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終章
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大河は深く思い浸っていた。
トラックはその間も駆動音を鳴らし続けていた。
香葉来はまだいるのか。いたからって、おれは何も……。
もんもんと煮え切らない気持ちだけが心に沈殿する。
そのときだった。
ピンポーン。古風な平屋建に似合う音がこだまする。
「あの、大河くん!」
その声に、大河は当惑する。
香葉来だ。どうしたんだよ。
だけどトラックの駆動音を聞くと、戸惑う時間もなさそうだった。
大河は急いで玄関に向かった。
ガラララ。
玄関扉をスライドさせると、ほほえむ香葉来の顔があった。
「大河くん、ちゃんとお別れ言いたかったの。本当に、ありがとう。今までお世話になりました」
「あ……いや。別に……。えっと……学校も、絵も頑張ってな」
「うん。大河くんもサッカー頑張ってね」
「うん……」
改めると特に話すことがなかった。
告げたい想いは山のようにあるけれど、今の大河には言えない。
でも、香葉来がどこか、自立したように思えた。まだ引っこしてもいないのに。
そして。
最後の別れのあいさつに、彼女はこう言った。
「今はさ、無理だけど……一生って長いじゃん。だから、またいつか。大人になった頃にでも。大河くん、真鈴ちゃん、あたしで、クリオネを観に行ったりできるんじゃないかって思ってるの。あたし、往生際が悪いのかもしれないね。えへへっ。でもね、そういう未来、あると思うんだ。約束したから!」
香葉来の健気な本心だった。どこか照れ臭そうな笑みを浮かべていた。
笑う門には福来たる。それは香葉来の常套句だった。
彼女は笑顔が似合う。おれも、最後くらい笑おうか。
「そうだな。いつかきっと」
大河は胸を張ってニッと頬を緩めた。
無責任かもしれない約束だ。
けれど。
そのとき。
『一生友達でいよう』
真鈴の声が頭の中で反響した。
あの日、約束をかわした。
実現できるかは定かではないけれど、あの日、あのとき、3人で約束をかわしたことは偽りではない事実だ。
それだけは、何があっても変わらない。
たしかなものだ。
〈END〉
トラックはその間も駆動音を鳴らし続けていた。
香葉来はまだいるのか。いたからって、おれは何も……。
もんもんと煮え切らない気持ちだけが心に沈殿する。
そのときだった。
ピンポーン。古風な平屋建に似合う音がこだまする。
「あの、大河くん!」
その声に、大河は当惑する。
香葉来だ。どうしたんだよ。
だけどトラックの駆動音を聞くと、戸惑う時間もなさそうだった。
大河は急いで玄関に向かった。
ガラララ。
玄関扉をスライドさせると、ほほえむ香葉来の顔があった。
「大河くん、ちゃんとお別れ言いたかったの。本当に、ありがとう。今までお世話になりました」
「あ……いや。別に……。えっと……学校も、絵も頑張ってな」
「うん。大河くんもサッカー頑張ってね」
「うん……」
改めると特に話すことがなかった。
告げたい想いは山のようにあるけれど、今の大河には言えない。
でも、香葉来がどこか、自立したように思えた。まだ引っこしてもいないのに。
そして。
最後の別れのあいさつに、彼女はこう言った。
「今はさ、無理だけど……一生って長いじゃん。だから、またいつか。大人になった頃にでも。大河くん、真鈴ちゃん、あたしで、クリオネを観に行ったりできるんじゃないかって思ってるの。あたし、往生際が悪いのかもしれないね。えへへっ。でもね、そういう未来、あると思うんだ。約束したから!」
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彼女は笑顔が似合う。おれも、最後くらい笑おうか。
「そうだな。いつかきっと」
大河は胸を張ってニッと頬を緩めた。
無責任かもしれない約束だ。
けれど。
そのとき。
『一生友達でいよう』
真鈴の声が頭の中で反響した。
あの日、約束をかわした。
実現できるかは定かではないけれど、あの日、あのとき、3人で約束をかわしたことは偽りではない事実だ。
それだけは、何があっても変わらない。
たしかなものだ。
〈END〉
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