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元樹の話
38話:元樹 パート1
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うだるような暑さの中、昼休みを利用して昼食を食べに出かけた元樹。
たまたま腰かけたファミリーレストランの隣席で、見知った顔に出会った。
向こうもこちらに気付き、笑顔で声をかけてくる。
「あ、世良田さんじゃないですか」
確か山田、といったか。
外資系企業に勤めていた当時の部下の名前を脳裏で反芻し、元樹は無理やり顔に笑みを貼り付けた。
「山田君、だったよね? 久しぶりだな、俺が会社をやめてからだから3年ぶりになるかな?」
「はい。俺の事覚えててくれました。いやぁ~、嬉しいな。世良田さん、今有名人だから」
当時の山田は入社したてで頼りない印象だったが、その社会人慣れしていないフレッシュさに好感を抱いていた。
だが今の山田はずいぶん雰囲気が変わったようだ。元樹は何げなく相手の手元を見て、そこから目が離せなくなる。
その視線に気づいたのか、山田は恥ずかしそうに笑う。
「ロレックスっす。俺、あの会社辞めた後、ホストに転向して。今は歌舞伎町のLEMONってところでナンバー4やってます」
ナンバー1でないところが山田らしいが、高級時計を購入できるほど余裕のある生活をしているのだろう。
「すごいな、お前。頑張ってるじゃないか」
「いやいや、世良田さんほどじゃないですよ。今、通販大手のR社で部長職やってるって聞いてますよ」
「部長っていったって、苦情係のサポートをやってるだけだよ。女の子が客からの苦情電話を受付けて、自分たちで対処できないものを俺のところに持ってくる。毎日毎日客に怒鳴られてばかりで嫌になっちゃうよ」
「大変っすね。でも、大手企業だから将来も安定だし良かったじゃないですか」
「良かったのかね。あのまま会社の不正を暴かずにいたほうが、幸せな生活を送れてたかもしれないのに」
元樹の言葉に、氷の入った水をくゆらせていた山田の腕がピタリと止まる。
そしてひとつため息をつき、言いにくそうに口を開く。
「あのままなら、世良田さん終わってましたよ」
「――え?」
「先輩、当時会社の言いつけでクラブMに通ってたじゃないですか。んでママさんと仲良くなって」
「ああ、結果的にママは会社とグルになって情報を横流ししてたんだよな」
「ええ」
山田は再び水の入ったコップを揺らし、意を決したように言う。
「あれは何かあったとき、全ての罪を世良田さんになすりつけるための下準備だったんです」
「何だって?」
「事件が発覚した時、社長たち言ったじゃないですか。自分たちは知らない部下が勝手にやったことだって。あれ、世良田さんの知らないところで俺たち下っ端にもお達しがきて、みんなで口裏を合わせろって」
「口裏?」
「そうです。世良田さんのPCにスパイの証拠となる情報を入れたり、警察に聞かれたとき世良田さんの様子がおかしかったって証言しろって言われて」
「何だってそんな」
「みんな嫌がってましたよ、でも会社には逆らえないし。会計係の四宮なんて、世良田さんが外国に不正出金していた証拠を捏造しろって命令されてました」
「なんてやつらだ」
元樹は自分の知らないうちにそんな企てが行われようとしていたとは、夢にも思わなかった。
下手をすれば刑務所暮らしだったかもしれない自分の境遇を想像し、ぶるりと寒気が走る。
「じゃあ、俺はママさんに救われたわけだな。ママさんが本当のことを証言してくれたから無実が証明されたんだ」
「ママさんっていうか……進藤仁に救われたんですよ」
「え?」
たまたま腰かけたファミリーレストランの隣席で、見知った顔に出会った。
向こうもこちらに気付き、笑顔で声をかけてくる。
「あ、世良田さんじゃないですか」
確か山田、といったか。
外資系企業に勤めていた当時の部下の名前を脳裏で反芻し、元樹は無理やり顔に笑みを貼り付けた。
「山田君、だったよね? 久しぶりだな、俺が会社をやめてからだから3年ぶりになるかな?」
「はい。俺の事覚えててくれました。いやぁ~、嬉しいな。世良田さん、今有名人だから」
当時の山田は入社したてで頼りない印象だったが、その社会人慣れしていないフレッシュさに好感を抱いていた。
だが今の山田はずいぶん雰囲気が変わったようだ。元樹は何げなく相手の手元を見て、そこから目が離せなくなる。
その視線に気づいたのか、山田は恥ずかしそうに笑う。
「ロレックスっす。俺、あの会社辞めた後、ホストに転向して。今は歌舞伎町のLEMONってところでナンバー4やってます」
ナンバー1でないところが山田らしいが、高級時計を購入できるほど余裕のある生活をしているのだろう。
「すごいな、お前。頑張ってるじゃないか」
「いやいや、世良田さんほどじゃないですよ。今、通販大手のR社で部長職やってるって聞いてますよ」
「部長っていったって、苦情係のサポートをやってるだけだよ。女の子が客からの苦情電話を受付けて、自分たちで対処できないものを俺のところに持ってくる。毎日毎日客に怒鳴られてばかりで嫌になっちゃうよ」
「大変っすね。でも、大手企業だから将来も安定だし良かったじゃないですか」
「良かったのかね。あのまま会社の不正を暴かずにいたほうが、幸せな生活を送れてたかもしれないのに」
元樹の言葉に、氷の入った水をくゆらせていた山田の腕がピタリと止まる。
そしてひとつため息をつき、言いにくそうに口を開く。
「あのままなら、世良田さん終わってましたよ」
「――え?」
「先輩、当時会社の言いつけでクラブMに通ってたじゃないですか。んでママさんと仲良くなって」
「ああ、結果的にママは会社とグルになって情報を横流ししてたんだよな」
「ええ」
山田は再び水の入ったコップを揺らし、意を決したように言う。
「あれは何かあったとき、全ての罪を世良田さんになすりつけるための下準備だったんです」
「何だって?」
「事件が発覚した時、社長たち言ったじゃないですか。自分たちは知らない部下が勝手にやったことだって。あれ、世良田さんの知らないところで俺たち下っ端にもお達しがきて、みんなで口裏を合わせろって」
「口裏?」
「そうです。世良田さんのPCにスパイの証拠となる情報を入れたり、警察に聞かれたとき世良田さんの様子がおかしかったって証言しろって言われて」
「何だってそんな」
「みんな嫌がってましたよ、でも会社には逆らえないし。会計係の四宮なんて、世良田さんが外国に不正出金していた証拠を捏造しろって命令されてました」
「なんてやつらだ」
元樹は自分の知らないうちにそんな企てが行われようとしていたとは、夢にも思わなかった。
下手をすれば刑務所暮らしだったかもしれない自分の境遇を想像し、ぶるりと寒気が走る。
「じゃあ、俺はママさんに救われたわけだな。ママさんが本当のことを証言してくれたから無実が証明されたんだ」
「ママさんっていうか……進藤仁に救われたんですよ」
「え?」
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