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旅行編
63. 上品
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看板を出していないお店の雰囲気からなんとなく察していたが、ここはきっと高級店だ。リッチな人がお忍びで通いたくなるような、そんな感じだ。ま、まあ、僕はリッチじゃないから、完全にイメージなんだけどね。
注文はライ達に丸投げした。メニュー表をちらっと見せてもらったけど、どれがいいのか全く分からなかったのだ。ジルやライが注文してくれたものなら、間違いないだろう。
「ウィル君、ジルとの生活にはもう慣れたのかしら?」
おや。先ほどまでメニュー表で顔を隠しながらジルをチラチラ見ていたリーナさんが、僕に話しかけてきた。ジルの膝の上に座っているから、どうしても視界に入るのかもしれない。
「あう」
そういえば、慣れるもなにも最初から快適だった。それに、ジルと出会って幸せばかり感じている。
「それは良かったわ。私も近くでできることがあればいいのだけれど、なかなか難しくて。ごめんなさいね」
「あうあう」
とんでもない。忙しいのにこうやって気にかけてくれているだけでもありがたい。
「この前も言ったのだけれど、私にできることがあれば協力するわ。遠慮はしないでね」
そう言って微笑むリーナさんは、まるで聖母のようだ。
「あう、あいあと」
たとえ僕がジルの息子じゃなくても、リーナさんはこの微笑みを見せてくれるのだろう。
「助かる、リーナ」
「あっ、いえ、そんな、ただ私がそうしたいだけよ」
あっという間に真っ赤になったリーナさんを、ジル以外のメンバーは生暖かい目で見ていた。
そんなやり取りをしているうちに、料理が運ばれてきた。上品な店員さんが洗練された動きで、これまた上品な器に盛られた料理をテーブルに置いていく。
僕はなんだか自分が場違いに思えてきたが、赤ちゃんにはそういうのは関係ないのだと開き直ることにした。
「ソルツァンテではよく食べられている料理ばかりよ。気に入ってもらえたら嬉しいわ」
確かに、ファーティスの街などで食べた料理とは雰囲気が違う。というか、和食みたいだ。
「わーい!ぼく、ソルツァンテの料理、大好きだよー」
ファムがそう言って食べ始める。他のみんなも、それぞれ注文した料理に舌鼓を打つ。
僕が食べたのは、七草粥みたいに色々な野菜が入っているお粥だ。野菜の美味しさと、お米の柔らかな味わいがよく合っている。それに魚のほぐし身がトッピングされていて、味の変化も楽しめる。
それから、白身魚のみぞれ煮も美味しかった。出汁の味と香りが上品で、すりおろした大根にたっぷり染み込ませ、魚と一緒に食べる。口の中で、あっさりした風味の白身魚に出汁がよく絡み、その調和が素晴らしい。
他にも、お米や魚を使った料理がたくさんあった。テムががっついていた炊き込みご飯も、ファムがぽよぽよしながら食べていた白米のおにぎりも、ライが上品に食べていた海鮮丼も、もちろん他のも、どれも美味しそうだった。
それぞれお腹いっぱい食べて、みんな幸せそうだ。僕も、幸せだ。
上品なお店で料理を食べると自分まで上品な人間になったような気がするのは、僕だけだろうか。
僕はいつもよりちょっと澄ました顔をして、ジルのお腹に寄りかかることにした。
「眠いか?」
···お澄まし顔は、僕にはまだ早かったようだ。
夜ごはんを終えたら、今日はリーナさんとはお別れだ。
「リーナさん、今日来てもらえて嬉しいけど、明日は時間、大丈夫かい?」
「ええ、もちろんよ。あとは最終確認をするだけだから、明日はそれほど忙しくないの。明日もみんなと夕食をご一緒できたら嬉しいわ」
「ふふ、それなら良かった。それじゃあリーナさん、また明日ね」
「リーナ、おやすみー!」
「···また明日だぜっ」
テムの小さい声が聞こえた。人見知りでもちゃんと挨拶するのは偉いね。
「ええ、みんな、また明日」
みんなの挨拶に微笑むリーナさん。
「リーナ、おやすみ」
「···!お、おやすみなさい!」
ファムと同じセリフのはずなのに、ジルに言われるとこうもリアクションが変わるのか。
「あ、そうだ!いいこと思いついたー!」
ここで突然ファムが声を上げた。
「ジル、リーナを送ってあげたらー?ウィルくんは、ライに任せたら大丈夫だよー!」
「ええ!?ちょっと、ファム!」
ほ、ほう。リーナさんとジルを二人っきりにする作戦か。
ファムの提案に、リーナさんがめちゃくちゃ焦っている。
「ウィルも一緒に行けばいいだろう」
僕を抱えるジルの腕に、ぎゅっと力が入った気がした。
「えー?だってリーナを送ってる間に眠くなっちゃうかもよー?ぼくは、早めに宿のベッドに寝かせてあげたほうがいいと思うなー?」
ファムの声が楽しげだ。
「そうか···」
ファムの意見を最もだと思ったのか、ジルが僕をライの前に降ろそうとする。
その時、リーナさんが慌てて口を開いた。
「い、いいのよ!私は飛んで帰れるのだから!みんな、また明日会いましょう!」
乙女なリーナさんは首まで赤く染めて、ぴゅーんと飛んで行ってしまった。
「あーあ、相変わらず奥手なんだからー」
「ふふ、相変わらずだね」
そんなことを言いながらリーナさんを見送っている二人の横で、ジルは僕をしっかり抱え直していた。
「ふふ、ほんと、相変わらずだね」
ライと目が合い、僕はコクリと頷いた。
注文はライ達に丸投げした。メニュー表をちらっと見せてもらったけど、どれがいいのか全く分からなかったのだ。ジルやライが注文してくれたものなら、間違いないだろう。
「ウィル君、ジルとの生活にはもう慣れたのかしら?」
おや。先ほどまでメニュー表で顔を隠しながらジルをチラチラ見ていたリーナさんが、僕に話しかけてきた。ジルの膝の上に座っているから、どうしても視界に入るのかもしれない。
「あう」
そういえば、慣れるもなにも最初から快適だった。それに、ジルと出会って幸せばかり感じている。
「それは良かったわ。私も近くでできることがあればいいのだけれど、なかなか難しくて。ごめんなさいね」
「あうあう」
とんでもない。忙しいのにこうやって気にかけてくれているだけでもありがたい。
「この前も言ったのだけれど、私にできることがあれば協力するわ。遠慮はしないでね」
そう言って微笑むリーナさんは、まるで聖母のようだ。
「あう、あいあと」
たとえ僕がジルの息子じゃなくても、リーナさんはこの微笑みを見せてくれるのだろう。
「助かる、リーナ」
「あっ、いえ、そんな、ただ私がそうしたいだけよ」
あっという間に真っ赤になったリーナさんを、ジル以外のメンバーは生暖かい目で見ていた。
そんなやり取りをしているうちに、料理が運ばれてきた。上品な店員さんが洗練された動きで、これまた上品な器に盛られた料理をテーブルに置いていく。
僕はなんだか自分が場違いに思えてきたが、赤ちゃんにはそういうのは関係ないのだと開き直ることにした。
「ソルツァンテではよく食べられている料理ばかりよ。気に入ってもらえたら嬉しいわ」
確かに、ファーティスの街などで食べた料理とは雰囲気が違う。というか、和食みたいだ。
「わーい!ぼく、ソルツァンテの料理、大好きだよー」
ファムがそう言って食べ始める。他のみんなも、それぞれ注文した料理に舌鼓を打つ。
僕が食べたのは、七草粥みたいに色々な野菜が入っているお粥だ。野菜の美味しさと、お米の柔らかな味わいがよく合っている。それに魚のほぐし身がトッピングされていて、味の変化も楽しめる。
それから、白身魚のみぞれ煮も美味しかった。出汁の味と香りが上品で、すりおろした大根にたっぷり染み込ませ、魚と一緒に食べる。口の中で、あっさりした風味の白身魚に出汁がよく絡み、その調和が素晴らしい。
他にも、お米や魚を使った料理がたくさんあった。テムががっついていた炊き込みご飯も、ファムがぽよぽよしながら食べていた白米のおにぎりも、ライが上品に食べていた海鮮丼も、もちろん他のも、どれも美味しそうだった。
それぞれお腹いっぱい食べて、みんな幸せそうだ。僕も、幸せだ。
上品なお店で料理を食べると自分まで上品な人間になったような気がするのは、僕だけだろうか。
僕はいつもよりちょっと澄ました顔をして、ジルのお腹に寄りかかることにした。
「眠いか?」
···お澄まし顔は、僕にはまだ早かったようだ。
夜ごはんを終えたら、今日はリーナさんとはお別れだ。
「リーナさん、今日来てもらえて嬉しいけど、明日は時間、大丈夫かい?」
「ええ、もちろんよ。あとは最終確認をするだけだから、明日はそれほど忙しくないの。明日もみんなと夕食をご一緒できたら嬉しいわ」
「ふふ、それなら良かった。それじゃあリーナさん、また明日ね」
「リーナ、おやすみー!」
「···また明日だぜっ」
テムの小さい声が聞こえた。人見知りでもちゃんと挨拶するのは偉いね。
「ええ、みんな、また明日」
みんなの挨拶に微笑むリーナさん。
「リーナ、おやすみ」
「···!お、おやすみなさい!」
ファムと同じセリフのはずなのに、ジルに言われるとこうもリアクションが変わるのか。
「あ、そうだ!いいこと思いついたー!」
ここで突然ファムが声を上げた。
「ジル、リーナを送ってあげたらー?ウィルくんは、ライに任せたら大丈夫だよー!」
「ええ!?ちょっと、ファム!」
ほ、ほう。リーナさんとジルを二人っきりにする作戦か。
ファムの提案に、リーナさんがめちゃくちゃ焦っている。
「ウィルも一緒に行けばいいだろう」
僕を抱えるジルの腕に、ぎゅっと力が入った気がした。
「えー?だってリーナを送ってる間に眠くなっちゃうかもよー?ぼくは、早めに宿のベッドに寝かせてあげたほうがいいと思うなー?」
ファムの声が楽しげだ。
「そうか···」
ファムの意見を最もだと思ったのか、ジルが僕をライの前に降ろそうとする。
その時、リーナさんが慌てて口を開いた。
「い、いいのよ!私は飛んで帰れるのだから!みんな、また明日会いましょう!」
乙女なリーナさんは首まで赤く染めて、ぴゅーんと飛んで行ってしまった。
「あーあ、相変わらず奥手なんだからー」
「ふふ、相変わらずだね」
そんなことを言いながらリーナさんを見送っている二人の横で、ジルは僕をしっかり抱え直していた。
「ふふ、ほんと、相変わらずだね」
ライと目が合い、僕はコクリと頷いた。
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