転生したらドラゴンに拾われた

hiro

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旅行編

59. 思い出

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 宿の部屋でのんびり過ごしていると、コンコン、とドアをノックする音がした。

「ウィルくーん、ジルー、ごはん行こー」

 ファムの声が聞こえる。ジルがドアを開けると、ファムを抱えたライがいた。あれ、テムは?

「ふふ、テムもいるよ。見えないけどね」

「ちゃんといるぞ!」

 声だけ聞こえた。そっか、恥ずかしがり屋さんだもんね。

「ウィル君とジル、もう出て大丈夫かい?」

「あう!」

 寝てのんびりして、体力充実だよ!ついでに食欲も回復したよ!とお腹をさすって空腹アピールをする。

「ふふ、それじゃあ行こうか」

 
 宿の外に出て、ファーティスの街とはまた違った街並みだということに気づく。ファーティスでは木造の建物が多かった気がするが、ここでは石や土を使った建物の方が多い。

「ファージュルム王国から川を渡った西側は小国が乱立している地域なんだ。この辺りはまだ治安がいいんだけど、さらに西に行くと、いつもどこかで争いが起きているんだ」

 ライが説明をしてくれる。

「雨が少ない地域でね、あまり作物が育たないんだ。だから少しの水をめぐって、たくさんの血が流れる。···悲しい話だよね」

 それは···なんとも悲しい話だ。僕はそういった争いのない国に生まれたから、想像しかできない。でもきっと、現実はその何倍も厳しくてつらいものなのだろう。

「それが嫌でソルツァンテなど他の地域に渡った人も多いよ。でも、そこで生まれ育った人は、争いしか知らないんだ。他に生きる道があることを知らない。···生きていくためには人の死を踏み台にしていくしかないと思っている人が、残念ながら多いんだ」

 水があれば、作物が育てば、食料が採れれば、そんな争いを避けることができるのだろうか。僕に出来ることは、あるのだろうか。

「ふふ、ウィル君は、頼もしいね。私はただ、世界は平和な場所だけではないと知って欲しかったんだ。ウィル君がもといた世界は、どうだったのかな?ウィル君の知識で、変えられることはあるのかな?」

 僕の頭に手を乗せたライの表情が切なくて、僕はなんだか泣きそうになる。
 僕は···分からない。まだ分からないけど、もし、僕に出来ることがあるのなら、全力で協力する。

「あう!」

 ライの手をぎゅっと握る。

「ふふ、ありがとう。長く生きているとね、色んな人と出会うんだ。···そして、色んな別れもあるんだよ」

 遠くを見つめるライは、今、どんな気持ちなのだろうか。僕は満足に推し量ることもできず、もどかしい思いをする。
 
「ライ、一人で出来ることなど限られている。お前が全てを背負う必要はない」

「ふふ、そうだね。ありがとう、ジル」

 ジルは、ライの悲しみの原因を知っているのかもしれない。いつか、ライが僕にも話してくれる時が来るだろうか。

「ウィル君も、ごめんね。この辺りに来ると、どうしても思い出しちゃうんだ。···よし、それじゃあ、お店を探さなくちゃね」

 ライにしては珍しく下手な笑顔でそう言った。


 その後は軽い会話を交わしながら、お店を探した。個室のあるお店は少なかったけど、テムが自分で見つけていた。さすが、必死度が違うなと思った。

 ここでも、注文はライに丸投げだ。

「うーん、スパイスの効いた料理が多いかな。お米や豆を使った料理も多いよ。あとは、川魚のメニューも色々あるね」

 ほうほう。料理って地域ごとに結構違うから面白いんだよね。使われている食材や調理の仕方でその地域の食文化について考察してみるのも、一興だ。···なんて格好つけてみたけど、本音は、美味しければ良し!

 お肉は濃いめの味付けでちょっとしか食べられなかったけど、魚はすごく美味しかった!焼き魚にほんのり塩を振ったシンプルな料理だけど、だからこそ素材の味が物を言うよね。身がぷりっぷりで、脂がのっているけどしつこさはなくて、僕はパクパクと食べてしまった。
 お米はソルツァンテのものとは品種が違うのか、形状が縦長で、風味とか食感とかが違って感じられた。スープに浸して食べたが、ピラフにしても美味しそうな感じだ。

 他にも、名物料理とか郷土料理とか、あるのだろう。またいつか来て、スパイスたっぷりのお肉や他の色んな料理を食べてみたい。

「ファーティスとは違った感じで面白いねー。ここの料理も美味しかったー!」

「だな!ピリッとした辛さがクセになるぜ!」

 そう言いながら、テムは甘いジュースをごくごくと飲んでいた。


「それじゃあ、暗くなる前に宿に戻ろうか。治安がいいと言っても、夜もそうだとは限らないからね」

 薄暗くなって人通りが少なくなった街には、どこか寂しさを感じる。僕達は足早に宿へ戻った。


「明日の朝食はどうする?」

 みんなジルと僕の部屋に集合して話をする。

「そうだな···。屋台で買うのもいいんじゃないか?」

「そうだね、ウィル君も、それでいいかい?」

「あう」

 ライが僕にも訊ねる。こうやって僕にも聞いてくれるのが嬉しい。まあ、分からないから賛成するしかないのだけど。

「それじゃあ、屋台で朝食を買って、食べ終わったらまたテムに転移をお願いしようか。確か、あと二回転移したら、ソルツァンテに着くんだよね?」

「おう!そうだぜ!」

「そうか、助かる」

「ブハハ!オレに任せとけ!」

 テムが頼もしい。ちなみに、今は姿を見せている。

「それじゃあ、私達も部屋に戻ろうか。ウィル君、ジル、おやすみ。また明日ね」

「おやすみー!」

「また明日な!」

「ああ、おやすみ」

「おあしゅみ!」

 それぞれ挨拶をして、僕はライ達を見送った。


「まだ少し早いが···今日は疲れただろう。もう寝るか?」

 ジルが僕をぽすっとベッドに降ろしてそう訊ねた。確かに、新しいことだらけの一日だったから、多少の気疲れはあるのかもしれない。でもお昼寝はたっぷりできたし、今はまだ眠くない。
 僕はバッグからライの本を取り出した。

「あうあう」

「···そうか。眠くなったら、寝るんだぞ」

 僕の頭を撫でるジルの手が心地良い。気持ちが穏やかになって、安心するんだ。···はっ!ちょっと眠くなりかけていた。僕はキリッとした顔で本を開く。
 そんな僕を見てジルは少し笑い、隣のベッドに移った。

 僕が読書に集中できるように離れてくれたのだと思うが、今日ずっと近くにあった温もりがなくなって、寂しさを感じる。

「···じる」

 ちょっと恥ずかしいが、甘えても、いいよね?

「どうした?」

「···こっち」

 僕の隣をぽんぽんと叩く。

「ふっ、分かった」

 ジルは笑って僕を抱え、あぐらをかいた足の上に降ろしてくれた。ちょっと遠慮して隣を叩いたが、この方がいい。やっぱりジルは、読心術が使えるのだと思った。

 僕は少しの間本を読んでいたが、すぐに心地良い眠りに落ちていった。
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