行き交うは 夢か現か 春の宵【山姥は捜す 時空を渡り時代を世界を)

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行き交うは 夢か現か 春の宵  5

第5章 山姥ホステスになる

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 山姥ホステスになる

 綺麗どころが居並ぶ銀川のクラブでも シェリーは目立った。源氏名は横文字だが、いつも和服だった。艶ややかな黒髪を結いあげ、おおきく襟を抜き、白い項に濃厚な色香が漂った。新人なのに、好き勝手に振る舞い、堂々たる態度は ママでさえ持て余すほどだ。
客の隣に座ると 遠慮なく匂いを嗅ぎ、客自身も気付いていない病を指摘した。病気持ちの客には 剣もほろろの塩対応で、客もその夜は怒って帰るのだが、医師に診てもらうとシェリーの指摘はことごとく当たり、医者から飲酒の許可が出ると、客は戻ってきた。医者の許可が出なくても、来店する客もいた。相変わらず、シェリーは塩対応。

クラブ銀川のシェリーとは、山姥夜叉波のしのぎのために化けた姿だった。

 クラブ銀川に その夜やってきたのは、商事会社社長「黒川 銀次」まれにみる醜男である。クラブ勤めの女たちは、金のために 客に愛想を振りまくが、好みは隠しようがなく、若く、整った顔立ちのレアな客には惹かれる。黒川は まさに正反対。黒川も 自分に近づく女たちの目当ては、金であると見切っていた。

シェリーこと山姥夜叉波は 黒川の隣に座った。いままでの客と違って、シェリーの方から黒川に身を寄せてゆく。恍惚の表情のシェリーが 黒川の手を握る。シェリーは、黒川が室内に入ったときから、その匂いに惹かれた。これほど新鮮な肉の匂いは久々だ。
クラブ銀川の客たちは、年齢が高めのこともあり、病院通いをしていなくても、どこかしら患っていて、フレッシュさに欠け 味見しなくても まずそうだった。

黒川は 山姥夜叉波には フレッシュそのものの血肉の塊だった。

黒川は初対面で、自己紹介もしないうちから、身を寄せてくるシェリーに戸惑った。それにやたら触ってくる。手も握って来て、こちらが引かなければ、手に口づけしそうだった。
黒川とシェリーは初対面なので、ママも同席したが、シェリーの態度に啞然とした。黒川には決まった女の子がついていなかったので、競合することなく、シェリーを黒川専属にできる。
黒川もかつてないほどの濃厚な接待に悪い気はせず、近いうちに必ずの来店を約束して、閉店時間に帰っていった。

シェリーと黒川の交際は順調にすすみ、ホステスと客の関係から。より密接な関係に進みつつあった。黒川はシェリーに 店を辞めてほしいと希望を伝えた。シェリーはあっさり承知して、黒川が用意したマンションに引っ越した。黒川は シェリーとの交際と同時進行で、シェリーが同棲している若者「神野 真」に引っ越しも含め話をした。
黒川は話し合いが揉めるのではと思っていたが、神野もあっさりシェリーを手放してくれた。

神野はシェリーこと「夜叉波 弥生」とは行き掛かり上、同居していたが、男女の関係ではなく、同棲していたのでもないと はっきり告げた。神野は夜叉波が出てゆくことに正直ホットした。わずかだが、人間100パーセントの黒川のことが心配になったくらいだ。

 夜叉波は 飢えているわけではないので、黒川のそばにいることで、宝物を大事に抱えている充足感があった。黒川が 夜叉波から逃げないように、大事にした。

 黒川は 誰かから、特に女性から 包み込まれるように大事にされるのは 生まれて初めての経験だった。弥生は、黒川が 部屋に来たときは、かいがいしく世話を焼いたが、うるさくしなかった。黒川自身は 交際の経験が少ないので、友人たちの経験談から判断すると、弥生の態度はあっさりし過ぎているような気もした。ねだられたこともないし、結婚を持ち出されたこともなく、次回いつくるのかも聞かれたことがない。御互い、生まれてからこれまでのことも話題に載せないし。
ふたりの話題は 時代も国も身近な事も哲学的なことも文学、芸術、漫画、映画、アニメ等々実に多岐に渡り、楽しかった。
いつのまにか、黒川は、仕事上でのトラブルまで、弥生に話していた。他言される心配のない、心を寄せる相手に 聞いてもらえることが、こんなにストレス解消になるとは思わなかった。しかも ときどき、弥生からは適切なアドバイスまでもらうことが出来た。なにしろ弥生には 千年に及ぶ人生ではなく妖の経験がある。妖だが、人間とかかわって生きて暮らしてきた千年の。

 山姥OLになる

 黒川は とうとう弥生を 自社の秘書室に迎えた。
 社内は、騒然とした。なにしろ、元ホステスが 同僚になるわけで、しかも採用試験なしのコネ入社、社長の決断と言えども、受け入れがたい雰囲気が充満していた。
入社して数日で、弥生は秘書室に独りだった。他の秘書たちは、弥生への嫌がらせで、同時に席を外して、様子をうかがっていた。
 艶っぽい話題の皆無だった社長が 銀川のホステスと付き合いはじめ、マンションまで用意してやるほど入れあげ、とうとう秘書に採用したとあっては、顔ぐらい見なくてはと 城川常務は秘書室を訪れた。
秘書室に独りの夜叉波弥生を見て、城川常務は驚きを隠せなかった。正確には 姿を目にする前から匂いで妖がごく近くに居ることがわかっていた。
夜叉波は、口裂けにならないよう注意深く、口角を上げた。「奥熊野の~」と呼びかけられ、城川常務は確信した。目の前の美しい女の正体は、山姥だと。夜叉波も 城川常務は天狗の末裔だと。ふたりは声低く親密な挨拶を交わした。天狗界では、八鬼山をはじめ、山姥の武勇は伝説だった。八鬼山で天狗大葉を救った山姥の銀髪は 錦紗で仕立てたお守り袋に入れられ、子孫に引き継がれていた。茶道家が 大事な大事な濃茶入れに替えの仕覆を仕立てるように お守り袋をさらに仕立てた袋に入れて引き継いできた。銀髪入りお守り袋が引き継がれたことで、夜叉波は天狗の子孫の活躍を察知できた。夜叉波も 天狗の子孫がグローバルに活躍していることは、少々驚きだった。
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