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準備 5

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狸が黙々と赤い果物を食べている。

確かリイゴの実だったか。
寒い地方で採れる、この辺りでは手に入りにくい珍しい果物だ。
僕は食べたことが無いけれど、甘酸っぱくて、シャキシャキしていて、香りがよくて、とても美味しい上に、病気になり難くなる効能もあると聞いた。

『初めての味だ。旨い。』

狸がしゃべった。
と言っても、念話か?頭の中に声が響いてくるのだけれど。

「気に入ってもらえて良かったよ。大切な実を食べてしまってごめんなさい。」

『別にこいつらが育てて守っているだけで、俺の物ではない。』

そう言って笑った口に、鋭い立派な犬歯が光った。

「あれ?狸なのに犬歯が大き過ぎない??」

『俺は土狼つちおおかみだ!』

・・・見えないんだけど。

鑑定してみるが、種族名すら見えない。
こんなことは初めてだ。
それにどう見ても狼じゃなくて狸だよ。

体のどこもかしこも真ん丸で、鼻と目のまわりと手足としっぽの先が白くて、後はまっ茶色だ。
でも可愛い。
そして話し方はかっこいい。
そのギャップに、思わず笑みが零れる。

何となく惹かれた。
途端、視えた。
この狸と歩いている自分の姿だ。

まわりはぼやけているが、この狸以外にも複数なにかが居る。
食べ物で仲間になってくれるかな?
僕がこの地を離れるまで、時間をかけて交渉してみよう。

『これを持ってきたのはお前か?』

リイゴを食べながら狸が言う。

「はい。僕が土の精霊たちに無断で5色の木の実を食べてしまったお詫びに、種をあげました。」

『そうか。森のじじいの言っていたことは本当だったか。魔素の少ない所でも、こんなに美味しいものがあるんだな。』

狸が僕をじっと見る。

『問題はないようだな。』

・・・なにが?

『森のじじいから、俺たち獣は人族が狩ろうとする対象だと聞いた。けれど例外があるとも聞いた。人と特別な契約を交わしてから契約者と共に行動すれば、俺たちは襲われないと。お前はその契約について知っているか?』

「契約ってテイムスキルのことかな。テイムされた獣魔は、テイムされた印に首輪なんかの魔道具を付けなければならないけれど、それがあれば討伐されることはないよ。テイムした主とだったら、自由に行動できる。」

『そうか。では俺をテイムしないか。土魔法は最上位のものが使えるし、直接的な闘いでも強いぞ。』

この可愛い狸が闘っている姿が想像できない・・・
けれど、嬉しい申し出だ。

「僕でいいなら、喜んで。」

『では、早速契約しよう。』

「テイム。」

モグをテイムした時には現れなかった、眩しく光る大きな魔法陣が現れた。
光が治まると、狸が喋った。

「よし!これで旨いもの食べ放題だ!!」
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