転生したらドラゴンに拾われた

hiro

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旅行編

62. アルトゥラウムの街

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 周囲のザワザワした音で目が覚める。どうやら僕が爆睡している間に、街に到着していたようだ。周りを見ると、整然と建物が並んでいて、多くの人々が行き交っている。

「起きたか」

 ジルが気づいて僕の頭を撫でる。
 起きただけで頭を撫でてもらえるなんて···!これは一歳児の特権なのかもしれない。今のうちに、めいいっぱい享受しておこう。

「ウィル君、おはよう。街に着いたよ。ここはソルツァンテの中でも内陸部にある、アルトゥラウムという街なんだ。お米の産地なんだよ」

 僕が一歳児特権にニマニマしていると、ライがこの場所の説明をしてくれた。

 ライが指差した方向を見ると、山々の斜面に幾重にも連なる棚田があった。水が張られていて、空に浮かぶ雲を映し出している。
 ···なんだか、とても幻想的だ。今はまだ明るいが、夕暮れ時や朝日が昇る時間などは、また違った風景になるのだろう。

「ふふ、あの田んぼ作りを先導したのが、リーナさんなんだ。本当に凄いよね」

 想像以上の絶景に言葉もなく魅力されていると、ライがそう言った。
 僕は乙女なリーナさんしか見たことがないけど、こんなことを成し遂げるくらいすごい人なんだなと改めて思う。僕がジルの近くにいる以上、乙女なリーナさんしか見ることができないかもしれないが。

「宿はさっき取ったから、街をぶらぶら歩いていたところなんだ。夕飯までのんびり散策しようと思っているけど、それでいいかい?リーナさんには、明日会うことになると思うんだ。···多分ね」

「あう、あいあと」

 宿も確保してくれていたのか。僕がジルに抱えられて寝ている間に色々と進めてくれていて、ありがたい。
 最後に付け加えられた『多分ね』という言葉が気になったが、ライはニコニコしているので問題はないのだろう。


 その後は、気になったお店にふらっと入ってみたり、ファムと姿を消しているテムの会話を聞いたりしながら、街を歩いた。

 このアルトゥラウムの街も、ファーティスの街のように活気がある。時折忙しそうにしている人も見かけるが、みんなの表情は明るい。

「そういえばリーナが、もうすぐお祭りだって言ってたよー」

 ファムが街の人々の様子を見て思い出したのか、そう言った。

「もうすぐ田植えだからね。豊作を祈るお祭りが毎年この時期にあるんだ。今年は二日後に開催されるみたいだよ」

 ほうほう。確か日本でもそういう行事は各地で行われていたと思う。こちらの世界でも、願うことは同じなんだなと思った。

「そういや、ここの祭りは覗いたことないぜ!なんか面白いこととかあんのか?」

「豊作祈願の踊りとかあるみたいだよ。リーナさんも、踊りはしないけどお祭りには関わっているみたいだし」

「なんかね、出し物やるって言ってたよー。ぼく、見てみたいなー!」

「ふふ、そうだね。せっかくだから、見てみようか」

「わーい!」

「おお!楽しみだぜ!」

 リーナさんは、何かしらの形でお祭りに参加するようだ。僕も二日後が楽しみだ。
 というか、お祭りの直前は準備で忙しいのではないだろうか。明日リーナさんに会うってライは言っていたけど、大丈夫なのかな?···あ、いや、ジルに会うためなら、リーナさんは何としてでも時間を作りそうだ。


「ねえねえ、そろそろ夜ごはんにしよー!」

 ファムの提案に、もうそんな時間かと思う。楽しいと、時間が過ぎるのはあっという間だ。

「そうだね、どのお店に入ろうか」

「ぼくね、いいお店知ってるよー」

 ファムがそう言うのは珍しい。よほど気に入っている店なのだろう。

「それじゃあ、道案内を頼めるかい?」

「うん、任せてー!こっちを右で、その次は左だよー」


 ファムの案内で辿り着いたお店は、看板などが出ていなくて、言われないとお店だとは気づかない。これがいわゆる隠れ家的なお店というやつか。

「ふふ、いいお店だね」

 まだ店内に入っていないのに、ライが笑う。

「でしょでしょー」

 意味深な会話をするライとファム、それからおそらくテムが店内に入り、僕達もそれに続く。

 店員さんに案内されて入った個室には、先客がいた。そう、リーナさんだ。

「みんな、ご機嫌よう。ソルツァンテに来てくれて、とても嬉しいわ」

 リーナさんがふんわりと笑顔を見せてそう言った。相変わらず、お美しい。

「リーナ、先日は米と魚をありがとうな。美味かった」

「い、いいのよ!食べてもらえて、嬉しいわ!」

 淑女リーナが、恋する乙女に早変わりだ。
 
「そうか。ウィルも米を気に入ったようでな、多めに購入させてもらえたらありがたいのだが」

「ええ、もちろんよ!買わなくても、私が贈るわ!」

 ジルのお願いに、リーナさんがパアッと顔を明るくして答える。

「いや、それはさすがに悪い。きちんと払わせてくれ」

「そ、そう···?」

 ジルに断られて、一気にシュンとするリーナさん。

「それだけの価値があるからだ。ソルツァンテの米は本当に美味い」

「ほ、本当に?」

 頬をパッと朱色に染めるリーナさん。

「ああ」

「···!」

 言葉が出ないほど喜ぶリーナさん。

 僕はむずがゆい気持ちになりながら、二人のやり取りを眺めていた。


「ふふふ、注文したいんだけど、いいかな?」

 ライの言葉に、リーナさんがハッとした顔をする。

「ご、ごめんなさいね、まずは注文しなくてはね」

「あはは!リーナは相変わらずだねー」

「も、もう、からかわないで」

 ファムとリーナさんが話しているところは初めて見るが、二人は本当に仲が良いようだ。

 ここで、テムがちゃんと姿を現していることに気づいた。リーナさんに対しては、人見知りしないのだろうか。
 僕がテムとリーナさんを見ていることに気づいたライが、こっそり教えてくれた。

「ふふ、テムはね、リーナさんは大丈夫みたいだよ。だってリーナさん、ジルしか見てないからね」

 ···ああ、なるほど。
 きわめて納得のいく理由だった。
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