かわいいクリオネだって生きるために必死なの

ここもはと

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第1章

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 もう一学期も終わり。終業式だった。
 と、いっても。大河と香葉来は学童クラブにあずけられるから、夏休みも学校に通う。
 香葉来は、「真鈴ちゃんも来てほしい」と残念そうにがっくりしていた。
 
 真鈴はおじいちゃんとおばあちゃんがいるから無理だよ。
 大人ぶって内心で思っていたけど、大河だって香葉来と同じで、真鈴に会えないのはすごくさみしい。
 ほんとイヤだな、夏休み。

 小川沿いの通学路。大河は香葉来とふたりして、いじいじしていた。
 集団登校する他の児童は夏休みをよろこんでいるから、まったくの逆だ。
 太陽はうるさいし、じいじいってセミもうるさいから、イライラしてしまう。
 ああ、ダメだ。イライラしたら、香葉来が怖がっちゃう。

 学校につくと、真鈴は教室にいた。
 楽しそうな顔? 真鈴が近づいてくる。彼女は目元をキラキラかがやかせながら、

「おはよっ」

 はしゃいだ声を投げてくる。

「……おはよ」

 香葉来は暗い。

「……おはよう」

 大河もだ。
 けれど、真鈴は、ふたりの心を読んだみたいで、さらに声をはずませて。

「元気だしてよ! あっ、夏休みになっても3人で遊ぼうね! 香葉来、電話するから。香葉来は大河を誘ってね!」

 オセロが黒から白にひっくり返った瞬間だった。
 うれしいうれしい真鈴からのお誘いだ。
 香葉来のいじいじ顔は、みるみるうちに笑顔に変わってく。
 まじまじと見ていた大河も同じ気持ちだ。でもはずかしいから、唇をぎゅっと結んで、「うれしい」の空気圧を調整した。
 夏休みの楽しみができた。
 大河は、さわやかスカイブルーの空を自由にすいすい飛んでいるみたいな、うきうき&わくわくのよろこび&楽しみで心が満たされてた。
  
 終業式が終わったあとの帰りの会で、通知表を渡された。
 クリアファイルに入った通知表はツルツルとしていた。

「見せっこはダメよ」

 って先生から、忠告があったけど、ほとんどのクラスメートは渡されたとたん、こそこそと見せっこしちゃう。結局先生も黙認していた。
 はっきりしないなぁ。大河はあきれた目で先生を見ていた。

「大河、どーだったぁ?」

 ななめうしろから、一也の問いかけ。平然と聞いてきた。

「え。どーって。ま、いいけど」

 意地を張ってルールを守るのもバカバカしくなって、大河は冷めた様子で一也に応じた。
 大河の通知表は、全部「よくできた」だ。
 実歩に、「1年生のときはね、だいたい全部、『よくできた』は取れるのよ」と言われていたけど、本当にそのとおりだった。
 案の定、一也もオール「よくできた」。

「同じー。なんかさー、張り合いがないよなぁー」
「いいじゃん。一也もぼくも真面目に勉強をしてるってことだよ」
「いやぁー。でもサッカーの勝ち負けみたいにハッキリしたいし」
「通知表で勝ち負けはないよ」

 一也は唇を尖らせていた。
 一也はボール遊びが得意で運動神経もいい。足は大河より早い。
 なのに、体育が同じ「よくできた」だったということに不満を感じていたのかもしれない。

 つぎに一也は、「汐見はぁー?」と、となりの香葉来に声をかけた。

「えっ!」

 香葉来は悲鳴のようにぎょっと驚いた声をあげ、びくりと体をゆらした。
 黒目がきょときょと落ちつきをなくして揺れ、次におどおど怯えだす。
 え……香葉来。どうしたの?
 もしかして……算数が悪かったの? 「よくできた」じゃなかったの?

 きんきんと張り詰めた空気に苛まれた。
 そこで。沈黙していた真鈴が体をくるっと一也の方へ向ける。

「やめよ? 先生、見せっこダメって言ってたし」
「あっ……うん」

 と。ひとことで流れは切れた。
 一也も、真鈴のことは一目置いてる。
 前に怒られたことが効いているのかもしれない。
 だけど今の真鈴は、鋭い目できっと睨みつけることもなく、ただ声をかけているだけだった。
 真鈴がランドセルに通知表をしまうと、香葉来もマネるようにしまいだす。
 香葉来の余裕のない表情は、いつまでも大河の頭の中で残った。
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