚に戻そうとする
「暁月…みゆき…かぁ」
ポツリと母の名前を呟いた
そのはず、だった
ゾクリと背筋が震える
部屋の温度が下がった気がする
『あら、ワタシを呼ぶなんて珍しいのね』
どこからか聞こえた声にゴクリと喉がなる
つい最近聞いた、昔、私の通っていた学校に七不思議があったということを思い出してしまい、声が出なくなる
なんやかんやホラーは苦手なんだ…
「だ、誰?」
両親は仕事で外に出ているはずだし、ましてや聞いたことのないどこか艷やかな女性の声だった
『なーんだ。ワタシを呼んだわけじゃないのね』
その声と同時に“スルリ”と細く白い女性の手が私の背後から胸元へまわってくる
「ひっ……」
私の喉からはうわずった情けない声が漏れる
このまま首を絞められてしまうかもしれない
私の頭を巡るのは死への恐怖
だけど、私の想像とは違って胸元の手は動かなかった
『アナタ………あぁ、そうなの。アノ子の娘なのね』
「え?」
その言葉に振り返れば、何も言えなくなった
白髪の長い髪に、真っ赤な瞳の綺麗な女性が立っていた
カーテンの隙間から差し込む太陽の光が当たればその女性は半透明のようだった
「きれい……」
『ふふっ、なるほどね。だからわからなかったのね』
クスっと艶やかに笑った女性は私のメガネを奪い取った
「か、返して!!」
『ふぅん?アナタ、目が悪いのね。』
幼い頃から本が好きすぎて暗いところでも読んでいたせいだと父に怒られた覚えがある
私の視力はとても悪い。メガネがないと見えないくらいだ
「それが、何?」
『アノ坊やね。…ふふっ、ワタシがいない間に随分色々やってるのねぇ』
女性は楽しそうに私の頬に触れる
ひんやりとした冷たさに身体が強張る
『名前、アナタの名前は?』
「なずな……暁月、なずなです」
私の名前を聞けば女性の瞳が大きく見開かれた
何か変な事でも言っただろうか…
『そう、そうなのね。……ふふっ、なずな。アナタ、この世界は生きにくい?』
「……」
私は何も答えられなかった
この世界は生きにくい。そのとおりだ
だからといって何か変わってほしいわけでも、何とかなってほしいわけでもない
父親譲りの無気力をなめないでほしい
『そう、ノーコメントってやつね。ならワタシが楽しいからアナタのその瞳、治してあげる』
「え?」
返答なんて待たずに私の目元に親指を置く女性
何故か怖くなり、身を引こうとするが彼女の力が強く逃げられない
私の視界が女の指で埋め尽くされ、真っ暗になったと同時に目に痛みが走る
「っ!?!?ぐ…ァぁあっ!」
痛みで私の口からは情けない悲鳴が漏れる
耳には、ブチュ…グヂッ、グチャグチャと私の目玉があった部分から血肉が掻き回されるような音が響く
痛みで逃げ出したいのに、やはり強い力で掴まれていて、逃げ出せない
頭の中によぎるのは、両親の顔
助けて…父さん、母さん……
ゆっくりと私の体から力が抜けそうになる
『あぁ、こんなに強く押さえつけていたら痛いに決まってるわよね。ふふっ、ほら、もう少し…』
ググッと更に奥までえぐられる
人の体から聞こえてはいけない音がする
私は何をしたのだろう
何をしてしまったのだろう
苦しさで声すら出ず、口をパクパクとさせていた
そう、まさに、虫の息だ
『…ほぉら、大丈夫。もう終わるわ。全く、複雑にするんだから』
終わる?なにが?私の命とでも言うの?
”ズルリ“と私の目のあった位置から女の指が抜けた
そのまま、私の体は床に崩れ落ちた
あぁ、私はこのまま死ぬのか
そんなことを考えるが、意識が飛ぶ気配が一向にない
痛みも完璧に落ち着いたことを不思議に思い、瞼を開ける
開けても、目玉が潰れていれば何も見えるわけがない…
『どう?見えるかしら?』
女性の声がする方へ顔を向ければ、最初は見えなかった目がぼんやりと見えはじめ、次第にはっきりと見えるようになった
そして最後にはメガネをかけていないのにメガネをかけている時と同様に目が見えるようになっていた
確かに目玉を潰されたはずなのに…
『目の奥にあったものを取っただけよ。それが悪さしてたのよ。なずな、よく見えるでしょ?それがアナタの本当の視力よ。ふふっ、また何かあったら呼びなさい、気が向いたら来てあげる』
そう言って楽しそうに笑えば女性はスゥッと光に紛れるように消えてしまった
「ゆ、め?」
そんなわけがない、あんなに痛かったのに
それに、メガネがなくてもこんなに見える…
フラフラと立ち上がり、鏡を見れば私の姿がはっきりと見える
元々赤みがかった茶色い瞳は、あの女性そっくりな真っ赤に染まっていた
「なに、これ」
自分の体の変化に驚くことしかできなかった…
まって、これ、治るの?……
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