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行き交うは 夢か現か 春の宵 12
第12章 時空を超える探し物
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文明に依って 美の基準は違うので、火ノ川国では醜男黒川だが、こちらでは、好男子としてもてた。
火ノ川国 京都川時代
山姥夜叉波弥生が18歳で一夜を共にした若者は、三条家15番目の子「為時」で 雪夜の峠を越えようとしていた。現当主は 4歳上の兄であったが、病床にあり、命あるうちに会うべく かけるように先を急いでいた。気持ちは急いても吹雪に阻まれ ぼんやりと浮かぶ灯りを目指した。
前当主の子は16人生を受け そのうち男子は9名いたが、流行り病、事故等で、前当主が没した際に 生き残っていたのは、男子では第7子の兄と第15子の為時だけであった。
為時は15番目ということもあり、禅寺に預けられ、修身の日々ではあっても 割に自由で どこかのんびりと育てられた。修行の甲斐があって、山姥の小屋に泊めてもらったとき、この若く美しい娘が「人ではない」と感知していた。鬼の一族山姥とまでは、わからなかった。この娘のおかげで、雪の深山を無事越えることが出来た。
このときから、数ヶ月後 兄は黄泉の国へと旅立ち、為時が当主を継いだ。
当主となった為時は、妻を娶り、その翌年には姫が誕生していた。姫の誕生で、為時は、深山雪の あの一夜に もしかすると子が出来ていたかもしれないと想いを馳せ 確認せずにいられなかった。もし男子なら、長男であり、後継ぎである。また、人でない者に育てさせるわけにはゆかない。為時は、相当の用心を持って、深山雪の小屋を探らせた。
そして、3歳くらいになる男子の存在を知った。高僧に占を頼み 三条家の将来に欠かせない幼子との結果に、攫うことにした。
山姥弥生は、人間との間にうまれた男の子と深山でゆったり暮らしていたが、狩りに出るときは、小屋に結界を張って 幼子は家に置き、単身だった。死に物狂いになった獲物は危険極まりないので、連れて行けなかった。
山姥の留守を狙い、高僧から授けてもらったお札を持って、為時は幼子を攫おうとした。山姥は結界が破られたのを感知したと同時に 小屋に戻り、連れ去ろうしている為時の目の前に現れた。為時は、躊躇なく、土下座して、山姥に謝り、改めて、この「オノコ」を養育させて欲しいと頼んだ。
山姥は人間界と接触なしで、暮らすのは非現実的だと思っている。仙人のように俗世間と隔絶した日々をおくりたいなら、別だが、山姥も若いし、まして幼子は、成長するにあたり好奇心と知識欲、様々な刺激が必要である。で、人間の父親による養育を認めた。
父である為時に引き取られた時「オノコ」は3歳、為時は「為成」と名付けた。人の子の3歳より体躯はいくらか大きいくらいだったが、運動能力は、各段に優れていた。遊び仲間であり、護衛でもあるお小姓たちは、7歳以上が選ばれた。
突然、母親と引き離された為成だが、昼間は、おもしろいもの、面白いこと、に満ち満ちていた。
夜、母が恋しくなると、母を強く思うと、母はちゃんと添い寝してくれた。なにしろ、半分は山姥の血を受け継いでいたので、遠隔で気持ちは通じ合い、願えば、母は、すぐ駆けつけてくれた。誰にも知られることなく。
ひと月の後、為時は、家来衆を集め、明日に控えた山姥の為成訪問に備え、明言した。
「明日やって来る為成の母親は、側室になるわけではなく、まして正妻になるわけでもない。カノヒトは、キゾクであり、月影山を治める長である。為成誕生により、我が国は、キゾク(鬼族)のオサ(長)と同盟を結んだのである。客人として、粗相のないようもてなせ」
当日、為成は、風に運ばれてくる 母の匂い、銀の匂い、金剛の匂いに うれしくて うれしくて 飛び跳ねないようするのが、たいへんだった。
迎えた人々は、先頭をゆく女の美しさに見惚れ 付き従う赤鬼のような雲をつく大男と 巨大な灰色狼に 腰を抜かした。父為時とともに 迎えにでた為成は、「銀」と叫んで、灰色狼に抱きついた。狼は、「坊主、元気にしていたか?」とやさしく尋ねた。狼が人間の言葉を発した!これは白昼夢に違いないと誰もがおもった。為時の屋敷の天井は高いが、大男には低すぎ、座敷前の庭にも膳卓と床几を用意した。また、ともに遊ぶ最後の時とばかりに灰色狼銀の背に為成は乗り、駆け去った。前々から、母に 人間であり国主である父と暮らすなら、銀とは遊べないと言われていた。国主の後継ぎであれば、馬術は必須であり、銀と遊べば、狼の匂いに馬は怯えるからだ。狼と馬は、猟人と獲物なのだ。
為時は半妖である男子を後継ぎとしたのは、人間より丈夫で長寿が見込まれたからだ。為時の父は男子を9人も持ったが、今現在、生き残っているのは、為時ただひとり。
為成は、性格も素直で、武術も学問も心身の成長が速かった。幼子から少年と順調に育ち、母の添い寝を恋しがる夜も減った。元服等、節目のイベントには、必ず母も招待されていたので、正式に会う機会も少なくなかった。
縦長の火ノ川国のほぼ中央に不富士山があり、一番高い山である。京都川時代250年の春、不富士山が噴火した。地鳴り、火砕流や噴煙は、火ノ川国5分の1を覆うほどの大噴火であった。
山姥の住む月影山も地震にみまわれ、噴煙が降り注いだ。山姥弥生は、丹波国三条家に飛び、わが子為成の無事を確かめに向かった。駆けながら、為成の名を呼び続け、為成からも応答があった。あと一飛びで、為成に会えると思った瞬間、為成からの応えが消えた。目前の空間がゆがみ、重く揺蕩った。山姥弥生が、生涯で初めて時空の割れ目を体感した瞬間だった。言い伝えられて来た事ではあるが、現実に目にしたこの瞬間、同時にわが子の気配も消えた。割れ目に飲み込まれたとしか考えられない。
このときから、山姥「夜叉波 弥生」の時空の割れ目を見つけ出し、時代を渡り歩き、わが子を捜す旅が始まった。
火ノ川国 京都川時代
山姥夜叉波弥生が18歳で一夜を共にした若者は、三条家15番目の子「為時」で 雪夜の峠を越えようとしていた。現当主は 4歳上の兄であったが、病床にあり、命あるうちに会うべく かけるように先を急いでいた。気持ちは急いても吹雪に阻まれ ぼんやりと浮かぶ灯りを目指した。
前当主の子は16人生を受け そのうち男子は9名いたが、流行り病、事故等で、前当主が没した際に 生き残っていたのは、男子では第7子の兄と第15子の為時だけであった。
為時は15番目ということもあり、禅寺に預けられ、修身の日々ではあっても 割に自由で どこかのんびりと育てられた。修行の甲斐があって、山姥の小屋に泊めてもらったとき、この若く美しい娘が「人ではない」と感知していた。鬼の一族山姥とまでは、わからなかった。この娘のおかげで、雪の深山を無事越えることが出来た。
このときから、数ヶ月後 兄は黄泉の国へと旅立ち、為時が当主を継いだ。
当主となった為時は、妻を娶り、その翌年には姫が誕生していた。姫の誕生で、為時は、深山雪の あの一夜に もしかすると子が出来ていたかもしれないと想いを馳せ 確認せずにいられなかった。もし男子なら、長男であり、後継ぎである。また、人でない者に育てさせるわけにはゆかない。為時は、相当の用心を持って、深山雪の小屋を探らせた。
そして、3歳くらいになる男子の存在を知った。高僧に占を頼み 三条家の将来に欠かせない幼子との結果に、攫うことにした。
山姥弥生は、人間との間にうまれた男の子と深山でゆったり暮らしていたが、狩りに出るときは、小屋に結界を張って 幼子は家に置き、単身だった。死に物狂いになった獲物は危険極まりないので、連れて行けなかった。
山姥の留守を狙い、高僧から授けてもらったお札を持って、為時は幼子を攫おうとした。山姥は結界が破られたのを感知したと同時に 小屋に戻り、連れ去ろうしている為時の目の前に現れた。為時は、躊躇なく、土下座して、山姥に謝り、改めて、この「オノコ」を養育させて欲しいと頼んだ。
山姥は人間界と接触なしで、暮らすのは非現実的だと思っている。仙人のように俗世間と隔絶した日々をおくりたいなら、別だが、山姥も若いし、まして幼子は、成長するにあたり好奇心と知識欲、様々な刺激が必要である。で、人間の父親による養育を認めた。
父である為時に引き取られた時「オノコ」は3歳、為時は「為成」と名付けた。人の子の3歳より体躯はいくらか大きいくらいだったが、運動能力は、各段に優れていた。遊び仲間であり、護衛でもあるお小姓たちは、7歳以上が選ばれた。
突然、母親と引き離された為成だが、昼間は、おもしろいもの、面白いこと、に満ち満ちていた。
夜、母が恋しくなると、母を強く思うと、母はちゃんと添い寝してくれた。なにしろ、半分は山姥の血を受け継いでいたので、遠隔で気持ちは通じ合い、願えば、母は、すぐ駆けつけてくれた。誰にも知られることなく。
ひと月の後、為時は、家来衆を集め、明日に控えた山姥の為成訪問に備え、明言した。
「明日やって来る為成の母親は、側室になるわけではなく、まして正妻になるわけでもない。カノヒトは、キゾクであり、月影山を治める長である。為成誕生により、我が国は、キゾク(鬼族)のオサ(長)と同盟を結んだのである。客人として、粗相のないようもてなせ」
当日、為成は、風に運ばれてくる 母の匂い、銀の匂い、金剛の匂いに うれしくて うれしくて 飛び跳ねないようするのが、たいへんだった。
迎えた人々は、先頭をゆく女の美しさに見惚れ 付き従う赤鬼のような雲をつく大男と 巨大な灰色狼に 腰を抜かした。父為時とともに 迎えにでた為成は、「銀」と叫んで、灰色狼に抱きついた。狼は、「坊主、元気にしていたか?」とやさしく尋ねた。狼が人間の言葉を発した!これは白昼夢に違いないと誰もがおもった。為時の屋敷の天井は高いが、大男には低すぎ、座敷前の庭にも膳卓と床几を用意した。また、ともに遊ぶ最後の時とばかりに灰色狼銀の背に為成は乗り、駆け去った。前々から、母に 人間であり国主である父と暮らすなら、銀とは遊べないと言われていた。国主の後継ぎであれば、馬術は必須であり、銀と遊べば、狼の匂いに馬は怯えるからだ。狼と馬は、猟人と獲物なのだ。
為時は半妖である男子を後継ぎとしたのは、人間より丈夫で長寿が見込まれたからだ。為時の父は男子を9人も持ったが、今現在、生き残っているのは、為時ただひとり。
為成は、性格も素直で、武術も学問も心身の成長が速かった。幼子から少年と順調に育ち、母の添い寝を恋しがる夜も減った。元服等、節目のイベントには、必ず母も招待されていたので、正式に会う機会も少なくなかった。
縦長の火ノ川国のほぼ中央に不富士山があり、一番高い山である。京都川時代250年の春、不富士山が噴火した。地鳴り、火砕流や噴煙は、火ノ川国5分の1を覆うほどの大噴火であった。
山姥の住む月影山も地震にみまわれ、噴煙が降り注いだ。山姥弥生は、丹波国三条家に飛び、わが子為成の無事を確かめに向かった。駆けながら、為成の名を呼び続け、為成からも応答があった。あと一飛びで、為成に会えると思った瞬間、為成からの応えが消えた。目前の空間がゆがみ、重く揺蕩った。山姥弥生が、生涯で初めて時空の割れ目を体感した瞬間だった。言い伝えられて来た事ではあるが、現実に目にしたこの瞬間、同時にわが子の気配も消えた。割れ目に飲み込まれたとしか考えられない。
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