魔力なしの魔女

みぞれ飴

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魔力なしのレティシア

第二話

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 時が過ぎ、騎士団入団試験が始まろうとしていた。
 この国の生活の基盤は魔力だ。何をするにしたって魔力が無ければ火もつけられない。だからなのか...
「うわぁ!これもか!」
 少々口の悪い少女が一人。紙とペンを前にして苛ついていた。
 まず最初に行われたのが筆記試験...の様なもの。受験者の前に置かれたのは、紙と、魔力を通さなければ色が出ないペン。騎士団では、指揮官の言う事を聞いて動ければ良い為か、特に内容の濃い問題ではなかった。ようは魔法が使えて字が書ければ良いのだ。

 だがそれが問題だった。レティシアは魔力なしだ。その為、このペンは使う事ができない。
 彼女はポケットから宝石を一つ取りだす。
ーー魔石だ。
 この国では、魔力が少ない者も良く使うため、ほとんどの者が持っている代物だ。しかも、魔力が空になっても、また込めれば使える物。
 彼女の魔石にはフィルスの魔力が入っていた。
「まったく...今日は魔力がキラキラしてるわ。気合入れすぎよ」
 水の魔石には、キラキラと光る宝石の様な粒が混じっていた。
 魔石に入っている魔力は、適性がなければ使う事は出来ない。レティシアにはほとんど全ての魔力を扱う事が出来るのだ。
 

 一夜明け、合格者が発表された。
 合格の基準は、最低限のものだ。字が書けるか。魔力があるか。なくても魔石が扱えるか。魔力量があるか…だ。
 魔力量は、ペンの濃さで決まる。
 合格者は受験者の半分にも絞られた。
 レティシアの順位は、最下位に等しかった。精霊石を持っている事は、事前に申告しなければならない。例えどんな魔力を扱う事が出来るとしても、魔力量がほとんどない事は明白だからだ。
 二次試験は模擬戦だ。一次試験の合格者同士で剣を競い、勝った方が次に進めるというもの。トーナメント形式だ。
 ただし、勝ち進めば騎士団に入れるわけではなかった。
 剣技。その人がどれだけの技を極められているのかが鍵になった。王国騎士のうち近衛隊は、魔物討伐に行くことが多い。魔物よりも遥かに強い魔獣と戦う事もしばしば。当然、自分自身を守れる力も必要になった。
 だからこの模擬戦を、近衛隊の隊長と副隊長が審査している。例え負けたとしても、二人が欲しいと思えば、近衛隊に入る事が可能だった。
 だが、レティシアが目指していたのは一位になる事だ。王国騎士には二つの隊が存在する。魔物討伐に行く近衛隊と、王や民を守る国衛騎士団だ。つまり、国衛騎士団に入れば、シュゼンベルの近くに居ることが出来るのだ。
 国衛騎士団も、一位になれば入れる訳ではなく、近衛隊より条件の厳しい素質を見られるのだった。その為、団長であるフィルスも、シュゼンベルを守る傍ら、自ら赴きこの試験を見に来ていた。
「お嬢は大丈夫でしょうか?」
「何を心配してるんだ。シアはそんなに弱いの
か?」
「いえ…そうではないですが...」
「それに、彼女を騎士団に入れるか決めるのはお前だろ?」
「そうですね」
 闘技場の二階中央。全てがよく見える位置に、シュゼンベルの席があった。その隣には、今も任務中のフィルスの姿が。
 二人とも、レティシアの強さは知っていたが、それでも不安に思っていたのだ。何せ、平民しか居ない一般兵の中では、まともに剣術の教育を受けた者は居なかったからだ。
 何人かの勝負を見届けた末。会場が騒めき始めた。中央に向かって歩いてくる者が二人。次の対戦者達だ。そのうち一人に、レティシアの姿があった。
 この闘技場に居るのは、殆どが貴族だ。出場者も観客も。そのせいか、皆レティシアの事を気にしていた。
「あんな令嬢いたか?」
「平民じゃないのか?」
「でもどこかで見た気が...」
 観客は口々にレティシアの事を話している。彼女の事をどこかで見た事があってもおかしくはなかった。レティシアが社交界に出たのは限られた回数しかないが、それでも彼女の顔を忘れる事などあり得なかった。
 なぜなら、彼女が美しすぎたから。
「あ、思い出したぞ!ハルード伯爵家の長女だ!」
「確かに言われてみればあの髪色...」
 伯爵家は代々、どんな濃さであれ髪色は紫だった。その中でも一際濃い色を持って生まれたのがレティシアだ。ロイヤルパープルの髪にオールドローズの瞳が特徴だった。
 だがそれだけではなく、魔力なしの特徴として、剣技の他に美しさがあった。魔法が使えない代わりに手に入れた物だろう。
 その為、レティシアの美しさより右に出る者はいなかったからか、ほんの少し社交界に出ただけでも数多の人の目に留まったのだ。
「でも確か長女は伯爵家を勘当された筈だ」
「魔力なしだって噂もあるぞ」
「なら負けるだろうな...」
 この世の全ては魔力の量で決まる。そう決め付けて生きてきた貴族が多い。実際、家を継ぐ事ができるのは、魔力の多い者だった。
 結局生まれ持った素質に過ぎない。弱き者を見下し、その努力さえも許されない。そんな生き方が、レティシアは一番嫌いだった。
「お嬢...」
「大丈夫だフィル。瞳が赤い...」
 シュゼンベルの表情は、背筋が凍る様なゾクゾク感とこれから始まる事に興奮が抑えられないような、不思議な笑みだった。
 それもそのはず、だってレティシアはもう既
に、戦闘モードに入っているのだから。

「はっ!魔力なしだって!?そんなんで王国騎士になろうなんて、100年早いね」
「言ってろ。その言葉、あとで後悔するから」
 レティシアの相手は、中位貴族の令息だ。
 男は軽快にステップを踏み始めた。まるで、速さが取り柄だとでも言うように。
 レティシアは男を静かに見定めていた。
「では、試合開始!」
 開始の合図で真っ先に動き出したのは男の方だ。得意な魔法を次々放ち、魔力なしのレティシアを追い詰める。
 しかし、彼女はひとつの擦りもせずに全て避けていた。
(追尾なし、火力も弱い。直線攻撃...しかも狙いが定まってない。こんなんで、私を倒そうって!?馬鹿にするにも程がある)
 ただ逃げているだけのレティシアを、やはり魔力なしは弱い、逃げるだけで精一杯だと思う観客も増えてきた。
「あれは魔力切れを狙ってるのか?」
「あんなに魔法を放たれちゃあ、付け入る隙もないだろ」
 観客達の中で、レティシアの負けは確定していた。そればかりか、早く負けろ。と言う声も聞こえてきた。そろそろ逃げ惑うだけのレティシアに、観客達が飽きてきたのだろう。
「あいつら...!」
「まぁ待て」
 そんな観客達に、フィルスは怒りを覚えていた。シュゼンベルがレティシアだけを見るように促す。
「彼女は何を狙っているんだ?」
「恐らく、全く仕留められないという怒りと、魔力がなくなっていく焦りを味合わせたいのだと思います。もしくは...」
「もしくは?」
「相手の魔力を見切って、どこか入る隙を狙っているのかと」
「まぁ、両方だろうねー」
「はい」
 そう。レティシアは本当にその両方を狙っていたのだ。どんなに魔力に自信があれど、気持ちが乱れればある程度の隙は出来る。
 それに目の前の男はそれ程大きな魔力は持っていなかった。レティシアが魔力切れを待っていてもおかしくはない。
(さて...そろそろ客がうるさいし、どうしようかな)
 チラッと、シュゼンベルとフィルスの方を見た。
「何かする気だね」
「そのようです」
 レティシアは、魔法の合間を縫ってゆっくりと男の方に向かっていた足をピタリと止めた。男はここぞとばかりに大きな魔法を当てにくる。
 誰もがそろそろ決着がつくのかと思ったその時、彼女はやっと剣を抜いた。
 剣ひとつで魔法を破るなど、誰がどう見ても無謀だった。だが、それをやって退けてしまうのが魔力なしの実力だ。
 彼女はゆっくり目を閉じ、深呼吸をひとつ、そして目を開くと同時に、剣を胸の前に構える。
(よし。ここだ…!)
 勢いよく前に一歩踏み出し、飛んでくる魔法に向かった。
 彼女と魔法がぶつかる瞬間。大きな爆発が起き、周囲は見えなくなった。誰もがどうなったのか見守る中見えてきたのは...男の首元に剣を突きつけるレティシアの姿だった。
「し、試合終了!」
 審判が慌てて合図を出す。
 誰もがレティシアの負けだと思っていたこの試合。彼女だけが、自分が勝つのだと確信していた。
「よし!シアが勝ったぞ!」
「少し安心ですね」
 興奮気味のシュゼンベルに対し、フィルスは胸を撫で下ろした。なにせ、彼がレティシアに剣を教えていたのだから、勝てなかったらどうしようかと、途中焦っていたのだ。
 試合が終わるとレティシアの瞳は、またオールドローズ色に戻った。
「おい...なぜ俺が負ける。お前は魔力なしだろ」
「...私はその考えを覆しに来た。魔力なしは強いって事、証明してみせる。これは最初の一歩だ」
 魔力なしは、今まで政治に関わってきた記録がない。彼らはそう簡単には生まれてこないが、確かに存在する。
 彼らは魔力が少ない者とは、明らかに違う。だってみんな、瞳が赤いのだから。
 政治に関わらないのが彼らの規則なのか、はたまた消されただけなのかは分からなかった。赤い瞳を持つ彼らは、魔族だと罵る奴らもいる。だがその反対に、神の使いだと崇める者もいた。
 だって、500年前に存在した魔女の瞳が赤かったのだから。
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