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爺ちゃん

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村から出て何日経っただろう。

道らしい道がなくなり、僕は森の中に迷い込んだ。

太陽や星で方向を知る知識なんて持っていない。
地図の存在すら知らない。

視える未来だけが頼りだ。
何となく視える風景通りに進んで行くと、怖い魔物に遭遇することはない。

それでも不安になる。

僕が生きていける場所があるのかと。

少し深い森に入ると、白い煙が見えた。
魔物が火を使うことはないと誰かが言っていた。
僕は煙を目指して歩いてみた。

そこには小さな家と小屋がいくつか。そしてずんぐりした小さなお爺さんがいた。

「どうした坊主。道に迷ったか?親と逸れたか?」

「…親に奴隷として売られそうになって逃げてきた。」

正直に答えてみた。

後から爺ちゃんに、痩せすぎていて顔色が悪く、傷だらけで目の焦点も合っておらず、一目で酷い虐待にあっていたと分かる有様で、数日で死んじまうと思った、と言われた。

僕は12歳になるまでの5年間、この爺ちゃんと暮らした。

爺ちゃんはいろいろな知識を僕にくれた。
読み書きも計算も爺ちゃんに教わった。

そして、僕にライトという名前をくれたのも、爺ちゃんだった。

爺ちゃんはドワーフという種族だった。

ドワーフは火の精霊と相性がよく鍛冶を好む傾向にあるというが、爺ちゃんは土の精霊と相性がよく土器を中心に物作りをする変わり者だった。

爺ちゃんの土器はよく売れた。
とても土でできているとは思えない頑丈な作りで、特に鍋は鉄や銅で作った鍋に劣ることがなく、更に土鍋で作った料理はより美味しくできると人気があった。難点は落とすと割れてしまうことか。

爺ちゃんの手伝いで森で粘土を採取したり、家畜の世話をしたり、畑を作ったりした。
定期的に爺ちゃんと近くの村を回り、土器を売ったり、村に来ている商隊に土器を卸したりした。

爺ちゃんは、生まれて初めて僕が好意をいだいた人間だった。
家に爺ちゃんがいなくて、比較対象が無かったのが良かったのかもしれない。

大好きな爺ちゃんだったけれど、その年には勝てず、僕が12歳の時に帰らぬ人となった。

元々森の中で一人で暮らしていた爺ちゃん。

爺ちゃんは自分の死を予感したのか、最近では辺境の町オルグストンに行って自分の生きる道を探せ、と何度も口にしていた。

オルグストンに出発する日、僕は自分の荷物だけ持って家を出た。

爺ちゃんには離れて暮らす子供がいると聞いていたからだ。

村では虐げられ、まともに人扱いされたことのない僕を、5年も育ててくれた爺ちゃん。
そんな爺ちゃんの息子はきっといい人に違いない。
爺ちゃんの持ち物はすべてその人の物であるべきだ。

僕は最後に状態保存と惑わしの術の魔道具を発動させ、爺ちゃんの家から旅立った。



「辺境の町オルグストンに行って自分の生きる道を探せ。」

「継続は力だ。目的のためには忍耐が必要な時がある。辛いくらいなら我慢しろ。けどな、自分の命や大切なものを失わないためになら、逃げていいんだぞ。」

最後に爺ちゃんが僕にくれたのは、2つの予言めいた言葉だった。
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