魔力なしの魔女

みぞれ飴

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魔力なしのレティシア

第一話

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 この世界の人間には、魔力を持った者と、魔力を持たない「魔力なし」と呼ばれる人間がいる。
 魔力なしには総じていくつかの特徴があった。

「ふっ!はぁ!」
「ツメが甘い!」
 ここに、騎士団入団試験を受ける為に稽古中の二人がいる。
 受験者であるレティシアと、国衛騎士団団長であるフィルスだ。
 レティシアは元伯爵令嬢であり、魔力なしだ。そしてフィルスは、そんな彼女をずっとそばで守ってきた専属護衛である。

「んなっ!」
「だから言った...」
 魔力なしは、魔力はなくとも剣技が強いと言われている。
 たしかにレティシアも常人と比べて剣の腕は別格だ。だが、団長を前にそれは通用しない。
「かかったな...」
「...っ!?」
 フィルスの力に押され、レティシアの手から外れた剣は宙を舞い、また彼女の手に戻ってきて、フィルスの首を突き付けている。
「ほんっと、色気もくそもねーな」
「はぁ?騎士になるのに必要ないでしょ!?」
「...必要ですよ...お嬢にはね」
 そう耳元で囁くフィルスの顔には陰があった。


 事が動いたのは一年前。
「レティシア嬢!レティシア・ハルード嬢はいらっしゃいますか?」
 一般兵の訓練場に、手紙を持った使いが来た。
「ハルードって伯爵家じゃないか...そんな者は…」
 一般兵は平民の集まりだ。貴族の出で有ればすぐに騎士団入団試験を受ける。よってここには貴族は居ないはずなのだ。
「レティシアは私です。もうハルードと名乗っていないはずですが」
 そう...彼女は元伯爵令嬢。魔力がない事で家を追い出され平民となった元貴族だ。社交界にあまり出ていなかった為、その顔を知る者は少ない。
 加えて、今も彼女をハルードと呼ぶのは一人しかいない。
「殿下よりこれを渡すよう命じられました」
 この国の王子殿下。彼は昔から、レティシアの事を気にかけていた。
 手紙にはこうある。
『久しぶりだねシア。驚いたかな?話したい事があるんだ。来てくれると嬉しいよ』
 レティシアは手紙を読み終えると、クシャッと音を立てて握りしめた。
「ハルード嬢?」
「もうハルードの名は捨てました。これはいつの手紙?」
「先程渡されました」
「そう...今すぐ行くわ」
「承知しました!」
 王子殿下が来いと言っているのだ。今すぐ行かなくてどうする。
 レティシアは唖然とする一般兵の仲間達をよそに、一人剣を置いた。
「まさか...貴族様だったとは...」


 王宮の中、殿下のいる部屋へと続く道を歩いていると、見知った顔があった。
「おや、お嬢どちらへ?」
 騎士団長の仕事中のフィルスだ。彼は基本的に、殿下を護衛する仕事を任されている。
「殿下に呼ばれたの」
「そうでしたか。では一緒に参りましょう。お前はもう下がっていい」
「はっ。失礼します」
 殿下の手紙を持ってきた使いの者は、フィルスの言葉を聞いて去って行った。それだけ彼が力を持っているという証拠だ。
「しかし驚きました。まさかお嬢が呼ばれる日が来るとは」
「私も驚きよ。あの人が忘れてなかったようね」
 レティシアには王子殿下との約束があったのだ。
「さぁ着きました」
「これ...執務室よね?」
「えぇ…そうなのですが」
 扉を開け、見えた光景はそこかしこに広がる書物の山。とても殿下の姿など見えやしなかった。
「殿下はどこに?」
「あ...こちらに」
 机の上の書物に囲まれ、突っ伏して寝ていた。
「殿下。レティシア嬢が来られましたよ」
「ん...あ、」
 フィルスに起こされ、目の前にいるレティシアを見て気が付いたようだ。
「もう来たの?」
「殿下に来いと呼ばれて行かないわけが...」
「ははっ確かに」
 フィルスは殿下を起こすと、奥の部屋へと入っていった。
 殿下は窓を開け、風で目を覚まさせている。白髪に澄んだ青空の様なセレストブルーの瞳を持った、幼いながらにとても顔の整った綺麗な王子だ。風に靡く白髪が彼の美貌を際立たせる。
 彼の名前はシュゼンベル・レギス-トレシス・ランゲルト。王位継承者であり、現在は14歳という若さで王の代わりに国を率いている。彼は3年前に二つのものを失った。それは、父である国王と自身の婚約者であったはずの伯爵令嬢、レティシアだ。
 国王は病で若くして亡くなった。当然シュゼンベルもまだ若かった。この若き王子に、国を守れるとは到底思えないだろう。ところがどうだ。国は安定し、国王が存命していた時と変わらない。
「ここに君を呼んだのはね...あの契約の話をしたかったんだ」
「分かっています。でも、本当に私で良いのでしょうか?」
「君にしか僕の妃は務まらないよ」
 その言葉は信頼か、魔力なしの力ゆえか。
 レティシアよりも少し背の低いシュゼンベルは、彼女を見上げながらこう続ける。
「王国騎士になりなよ。少なくとも、僕の隣に立つには申し分無いはずだ」
「そう...ね」
 幼い頃に交わした婚約は、彼女が現状から逃げるための物であり、貴族で無くなった彼女には不要の話。のはずなのに…シュゼンベルはレティシアに執着していた。
「来年、騎士団入団試験があります。それを受ければいい。お嬢の実力ならいい線は行くと思います」
「それは合格までは分からないという事でしょ?」
「えぇ、まぁそういう事にはなります」
 着替え終わったフィルスが出てきた。
 さっきまで国衛騎士団の黒い制服とマントを身につけていたのに、今は黒くて装飾のない服だ。
「これから任務かい?」
「はい。先日の任務が失敗になって、まだ終わっていませんので...」
「あ...あれは、残念だった」
 シュゼンベルとフィルスの表情から察するに、何か良くない事が起こったようだ。
「フィル。気をつけて行ってきてね」
「はい。行ってきます」
 フィルスは窓を開け、影に消えて行った。
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